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42「三角座りではありません」
しおりを挟む「痛えっす」
タロウが起きましたか。
場所は先ほどの河原です。
とりあえず外傷もなく三人とも眠っているだけだったので、僕とロップス殿の二人で河原に寝かせ、腰を下ろして一息ついていました。
「頭痛いんすけど、何があったんすか?」
何を呑気な事を。
「タロウ、こちらに来て座りなさい」
出来る限り険のある言い方で話します。
タロウがビクッとしておずおずとやって来て座りました。
「三角座りではありません」
そそくさと正座に直すタロウ。
「貴方、今回の事をどう考えているんですか」
「いや、あの、っすね。ええっと……ごめんなさい」
「何を仕出かしたか分かっているんですか?」
「はい……、勝手な行動を取ってごめんなさいっす」
反省している様ですね。今回は大目に見ましょうか。
「今回は何とかなったから良かったものの、次はどうなるか分かりませんよ。ちゃんとみんなにも謝りなさい」
「分かったっす」
ロボとプックルはまだ目を覚ましていませんので、ロップス殿に駆け寄り謝るタロウ。素直でよろしいです。
「タロウ、一体何があったんですか?」
「それがっすね! 崖から落ちて、あ、こりゃ死んだな、と思ったらプックルが垂直の壁をダカダカ走って空中でキャッチ! 俺とロボを助けてくれたんすよ!」
それで三人とも無傷だったんですか。プックル様々ですね。
「もうめっちゃカッチョいかったっす! ヴァンさん達にも見せたかったっす!」
『褒メルト、プックル照レテシマウ』
プックルとロボも起きたようですね。
「プックル! ありがとっす! プックルが居なかったら死んでたっす!」
タロウがプックルに駆け寄って抱きつきます。そしてそのままモフモフに突入です。
『ウヒヒヒヒヒヒヒ!』
久しぶりにプックルのウヒヒヒを聞きましたね。
『ヴァン殿! ヴァン殿が助けてくれたでござるな!』
「ロボ、無事で良かったです」
僕の胸に飛び込んでしがみついたロボを抱きしめます。
本当に無事で良かった。
ロボの全身をモフモフ撫で回します。
『ヴァン殿! ヴァン殿! ヴァン殿!』
本当に無事で良かった。
「うぉっほん!」
モフモフの手を止めて首を巡らせます。
「モフモフも良いがな、あの猿どもは何なのだ」
あ、そうですね。ここはロップス殿が正しいです。
「その前に一言、プックルにお礼を言わせて下さい」
プックルに近寄り、頭を下げます。
「プックル、タロウとロボを助けてくれて、本当にありがとうございました」
『止セ、プックルモ仲間、助ケル当然』
タロウもロボもお礼を言ったせいで、照れて体をグネグネと捻らせてしまいました。
「で、っすね。プックルがかっちょよく着地を決めた後、いきなり猿がわらわら沸いて出たんすよ」
『目が虚ろで怖かったでござる』
『急ダッタ、魔法、使エナカッタ』
筏に乗っていたマエンと同じですね。森にいたマエンは見てはいませんが、どうも様子が違うようですね。
「変な粉を撒いた猿がいて、そしたら急に眠くなって、気がついたら頭が痛かったっす」
この川の先に運ぼうとしていたようですが、目的はなんでしょうか。
考えたくはないですが、有翼人の関係なんでしょうね。
はっきり言って嫌ですね。
「なぁ、ヴァン殿。ここに長居するのは危険ではないか?」
そう言われればそうですね。倒したマエンは四匹だけです。
「確かにロップス殿の言う通りですね。上の森に急いで移動しましょう」
みんな疲れていますが走って上流へ向かいます。
上流へ向かうしかないんですが……
「わらわら居たというマエンはどこに行ったのだ?」
「……寝てたんで分かんないっす」
そうなんですよね。
この先に潜んでいる気がしてしょうがありません。
タロウ達が落ちた辺りに戻ってきました。
戻ってきましたが。
そうですよね。そんなに甘くないですよね。
「猿いるっす!」
「タロウはプックルから離れないで下さい。ロボ、こちらへ」
ロボを僕の胸元に入れます。
「ロップス殿、よろしくお願いします。眠くなる粉に気をつけましょう」
「心得た!」
ロップス殿と、それぞれ大剣と棒を手に、並んで前へ出ます。
マエンは二十匹ほどでしょうか。
ジリジリと間合いを詰めます。
『者共! 敵は腐った猿じゃ! 皆殺しにしてやれ!』
頭上から不意に響いた精神感応と共に、キィキィという鳴き声。
見上げると勢いよく崖を降る猿、マエンの一団が。
新たなマエンの一団は、手に手に短めの筒状の何か。
「ヴァン殿、こやつらも敵か?」
「分かりません。少し下がって様子を見ましょう」
新たな一団は筒を口に当てて、地上のマエン達に向かって行きます。
キィキィと悲鳴を上げた地上のマエン達がバタバタと倒れて行きます。これは勝敗は決まった様なものですね。
短めの筒、吹き矢を防ぐ手立てがないようです。
新たな一団は地に降り立ってからも、やや遠巻きに地上のマエン達を取り囲み、近づく事なく仕留め切りました。
「どうやら味方のようだな」
「まだ分かりません。警戒を続けて下さい」
地上のマエン達を仕留めた、新たなマエン達と対峙します。
『仲間は生きておったようだな』
頭上からの精神感応です。
『上がって来られるが良い。そこは我らの縄張りではない』
先ほどのマエンの様ですね。
キィィキィィと吹き矢のマエン達が鳴き、ぞろぞろと少し迂回し、崖を登って行きます。
「お、こっちからの方が早かったか」
ロップス殿が見つけた道よりも近くに、崖を行き来できるルートがありました。
吹き矢のマエン達に続いて森へと登ります。マサンヨウだけあって、プックルも平気で急坂を登っていきます。さすがにタロウは降りていますが。
森の広場に戻ると、年老いたマエンが一頭。
『我はこの群れの長。仲間の無事、心よりお祝い申し上げる』
「ありがとうございます。助太刀もありがとうございました」
『なに、あやつらが目障りだったのもある。利害の一致というやつだ』
同じマエンでも敵対していたようですね。
『このまま進んでもじきに日が暮れる。今夜はここでゆっくりしていけ』
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