69 / 185
53「寝ながらの魔力循環、その後」
しおりを挟むタロウの寝ながらの魔力循環の練習は順調にいっています。
僅かな量とは言え成功したあの夜、その翌日からは日中も誰かの魔力を移し、移動中も一日中魔力循環です。
初めて魔力循環の練習をした時、ペリエ村からアンセムの街を目指した時ですね、あの時すでに上手でしたが、今ではもう自由自在です。
循環の速度を速めたり遅くしたり、体の一部に集める事も簡単に行え、強度はまだ大した事ないですが身体強化への応用も可能となりました。
もちろん魔法への応用もさらに上達しています。
魔法元素も大抵の物は相性が良いらしく、風、火、水、この3つは以前からかなりのレベルで使えていましたが、さらに土、光、闇などなど、基本的に使えない元素はありません。
僕と同じです。
もちろんタロウと魔法合戦をしても僕の圧勝でしょうけれど。
年季が違いますよ、年季が。
「ヴァンさん! 今夜もお願っす!」
「今夜くらい休んだらどうですか? 久しぶりにベッドで寝られるんですから」
「ベッドだからっすよ! 熟睡しても出来なきゃ意味ないっしょ!」
そうです。
本日ようやく、ゲロルの町に着きました。
ロッコ村を出て、なんだかんだで二十日です。
「分かりました。では少し多めに移しますね」
「おす!」
順調とは言いましたが、魔力を朝まで維持し切れた事はまだありません。
どうしても深く眠ると僅かに霧散するそうです。今の所、八割弱が最高記録ですね。
しかし僕に言わせれば、僅かな霧散で済ませられる事が驚異的なんですけどね。
「よおっし! 今日こそやったるっす!」
やる気充分ですね。
「やる気たっぷりなのは良いが、この前みたいな失敗はしてくれるなよ。宿が吹き飛んでしまうわ」
あれは驚きましたね。
みんなが寝静まった深夜、突如としてタロウから吹き荒れた魔力の嵐。ロップス殿とプックルは吹き飛ばされてしまいました。
僕とロボですか?
元々眠りが浅い方なんで、咄嗟に魔力障壁を張ったんです。さすがに全員分は間に合いませんでしたが。
「任せるっす! 今夜こそは九割、いや十割残して見せるっす!」
この部屋には僕ら三人だけです。
男女で分けた訳ではありません。プックルとロボは馬房の中です。
ロボも大きくなりましたからね。
「もし魔力が暴発しても、次はタロウの周囲に障壁を張ってみせます。だから安心してください」
「……うーん、その障壁の中って、地獄絵図なんじゃ……」
「でしょうね。障壁にぶつけられまくるか、中央でぺちゃんこになるか……」
「怖すぎー!」
「暴発だけはお気をつけ下さいませ」
魔力循環が一瞬でも停滞すると魔力の霧散が始まります。
タロウが言うには、循環自体は完璧に出来るので、起きていれば意識するだけで良く、寝ている時ならば、無意識に循環を続けなければなりませんが、完全な熟睡でなければ、今は無意識で循環できるそうです。
ロップス殿が、なぜそんな事が可能なのか、と聞いた事がありました。
「地球じゃ寝てばっかだったからっすかね? ニートは伊達じゃないっす!」
そう言えばそうでした。
こちらでのタロウは特別に怠け者という事もありませんから忘れていました。できるだけ楽したい、とは良く言っていますが。
「じゃぁおやすみっす」
「ちゃんとトイレは行ったか?」
「行ったっすけど、もう一回行ってくるっす!」
あの魔力暴発は、尿意を我慢しながら循環していたからだそうなんです。
タロウらしいと言えばタロウらしいですが。
ちなみに魔力は暴発してしまいましたが、尿意の方は暴発しませんでした。
タロウの尊厳は守られています。
「じゃぁ今度こそおやすみっす」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「ダメっすね。やっぱ十割は難しいっす」
昨夜も僅かながら霧散してしまいましたが、それでも過去最高の九割強も残すことに成功しています。
「いや、これ以上はさすがに無理なんじゃないでしょうか。充分過ぎる成果ですよ」
「そうすか? んー、まぁ、そっすね!」
充分でしょう。今までは移した魔力は日中の魔法練習で使い切っていましたが、毎晩残しておけばとてつもない量の魔力が貯まる計算になります。
もちろん、魔力循環の難度も上がりますし、魔力の器を大幅に超えて貯めるのはできませんが。
「ここゲロルの町はそこそこ大きいですから、今日は色々と必要な物を購入しましょう。ですので出発は明日ですね」
かさばる物は宿に置いて、必要な物だけ持って町を巡ります。
プックルとロボも食べられる様に、店の外にテーブルを出しているお店で朝食を済ませ、お店を回りました。
「ロップス殿の槍と、タロウの杖が要りますね、他には――」
伝説の槍と伝説の杖――
そういうのは手に入りませんでした。
普通の町ですからね。当然ですね。
至って普通の槍と杖、その他の必要な物を購入しました。
明朝からは、シュタイナー村を目指して出発です!
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる