異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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123「ファネルの街、迂回」

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「そういやまだ街あるんすね。ぶっちゃけ嫌な予感しかしないんすけど」

「私もだ」
『それがしも』
『右ニ同ジ』

 もちろん僕もです。

「そこのところ、どうなんですか?」
「なんだ、我に聞いているのか?」

 偶然とは言えファネルの街まで行ってきたんですから、当然パンチョ兄ちゃんの話を聞かない訳にはいきません。

「はっきり言って覚えておらん。確かにファネルの街を見た。中にも入った。しかし入ってすぐに二人の少年に出会うたのだ。その片割れは昨夜のイギー、もう一人も同じような少年であった」

 恐らくはアギーさんでしょう。他にも少年のような有翼人がいるのかも知れませんが。

「ただな、それからの記憶はぼんやりとしか残っておらん。ところどころで確かに記憶はある。イロファスに着いてからの記憶は比較的はっきりとあるが――ぉぅうえぇぇぇえ、それ以前のことは朧げで曖昧な記憶しか残っておらん」

 その一度の接触の際に神の影オギーさんに取り憑かれたと。そしてタロウに口付けしたくだりを思い出してしまわれた様ですね。

 パンチョ兄ちゃんに話を聞いた上で決をとります。

「迂回した方がいいと思う人」 

 全会一致で決定しました。
 迂回です。

「この先もまず間違いなく襲われるだろう。しかしイギー達に襲われるのは構わんが、村人らに襲われるのは勘弁して欲しい」

 ロップス殿の言う通り、あれは辛いものがあります。僕らさえ通らなければ、イロファスの住民たちは殴られる必要もありませんでしたから。


 大きく日数を割かずにファネルの街を迂回するとすれば二通りです。
 街の東回りか西回りか。

 ファネルの街の東はガゼル領との境となる湖に面した森、西はタイタニア領から続く山脈の終点にあたる岩場です。

 仮にまっすぐ北を目指せば、三日でファネルの街、さらに三日でファネル様のお屋敷のトータル六日程度。
 東回りなら十日ほど、西回りなら八日か九日。

 ただし、これらは全て小走りで行った場合です。東回りだと木々が邪魔して走りにくいですからもう二、三日余分にかかるでしょう。

「なら西回りの一択っすね!」

 まっすぐ北ならアギーさん達が待ち受けているでしょう。裏をかいて接触する事なくファネル様の下へ辿り着けたり……は甘いでしょうか。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 またしても大地が鳴動しています。

「ちょいちょいあるこの気持ち悪い振動って、やっぱ昨日のアレのせいっすか?」
「恐らくそうでしょう。九月末まで残り二十日ですが、ファネル様の寿命以上に不安です。一日でも早く辿り着かねばなりません」



 翌早朝、夜明けとともに出発です。

「いざ行かん! 師の下へ!」

 シレッとパンチョ兄ちゃんが参加しています。

「パンチョさんも一緒に行くんすか?」
「なんだ、嫌なのか?」
「別に嫌って事はないっすけど」
「しょうがないではないか。どうやら我は方向音痴、一人で辿り着ける気がせんのだ」

 今まで気づいてなかったことに驚きですが、ご一緒した方が絶対的に良いでしょうね。



 小走りで丸一日進んだところで野営です。あえてパンチョ兄ちゃんは走り、ロップス殿がプックルに乗って進みました。

「パンチョさんて身体強化なしで走ってたんすか?」
「なしだ。我ほどにもなれば肉体のみでも、あの程度の速度なら余裕だわ」

 こんな丈夫な人族の老人は他にはいないでしょう。人族最強というのも強ち間違いではないかも知れませんね。

「なんと言っても道に悩まなくて良いしな。楽なものよ」

 方向音痴が一番の大敵のようですね。



「明日からは半日ほど山を登りつつ真西に進みます。そしてその後は北へと進路を取ります」
「斜めに進んだ方が速いんじゃないのか?」
「急斜面になるので逆に時間が掛かってしまいます。なだらかな斜面を選ぶとこのルートになってしまうんですよ」
「だとすると……待ち伏せしたい放題だな」



 ロップス殿の言う通り、待ち伏せについては用心しなければなりません。
 以前ウギーさんから伺った様に、全体であと十五人程度のうち、ファネル領には数人の有翼人が集まっているとの事でした。

 ミウ村、イロファスの町、これらの住民を操って僕らの警戒心を刺激して迂回させ、そこを襲撃する策。
 その可能性も充分に考えられます。

 イギーさんはともかく、アギーさんとは二度しかお会いしていませんしロクに話す機会もありませんでしたが、常に先を見据えているという雰囲気がありました。

「待ち伏せの可能性も考慮しつつ、しかし慎重になり過ぎない様に急ぐしかありませんね」



 と、色々と考えて進んだんですけどね。
 拍子抜けするほど何事も起こりませんでした。

「これはどういう事なんだろうな?」
「迂回して見つからんで済んだんじゃないっすか?」
「もしかしたらそうかも知れませんし――」
『ファネルノ、トコデ、待ッテル、トカ』

 ゴールは決まってますからね。
 ゴール前での待ち伏せ、それが濃厚でしょうね。


 すでに山の傾斜も下り終え、急げば明日中、しかし魔力の消耗などを考えて、明後日にはファネル様のお屋敷が見られるでしょう。
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