127 / 185
95「精霊術」
しおりを挟む「ね? 言ったとおりでしょ?」
タロウの胸の白く塗り潰された証、最も安堵の表情をしたのはタイタニア様でしたけどね。
「白っすかー。赤だったら緑と黄色とで信号かーい! って言おうと思ってたんすけどねー」
タロウがぶつぶつ言っていますが、よく分からないので放置しましょう。
「セイ、レイン、ロボの精霊術の方はどうなの?」
精霊術?
聞き慣れない言葉ですね。
「はい! ロボの精霊力操作に淀みなし!」
「なので基本の三つの陣を教えましたわ!」
「そう、ありがとう。で、ロボ? 上手く使えた?」
「……それが。……覚えられんでござるよ」
そうですか。
この三日間のトレーニングではマスター出来ていませんでしたか。
「……基本の三つなのよね?」
「基本の三つですよ……」
「『守護』『慰撫』『細工』の三つですわ」
「え? しゅごいぶさいく? それなんの悪口っすかー!」
チラリとタロウの方を見て、それを無視するタイタニア様。
「確かに基本の三つ、おかしいわね……」
タイタニア様とセイ、レインが苦虫を噛み潰したような顔ですね。
「何か問題が?」
「問題と言えば問題……でも試してみましょう」
タイタニア様に促され、みんなで外に出ようとしましたが、挙手したタロウが声を上げました。
「すんません! お腹空いて死にそうなんす! あと眠くて倒れそうっす!」
「……あ、忘れてたわ。この三日、一睡もしてないし食事もさせてないわ」
……どんだけ夢中だったんですか……。
青い若さがほんと眩しいですね……。
簡単にですが、とにかく量は多めの食事を準備しました。
タイタニア様はじめ、精霊は食事は不要との事で、精霊チーム三人はホールの端に集まって何事か相談されています。
みんな小さいんで可愛らしいですね。
ガツガツと食事していたタロウが、お腹が膨れたのか、バタンとテーブルに突っ伏してイビキをかき始めました。
「……三日間も不眠不休で無我夢中になれるものなのか……」
ロップス殿が強い関心を示していますね。
気持ちはわかりますが、こればっかりは縁ですからね。
「さぁ! みんな外に出るわよ!」
『タロウ、寝テル』
「放っておきなさい! もうタロウの用は済んだわ!」
フワフワと浮かぶ精霊三人に続いて、ぞろぞろと並んで外に出ました。
タロウはテーブルに突っ伏したままです。
「セイ、守護の陣を、少し大きめに描いて」
「はい!」
元気良く返事したセイが、小さい体を大きく使って精霊力を籠めた指先で宙空に陣を描いていきます。
大きな円の中にもう一回り小さな円、その中に収まる大きさの三角形、さらに三つ四つと線を描き込みました。
「霧散も発動もさせないで維持しなさい。ロボ、見ながらで良いから小さいのを描いてみて」
『がぅ……分かったでござる』
ロボも精霊力を鼻先に集め、たどたどしいながらも精霊力陣を描いていきます。
『ど、どうでござろうか?』
「……一応、守護の陣の体裁は整ってるわね。そうね、ヴァンに向けて発動してみてちょうだい」
え? 僕ですか?
まぁ名前からして攻撃系のものではないでしょう。堂々と受け止めるとしましょう。
尻込みするとカッコ悪いですからね。
「ロボ、良いですよ。いつでもどうぞ」
『ではいくでござる! 精霊の守護!』
ロボが唱えるとともに、シュッと精霊力陣が縦に細まり消え、同時に僕の体を覆うとても薄い膜が現れました。
「これは……! ……結界、ですか?」
「正解。簡単に言えば『守護』は結界の力よ」
「では他の……ええと、なんだった?」
「確か『慰撫』と『細工』でしたか」
「『慰撫』は癒しの力、『細工』は精霊力を加工する力よ」
『やっぱりタイタニア様の力は癒しの力でござるな』
「いえ、ワタシの精霊術は守護の力、『守護』も『慰撫』も『細工』も、誰かを護る力だわ』
精霊術とは、魔法というよりも魔術の様に自由度の高いものの様ですね。
「とにかく出来たじゃない! やったわね!」
タイタニア様が仰る通りいきなり成功しましたね。ウチのロボは出来る子なんです、よ……?
ロボとセイとレインが顔を見合わせ苦笑いです。何か問題でもあるんでしょうか?
『見ながらだと出来るんでござるよ』
「……どういうこと?」
『お手本を見ながらじゃないと陣が描けんでござる。覚えられんでござるよ』
ああ、覚えられないって陣の形が覚えられないっていう意味でしたか。
『それがし、あんまり頭が良くないみたいでござる……』
「そう……。狼にしては相当賢いと思うけど……、ロボ、貴女いくつなの?」
『それがしは十歳でござる』
腕を組んで何か考えるタイタニア様。ロボをジッと見つめています。
「確か、レイロウは十歳で成人だっけ?」
『そうでござる』
「その、少し気になったんだけど、その首輪……」
『これはヴァン殿がくれた婚約首輪でござる! それがしの宝物でござるよ!』
バッ! とタイタニア様が鋭い視線をこちらに向けました。
ちょっとビクっとしました。
「そう。ヴァン、貴方見る目があるわね。ロボの身内としても嬉しいわ」
さらに腕を組んで何か悩んでおられますね。
「今夜からはロボ、貴女がワタシと寝なさい」
ええ?
タロウの次はロボですか!?
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる