異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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115「ミウ村は素通り」

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 休憩を兼ねての、ウギーさんからの聞き取りが終了しました。

 今後進むに当たって重要な内容を纏めます。

・有翼人は僕らが出会った以外にあと十五人ほどは来ているそうですが、ファネル領に集まっているのはせいぜい数人。

・『神の影』は居てもあと一人か二人。

・この世界を破壊する目的は無く、五大礎結界の維持はアギーさん達にとっても重要。

・目的はタロウを魔術による・・・・・ものではない・・・・・方法で操る事。

 こんな所でしょうか。


『タロウを操ってどうするのかは僕も知らないんだ。知ってても言わなかったかも知れないけど』

 僕の左手の中でウギーさんが言います。

「本当に知らないんすか?」
『なんとなくイメージは湧くけど、曖昧な事言って違ってたら悪いし、当たっててもアギー達に悪いし』

 まぁ、微妙な立場ですしね。無理強いもしたくありませんし。


「ところで、パンチョと言う名の丸顔の老人を見ませんでしたか?」
『丸顔の老人? いや、僕は見てない。なんで?』

 パンチョ兄ちゃんと別れたのは七月の中旬、あと二日で九月ですからほぼ一月ひとつき半。
 何事も無ければファネル様の下へとっくに辿り着いている筈です。

「知り合いの騎士が一足先に向かっているので心配しているんです。気さくな方ですが、正義の心に篤い方なので民にとっての悪には好戦的になりがちでして」
「あと、割りとおっちょこちょいっぽいすね」

『おっちょこちょいで気さくで好戦的な正義の丸顔老人……。なんか面白そうな奴だね。会いたいな』

 豪快に迷子になって北に向かえていない可能性も無くは無いですけどね。





 ミウ村はすぐそこなんですが、少し距離のあるここでこのまま野営にします。

 日暮れが近いのと、あれほどの激戦であったにも関わらず、村人がこちらを伺う気配が見られなかったのか気に掛かりますから。

「お前はミウ村から来たんだろう? どんな様子だったんだ?」
『いや、覚えてないんだよ。自我を失ってたからさ。タロウにボカボカ殴られたのは何故か覚えてるけどね』

 ウギーさんとアンテオ様はミウ村の入り口付近に佇んでいました。
 フォネル領から来て、ただ通り抜けただけかも知れませんが、なんとなく嫌な予感がします。

「村人みんなが包丁持って襲ってくるとかっすか?」

 嫌な事をはっきり言いますね。

「ええ、そういうケースも有り得ると考えます。魔獣を連れていませんでしたので、エビアン村の惨劇の再現はないだろうと思いますが」





 翌早朝、ミウ村へ向けて歩き始めました。

『ヴァン、魔力はどんなだい?』
「早目に寝ましたからね、なんとか回復しています」

 精魔術結界の維持にそこそこ魔力を奪われています。
 何もしなくても魔力が減るのは父の呪いと同じですが、消費量はまだマシです。
 それに、他の魔法などに使う魔力量についてですが、呪われていた時は何故かいつもよりも魔力消費が多くなっていましたが、現在はいつもと同じようですね。

『迷惑かけて悪いね』
「いえいえ。あのまま暴れられた方が困りますからね」

 他の有翼人の方々もウギーさんのようだったら良かったんですけどね。





「ひっそりしてるっすね」
「まだ朝も早い、寝てるんじゃないか?」
「それにしたって静か過ぎですね」

 タロウ達を後ろにし、ロップス殿と二人で先頭を行きます。

「あ、第一村人発見っす」

 村の入り口を入ってすぐ、タロウが言う通り村人がいらっしゃいました。

「なんだ。起きてるではないか」

 他にもチラホラと村人の姿が見えますが、相変わらずひっそりと静まり返っています。

 おはようございます、と声を掛けても反応がなく、近づいてみてもこちらと目が合うどころか全く反応がありません。


「なんだと思う? やはりイギーか?」
「恐らくそうでしょうね。とにかくタロウが言ったように包丁を持って追いかけ回されたり、と言った事もありませんし、速やかに通過しましょうか」

 本当は小麦粉を調達したかったんですが、譲って頂けそうにはありませんね。

 中央の通りを真っ直ぐに北を目指し歩く間にも村人とすれ違いましたが、皆一様に虚ろな目をして日常的な生活を送っているようです。

「結構怖いすね。あんなボンヤリした目で井戸水汲んだり普通にしてるんすもん」


 生気のない村人しか居ない点を除けば、特に問題なくミウ村を通過できました。
 昨日はかなり大きな音を立てて戦っていましたが、この状態ならば村に反応がなかったのも頷けますね。


「これはどういう事なんだ? わざわざ村人を操って、操っておるのかどうかも良く分からんが、襲って来もせんとは」

 ロップス殿の疑問ももっともです。

『ほら。あの頃は新しい礎を始末すれば良いと思ってたんだよ。僕もそのつもりだったし』

「僕の事を新しい礎だと思ってた頃ですね」
『そうそう。でも殺しちゃマズイらしいってアギーが言い出したんだ。ヴァンのお腹から下が無くなってた頃にね』

 ウギーさんが僕のお見舞いに来た後くらいでしょうか。

 しかし一つ疑問が残りますね。

「では何故、村人の正気を奪ったのだ?」

 そう、それです。

『さぁ? 今度イギーに会ったら聞いてみてよ』
「使えん奴だ」

 ウギーさんが使えるか使えないかは分かりませんが、イギーさんは迷惑な人ですね。


 お陰で小麦粉が買えなかったじゃないですか。
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