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90「髭モジャのムキムキ」
しおりを挟む「こんなに可愛いですやん! プックルもロボも!」
ボルビックから半日ほど離れた先で野営です。
タロウの憤りも分かりますけどね、しょうがありませんよね。
「またその話か。もういい加減にしろ、タロウ」
『そうでござる。色んな人がいるでござるよ。みんな違ってみんな良いでござるぞ』
まだ十歳のロボの方が大人ですね。
お忘れかも知れませんが、レイロウは十歳で成人らしいのでロボも大人なんですけどね。
「でもだからってあんなにビビらんでも良くないっすか?」
「しかしああ言われたらしょうがないでしょう? 押し通って村に入る程の用事もないですし」
「……まあ、そっすか、そういや用事ないすね」
当時の様子を知るという老婆、おそらく先程のチノ婆と呼ばれていたお婆さんでしょう、彼女の話には興味がありましたが、大体はパンチョ兄ちゃんから聞けましたしね。
「食糧もありますし、みんなすっかり野営にも慣れたものでしょう? 良いじゃないですか、機嫌よく先を目指しましょう」
「おす! 分かったっす!」
それから十日と少し、明るい内は歩き、夜は食後に各々の訓練を少し、いつも通りの旅を続けます。
森を抜け小さな川を二つ越えて、八月に入った頃タイタニアの街が遠くに見えてきました。
「ブラムとーちゃんの城からこっち、平和っすねー」
「ただの魔獣程度では体が鈍っていかんわ」
食糧確保にちょうど良い程度には魔獣との遭遇があって、僕としては大変助かっています。
だって皆さん良く食べるんですもん。
「それこそ『神の影』とやらが入り込んだ魔獣であれば戦い甲斐もあるのだがな」
「それって数倍から十倍強くするってやつっしょ? それはちょっと遠慮したいっす」
僕も遠慮したいです。
倒しても食糧に回せるかどうか分かりませんし。
「しかしな、ただのマロウが十倍の強さになったとしても、あのナギーやウギーなんかより強くなると思うか?」
「……思わんすね。ウギーの方が断然強いっす」
「であろう。なら少しでも強い相手と普段から戦わねばなるまいよ」
一理ありますね。
ただ、昏き世界から来た神と共に現れた『神の影』は駆逐されています。出会う事はないでしょう。
あ、今気づきましたが、アギーさん達と共にこちらに来ている可能性があるかも知れません。
『神の影』とはどういった存在なんでしょう。今度タイタニア様に伺ってみましょうか。
「着きました、ここがタイタニアの街です」
「街……っすか? これ村じゃないんすか?」
アンセムの街とは比べるべくもなく、ボルビックの町よりもさらに侘しい、どちらかと言えばペリエ村の様な雰囲気です。
「落ち着くっすねー」
「僕もそうですね」
衛兵どころか門や塀さえありません。
「いらっしゃい、旅の方」
背の小さな男性に声を掛けて頂きました。
「こんにちは。タイタニア様の下へ伺う途中なんですが、確かこちらには宿屋といったものは無いんでしたっけ?」
最後に訪れたのは地図作りの際の三十年ほど前、確か宿屋はなかったはずです。
「無いなぁ。街とは言うけど、完全に自給自足の小さな農村だ。宿なら街長の所で泊めてもらうと良い」
男性にお礼を告げ、街の中心部を目指します。
「ねぇヴァンさん、さっきの人めっちゃ背低いっすね」
「彼は精霊の血を受け継いでいる人族の様ですね。ここタイタニアの街には彼の様な人が多くお住まいですよ」
タロウが怪訝な表情、というか納得の行かない顔、というんでしょうか、様子がおかしいですね。
「どうかしましたか?」
「いや、別に良いんすけどね、精霊ってもっとこう、なんてーんすか? 小さくて可愛いとか美しいって感じちゃいますのん?」
「? 精霊でしたらそうですね。可愛いとか美しいは個人の感覚なので一概には言えないと思いますが」
「だってさっきのおっちゃん、小さいすけど、髭モジャのムキムキですやん!」
ああ、そういう意味でしたか。
「混血ですからね、色々ですよ」
「ドワーフってんですかね。そんな感じのおっちゃんだったんで精霊もあんな感じなんかと思ったっす!」
どわーふ、と言うのはこちらには無い言葉ですね。
「この街には精霊は住んでいませんよ。タイタニア様のお屋敷か、その周囲の森にお住まいですね」
「じゃあまだ期待して良いんすね!?」
「そうだ。期待して良いんだな!?」
ロップス殿まで加わりましたか。
若いって素晴らしいですね。
「良いんじゃないでしょうか」
出来るだけ、僕は興味ありませんよ、という風に聞こえる様に努めて平静に。
ロボの視線が痛いですからね。
街長のお宅で泊めて頂きました。
アンセムの街長と違って寡黙な方でした。
「街長さんは『五英雄の誰推し』なんすか?」
随分と久しぶりの話題ですね、それ。
「特にありませんが、誰かを挙げるならタイタニア様ですね。タイタニアの街の街長ですし」
アンセムの街長にも見習って頂きたいですね。
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