異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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85「十分に苦しみましたか」

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「うるさいうるさい! ウギーと比べるな! ボクの方が優秀なんだよ!」

 怒鳴り散らしたイギーさんが突っ込んできました。

 肉弾戦はこちらに分が悪いですからね。やや離れて戦いたいところです。

「業火球!」

 命中しましたが怯みません。爆炎を抜けてそのまま突進してきます。

「こんなものが効くか!」

「……闇の棘」

 走る二ギーさんの足裏を狙って鋭く尖る棘を出しました。
 足を取られたイギーさんが、ビタンと地に転がりました。

「く、くっそこんなつまらない魔法で!」

「風の刃の嵐!」

 名付けはタロウ、以前タロウがやったのを真似しました。
 両腕から、両足から、背から、ありとあらゆる所から刃を出します。さらに同じ所からまた出します。

「ぐぅ! ぐが! ぐががががが!」

 風の刃で魔装を削り、さらに削った所を風の刃が襲います。襲い続けます。

 さらに風の刃。まだまだ風の刃。それでも風の刃。

「ぐがが……、ぎゃ、あぁぁぁ――」

『ヴァン殿、マロウが二頭とも逃げてったでござる』

 風の刃を止めました。
 マロウを操っていたのは二ギーさんでしたか。

 二ギーさんに近寄ります。

「十分に苦しみましたか?」
「……もう、勘弁して、くだ――」

 頭と胸、核が有りそうな所以外・・を狙って放ち続けました。
 細切れになった二ギーさん、頭と胸以外はズタズタです。
 もう十分に苦しんだでしょう。
 一思いに頭を闇の棘で貫いてあげると、体がザァっと音を立てて崩れ去りました。


 残るはヌギーさんとネギーさんですか。
 もう必要ないので《俯瞰する瞳》を消し去ります。

 ロボ達の下へと合流しましょう。

「ほんの少し目を離してたんですが、タロウ達はどうですか?」
『押してるでござる』
「使者どのはともかく、あいつどうしたんだ? 魔法使えなかったんじゃないのか?」

 そういえばタロウとパンチョ兄ちゃんは前に握手してましたね。
 魔法使えない同盟、でしたっけ。

「すっかり魔法使いじゃないか。あの裏切り者めが」



「ロップスさん行くっすよ!」
「おうさ!」

 タロウが声を掛け、ヌギーさんかネギーさんか分かりませんが、片方を目掛け魔法を放ちました。

水と雷みずとかみなり!」

 ヌギーさんかネギーさんか分かりませんが、その片方の周囲にタロウの両掌から迸った帯電した水が撒き散らされました。

 僕も見せた事のないいかづちの魔法を水の魔法に組み合わせた複合魔法の様ですね。

 前から思っていましたが、タロウはああいうセンスに極端に優れていますね。

「ヌギー! ボク動けないよ!」
「ネギー、飛び越えてこっち来い! このトカゲ人間も強いんだから!」
「もうビリビリ嫌なんだもん!」

 雷を帯びた水に囲まれた方がネギーさんですか。すでに雷を喰らっていたようですね。

「はぁぁ!」

 刀を抜いたロップス殿がヌギーさんに肉迫します。

「もうヤケクソだぁ!」
 ヌギーさんが爆発する様な勢いで魔力を放出し、その魔力を纏いました。
 二ギーさんのそれよりもさらに粗い《魔装》を具現化していきます。

「遅過ぎる! 真・烈風迅雷斬しん・れっぷうじんらいざん!」

 ロップス殿の振るう刀がヌギーさんが纏う魔力を削ぎ落としていきます。《魔装》を形作る事さえ許しません。

「うぅぅ、トカゲ人間の癖に!」
「それも聞き飽きたわ。エビアン村の者たちに懺悔してけ! 真・烈火十山斬しん・れっかじゅうざんざん!」

 トカ、おほん、ロップス殿が上から真下に一振りすると、ヌギーさんの両肩から縦に二つの軌跡が走りました。

「あぎゃぁぁ! 体が分かれるぅぅ!」
「嫌か? なら留めてやろう」

 ロップス殿がヌギーさんの右肩から一突き、左肩から刃が飛び出しました。

「ぎゃぁ! ぎゃぁぁ! これも嫌だぁ!」
「うるさい奴だな。じゃぁもう知らん」

 肩から刀を引き抜いたロップス殿が、刀を一振りして鞘に納めました。

「あぁぁ、ヌギーまで……」

 ネギーさんの呟きの通り、ヌギーさんが断面からサラサラと崩れ去りました。

「あと一人っす! ガゼルの街で昼寝しながら考えたコレを喰らうっす!」
「も、もう辞めて……」

「辞めんっす! 水と雷の竜!」

 先ほどタロウが撒き散らした水溜りから、帯電した水柱が数本立ち昇りネギーさんを襲いました。

「アババババ、バァーー!」

 黒焦げになったネギーさんも、ザァっと音を立てて崩れ去りました。

「……思ってたより竜っぽくならんかったすね……」

 なぜかガックリと肩を落とすタロウとロップス殿に声を掛けました。

「お疲れ様です。二人とも全く危なげなかったですね」
「歯応えのない連中だったわ。アレならマロウの集団の方がよっぽど手強いな」
「どうっすか!? 俺の水と雷!」

 正直言って驚きました。
 難しいんですよ、雷の魔法って。

「雷は初挑戦ですか?」
「コソれんはしてたんすけど、何回やっても思った所に飛ばなかったんすよ」

 こそれん……、コッソリ練習、ですかね?

「僕も理屈は分かってませんが、勝手に曲がったりしますよね」
「そうなんすよ! でも当たればデカいっしょ? だから良い方法ないかなって」

 なるほど。
 だから水の魔法と併せて扱いしやすくしたんですね。大したものですね、本当に。

「なんだなんだ! すっかり魔法使いヅラしおって!」

「パンチョさんだってなんか魔法飛ばしてましたやん!」
「我ではない。この、師から頂いた明昏天地あかぐらきてんちの宝剣の力だ!」

 少し沈黙。

「え? なんすって?」
「この明昏天地あかぐらきてんちの宝剣の力だと言うておる」

「厨二臭いっすね……。それ明るいんすか? 昏いんすか? どっちなんすか?」

 さらに少し沈黙。

「……どっちなんかな……考えた事もなかった……」

 何のやり取りなんですか。

「とにかく、誰も負傷していませんか?」

 周囲を見回しても、全員なんともなさそうですね。

「じゃぁ、父の証を貰いに行きましょうか」
「おぉ、そうだ。ブラム様だがな、まだ寝ておられたぞ」
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