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79「ロップスの技」
しおりを挟む「ガゼル様仕込みの技を見よ!」
アンテオ様から後ろ跳びで距離を取ったロップス殿が、半身に構えてアンテオ様を指差します。
「ほぉ、五英雄が一人ガゼル殿か。それは見ものだ」
人差し指を立てた右手を上に掲げたロップス殿。
「天が許したとしても!」
左手の人差し指を伸ばし地面に向けたロップス殿。
「この大地が許したとしても!」
立てた両手の親指で御自分の顔を指すロップス殿。
「この私が許さん! 竜族の誇りを取り戻させてくれよう!」
「厨二臭が凄すぎーー!」
「喰らえ! 真・烈風迅雷斬!」
腰の刀を抜き、目で追えない程の剣速をもって襲い掛かるロップス殿。
部分的に竜化させた両腕で迎え撃つアンテオ様。
実力は拮抗している様に見えます。
「動揺が隠せてないぞ、ヴァン」
「ちょっと何を言っているのか分かりませんが」
「あの二人を放っておいて話そうと言ったクセに急に目を逸らしちゃってさ。顔色が悪いぞ」
仰る通り、動揺が隠せません。
タロウが生贄だとアギーさんやイギーさんにバレたのは不味いです。
「顔色が悪いのは元々ですよ」
「茶化すなよ。その反応で充分だぞ」
誤魔化せそうにないですね。
覚悟を決めましょうか。
「僕がタロウを守って見せますよ」
「ああ、そうしてくれ」
「俺も戦うっす!」
ふん、と鼻で笑うイギーさん。
「鼻で笑ったっすね! こら! 子供のクセに生意気っす――」
「僕らの計画にも変更があってさ。まだそいつを殺す訳にはいかないんだ。だからせいぜい頑張ってくれだぞ」
「ちょ、俺を無視すん――」
「計画ですか?」
「ちょ、ヴァンさんまで俺を無――」
「ああ。しばらく僕らはヴァン達を襲わないよ」
「いやだから俺を――」
「それは有難いです。もうそのままお引き取り願えませんか?」
「ちょ、待っ――」
「そういう訳にもいかないんだ」
「そうですか。それは残念です」
「……もういいっす……」
タロウが何か言ってましたが、そうですか、もういいんならいいんです。
『ヴァン、ロップス押サレ気味、ヤバイ』
プックルの声を受け戦い続ける二人へ目を向けると、ドォンと音を立てて木に叩きつけられたロップス殿が、血を吐いた所でした。
「がはっ、攻撃の強さが……桁違いだ……」
四つん這いで咳き込むロップス殿に、腕と尾だけを歪に竜化させたアンテオ様が胸を張って言います。
「ロップス、動きは相当マシになったがな。いかんせん軽い。それでは我の鱗を砕く事はできんな」
「アンテオ! もう話は済んだ! 行くぞ!」
「……そうか、分かった」
輝く光に包まれたアンテオ様が全身を竜化させ、その背に飛び乗るイギーさん。
「相変わらずでけーっす」
「じゃぁまたな」
『ロップス、次はもう少し楽しませてくれ』
力強く羽を一打ちさせたアンテオ様が明け始めた空へ飛び上がり、北の空へと飛び去りました。
ファネル領へと向かうんでしょうか。
『ロップス殿! 大丈夫でござるか!?』
あ、そうです。
ロップス殿は大丈夫でしょうか。
「平気だ。そこまでのダメージじゃない。が、少し休みたいな」
ロップス殿の体を確認しましたが、骨が折れたりの大怪我は無さそうでした。
肩を貸し座らせたロップス殿に癒しの魔法を使い、お腹と背中の痛みを和らげます。
『ロップス殿強かったでござるな!』
「……ああ。途中までは私もいけるかと思ったんだがな。結果は見ての通り、惨敗だ」
ドンッと地面を叩くロップス殿。
「すまんヴァン殿! 次に出会った時には叩き伏せてやる!」
「大丈夫、僕らもいます。みんなでアンテオ様を取り戻しましょう」
「すまん。頼む」
夜が明け切ったようですね。
「あれ? ところでタロウは?」
『タロウ殿なら、あそこで三角座りして蟻に小石をぶつけてるでござるよ』
何やってるんですか。
「タロウ、どうしたんですか?」
「……どうしたもこうしたも、ヴァンさんもイギーも、俺のこと無視してさ、嫌な感じっすよ」
だって貴方、もういい、って言ったじゃないですか。
「ほら、いじけてないで。朝食にしましょう。手伝って貰えますか?」
「んーー、分かったっす! メニューはなんすか?」
イギーさんとアンテオ様のせいで早起きになってしまいましたが、もう眠る気分ではありません。
ですので朝食をとりながら今後の相談です。
「ほほろでホッフスさんふぁ、……強くなった秘密ってなんなんすか?」
食べながら喋るのは辞めなさい。
「ほう? ヴァン殿は先程の戦いを見ただけで分かったのか?」
「ええ、恐らくですが」
「では答え合わせといこうか」
恐らくアンテオ様も気付いておられたと思います。
「魔力操作を併用した身体強化、ただそれ一点です。ですよね?」
「さすがヴァン殿よ。ガゼル様に教えて頂いたのは魔力操作と僅かの体術のみだ」
秘密は魔力操作。
「打撃の際は打点のみに魔力を集め、走る時には脚に魔力を籠める、ただそれだけです」
「え? そんだけっすか?」
『魔力操作って、それがしもずっと練習してるアレでござるか? それがしは精霊力でござるが』
「口で言うのは簡単ですが、これは容易な事ではありませんよ」
うむうむ、と満足そうに頷くロップス殿。
「でも魔力操作って、体ん中ぐるぐる魔力回す魔力循環に毛が生えたようなもんっすよね。俺も出来るっすもん」
「先程のアンテオ様との戦いを見たでしょう? 高速で繰り出される打撃を躱す為に脚へ魔力を籠め、隙をついて殴る為に腕に魔力を、再び襲い来る攻撃を受ける為に作り出した棒に魔力を籠める。僕ならやりたくないですね」
少しでも魔力操作が遅れれば、攻撃は全く効かず、受けるダメージは|甚大(じんだい)です。
「凄いんやろうけど、やっぱそんな凄そうには感じんすねー」
ムッとしたロップス殿。
「魔力を集めたところ以外を撃たれれば、撃たれた所によっては一撃で死ぬかも知れんな」
「……え? そうなんすか?」
「考えてもみろ。全ての魔力を十としたら、私は十のうち八を一箇所に集めているのだから、残りの二でその他の全身を覆うのだ。集めた所以外は紙みたいなもんだな」
「何すかそのリスク……」
「魔力の絶対量が少ないんだ。このガゼル様と同じ戦い方を選ぶしか私にはない」
「いや、でも紙のところ殴られたら……」
「相手が叔父上で、撃たれた箇所が急所なら、まぁ、死ぬな。だが喰らわなければ良いのだ」
最後に受けた攻撃もギリギリ魔力を集められたそうです。
「私はこの技を磨き、叔父上を取り戻す!」
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