異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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114「感傷に浸るのはお終い」

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 タロウ達が竜の因子を覚えていないという事実によって、アンテオ様の最期という展開からシリアスが吹き飛んでしまいました。

「……そうか。叔父上は明き神に力を返したのか」

 良かった。
 ロップス殿だけは覚えていてくれた様子です。

「ん? あ? あぁ! 竜の因子! それ確か俺も持ってるやつっす!」

 ジトっとタロウを見つめます。

「……いや、あの、冗談っす。ちょっとでも和ませようと……」

 気持ちは分からなくもないですが、もうちょっと空気を読みましょうね。

「確かガゼルの街の神父だったな」
「ええ」
「明き神とはこの世界であり、この世界は明き神である。……叔父上はこの世界と共にある事を選んだんだな」

 先程までアンテオ様を抱えていた両手で、そっと大地に触れたロップス殿がそう呟きました。


 ロップス殿は気付いているでしょうか。
 胸を斬り裂かれた後、アンテオ様の右眼が開いていた事を。

 以前ロップス殿が抉った右眼、完治していました。しかし開かないフリをされていた様ですね。

 わざわざ伝える必要もないと思いますので余計な事は言いませんが。



 しばらくの間そうしていたロップス殿が立ち上がりました。

「よし、感傷に浸るのはおしまいだ。ウギーはそこに居るのであろう?」

 ロップス殿が僕を見つめて言います。

「はい。ここに」

 左の甲をロップス殿へと向けて示します。

『やぁ。久しぶりだね、トカゲマン。魔力の棒、上手に作れてたじゃん』

 僕へと歩み寄ったロップス殿がいきなり、バチン! 僕の左手の甲を叩きました。

 痛いです。

阿呆あほう! やぁ、久しぶり、じゃないわ! 何故イギーが潜んでいるのを先に言わない!」
「そうっすよ! そしたら俺もあんな凄いの喰らわんで済んだんすよ!」

 確かにそうですね。
 ウギーさんを精魔術結界に捕らえてからイギーさんの登場まで、少しは時間がありました。

『そんな事言ったって、僕はお前たちの仲間じゃないもん』

 それも確かにそうなんですよね。
 ウギーさんが口を開いたのは、ロップス殿が魔力棒を作り出した時と、プックルの強クナル魔法の時だけです。

 どちらも直接は戦いに影響しない発言ですね。

「……まぁ。それもそうか」
『解ってくれて嬉しいよ。やっぱフェアじゃないもんね』

 ロップス殿が頷いて理解を示しますが、タロウは納得の行かない顔をしています。

「ではそれを踏まえた上で、今まで何をしていた? お前たちの目的は何だ? 教えてくれるか?」
『良いよ。話せる範囲でね』



『今まで何をしてたかについては簡単さ。何にもしてないからね』

「はぁ? そんな事あるまいよ。お前たちの目的とやらがあるんであろう?」
『本当だってば。僕は北の地で獣たちと遊んでただけだよ』

 本当でしょうか?
 なんとなくウギーさんだけが遊んでたんだと思ってしまうんですが。

「そうか、分かった。アギーとイギーが働いてお前だけ遊んでたな?」

 ロップス殿が同じ考えだった様です。

『ま、確かにアギーは遊んではなかったけどね。特に働いてるって事はなかったよ』

「イギーは遊んでたんすか?」
『アンテオとなんかしてたよ。あの二人、割りと仲良かったからね』

 ロップス殿の表情が僅かに歪みました。涙を堪えているのがバレバレです。
 別に泣いても良いと思いますが、男の子ですからね。気持ちは分からなくないです。

『あ、そうか。遊んでたんじゃなくて、さっきやってたアンテオの影に潜むやつとか試してたのかも』

 仲良くやっていれば遊んでる様に見えたかも知れませんね。

「なんで何にもしてなかったんすか?」
『だってタロウが四つの証を揃えてなかったから。襲ってもしょうがないから何にもするなって、アギーが』

 そうでしたか。
 イギーさんが言っていた、しばらくは襲わない、とはそういう意味でしたか。

 証を揃えた今、タロウを乗っ取るべく早速の襲撃だった訳ですね。


「で、まぁ僕は遊んでたんだけど、不意を突かれてイギーに目玉食べさせられたのさ。僕がヴァンたちやこの世界の獣たちを殺すのに乗り気じゃないのバレてたみたいだね」

 イギーさんが仰っていた通り、僕の魔力を削るのに利用されたと。
 ウギーさんの不意を突いたイギーさんが凄いのか、ウギーさんが遊び過ぎて油断していたか、どちらでしょう。

 イギーさんとまた対峙する事を考えれば後者の方がいいんですけどね。



「ところで、アギー、イギー、ウギーの順で強いんすか?」
『え? なんで?』

「いやね、俺が居た世界の言葉って、ア、イ、ウ、エ、オ、カ、キ、って順番が……」

 タロウが懇切丁寧に説明しています。

『え? タロウってこの世界の人族じゃないの?』
「あれ? 知らなかったすか?」

 そう言えば誰も言ってないかも知れませんね。こちらから敢えて言うような事ではありませんから。

『へぇ、そうだったんだ。魔力が多くておかしな人族、って認識だったよ』

 まぁ、概ね合っています。

『さっきの質問だけど、大体そうだね。僕とイギーが戦えば割りと良い勝負だけど、ちょっぴりイギーの方が強いかな。アギーは全然ダメ、ダントツ強い』

「ダントツ弱いのは?」
『ワギーだね』
「当たってたっす!」


 ウギーさんの声から諦めの様なものを感じました。
 父の呪いに掛かっていた頃とは言え、ウギーさんにボロボロにされた僕たちですが、アギーさんと戦えるんでしょうか……。
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