異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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99「プックル、暴走」

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「とにかくブラムの城まで急ぎたいと思います」

 先日父の城からタイタニア様の下までは二十日弱かかりました。
 およそ半分の十日を目標にして向かいましょう。

「みんな、少し大変ですが全行程を走って進みましょうか」

 おー! と、みんなが返してくれました。
 旅も終盤戦、父さんも起きてようやくゴールが見えてきました。

 依然としてアギーさん達の思惑が掴めない点は不安ですが、尻込みしている時間的余裕もありませんからね。

 突き進むのみです。



 数日間、日中は走り続けました。

 アンセムの街でパンチョ兄ちゃんからプックルを譲り受けた頃は、タロウの足がネックになると思われましたが、ただ走るだけなら今やタロウが一番速いです。

 溢れる膨大な魔力で身体強化と体力回復を行い続ける異常な走法ですが。

「オリンピックの陸上全種目で金メダルも余裕っすわ!」

 などとのたまっていますがなんのことかサッパリです。


 僕とロボとプックルは同じぐらいですが、プックルは鼻歌混じりで走っていますからまだまだ速く走れそうですね。

 そして、どうしてもロップス殿が遅れてしまいます。

 ロップス殿の走り方も異常ではあるんです。

 右脚と左脚が地を蹴る度に、交互に・・・魔力を籠めて走っています。
 あれでよくあんな速さで走れるなと感心してしまいますが、魔力消費が無い代わりにあの忙しすぎる魔力操作には集中力も体力も必要です。

 長時間走れる訳がありませんね。


 夕食時、一つの提案をしました。

「プックル、ロップス殿を乗せて走ってくれませんか?」
『良イ。ロップス、頑張ッテル。ケド、遅イ』

「いつか言われると思っていたが、遂に言われたか!」
「ロップス殿も良いですね?」
「良いも悪いもない。悔しいが足は引っ張れん」


 翌日からはロップス殿にはプックルに乗って貰いました。

「プックルすまん。よろしく頼む」
『余裕。任セロ』

 さらにスピードアップしました。これなら十日で父の所まで着けるでしょう。

「プックル楽しそうっすね!」
『プックル、誰デモハ、乗セナイ。デモ、誰カ乗セテ走ルノ、好キ』
「プックル! 可愛いやつ!」

 ロップス殿が感極まってプックルの首に抱きついています。

『ロップス、クスグッタイ』
「たまには良いではないか。ねぎらわせてくれ」

 嫌な予感がしますが……。

「ちょ、ロップス殿、モフモフは――」
「これはなかなか。モフり甲斐のある毛足――」

『ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!』
「ぬな!? うぉぉぉぉ!?」

 プックルが猛烈に地を蹴り走り出しました。

 ああ、久しぶりにやってしまいましたか。
 完全に置いていかれました。独走態勢です。このままではモフモフ事故の再現ですよ。

「タロウ! ロボ! 追いかけますよ!」
「了解っす!」
『分かったでござる!』



 お、追いつけません。
 それどころか徐々に差が広がっているようです。僕とロボには追いつけそうにありません。

「タロウ! 先に行ってください! きっとロップス殿は落ち着かせようとモフモフを続けているんじゃないかと思います。なんとか止めさせてください!」
「なるほど、逆効果っすね。そういやロップスさん知らなかったんすね」

 そう言ったタロウも速度を上げました。僅かですが、ロップス殿を乗せたプックルよりタロウの方が速いようです。

「何とかお昼頃までに追いつけると良いんですが……」
『昼を過ぎるとどうなるでござるか?』

「考えたくありませんが、あの速さで昼過ぎまで走ると、ボルビックの町にぶち当たります」
『……考えたくないでござるな……』




 取り急ぎ結果だけ言うと、ボルビックの町は無傷で存続していました。

 プックルのモフモフ暴走のお陰で。

 何を言っているか分からないと思いますが、モフモフ暴走が無かったら危なかったそうです。


 昼を過ぎて、ようやく僕らがボルビックの町が見える所まで辿り着いた時、町は大騒ぎでした。

 騒ぎの原因は魔獣。
 決してプックルの事ではありませんよ。

「けっこうヤバかったんすよ。あのまま走ったらボルビックの真ん中に新しい道ができるとこだったっす」
「ああ。私はもうダメだと思った」

 タロウとロップス殿が詳しく証言してくれました。

「俺ちょっと間に合わなかったんすよ。んでももうダメかと思ったら、いきなりプックルがちょっと左に向き変えてそのまま爆走っすよ」
「我々を警戒する笛の音が鳴り響く中だった」

「で町の北に行ったらそっちもピーピピ笛鳴ってんすよ」

 いま僕らがいる辺りですね。
 そこには胸に大穴を開けたり首から上を失ったり、割りと無残な姿のマユウの死体が数頭分転がっていました。

「この黒い大ヤギは強いんだのぉ」

 町長です。チノ婆と呼ばれていたおばあさんもいらっしゃいますね。

「北から現れた熊の魔獣どもに警戒しておったらな、今度は西から山羊の魔獣が現れたと聞いてな。もうボルビックはお終いだと覚悟したものさ」

 しかしロップス殿を乗せたプックルの登場で急展開。
 プックルは走る勢いのままマユウの群れに突っ込んで、前足の蹄でマユウの胸目掛けて蹴り、ドォンと音を立てて背中から弾け飛ぶマユウの肉。

 鳴き声に魔力を籠めた霊力砲を放ち牽制し、飛び込んでさらに蹴り。
 途中からはロップス殿もプックルの上で剣を抜き放ち参戦。

 人馬一体となりマユウを蹴散らしたそうです。

「俺、結局なんもしてないっすもん」

「大山羊殿と竜人殿にはいくら礼を言っても足りぬよ」
「こないだはスマンかったなぁ。ありがとうなぁ」

 町の若者の背に負ぶわれたチノ婆がプックルの背を撫でて感謝を伝えています。
 鬼気迫る戦い方だったというプックルは、今は我関せずと草をんでいますが。
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