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34「燃えるヴァン」
しおりを挟む「ロボ、貴女いくつなんですか?」
『それがしでござるか? この前10歳になって、成長期に突入したところでござる』
どうも、10歳の幼女狼に翻弄される八十二歳のダンピール、ヴァンです。
『成長期に入ってるから、急に大きくなるかも知らんでござる』
そういうものなんですか。レイロウの成長過程はほとんど分かっていませんから興味深いですね。
さて、そろそろちゃんと真面目な話も進めましょう。
ここヴィッテルからやや東寄りに北へ北へと向かうと山岳地帯に入ります。
ここからは整備された街道はありませんから、野を行き山を行く、という感じです。
とは言っても、長年みんなが同じところを歩きますので、踏み固められた道らしきものはありますが。
十日ほども行けばガゼル領に入り、ちょうどそこから山岳地帯ですね。
ガゼル領まではおよそ一ヶ月でしょうか。
食料や消耗品などは、持っていける量ではどう考えても足りません。
ヤンテ様の家を離れ、ロップス殿に案内してもらい町の商店を巡ります。
「ヴァン殿、私もアンセム領の外について勉強した。今は道もおおよそ分かる」
勉強ですって? 誰か道に詳しい人がいたんでしょうか?
「これだ。これをアンセムの街で手に入れた。そのせいでヴィッテルに着くのが遅れたのだ」
ロップス殿が見せてくれたのは地図。割りと詳細なその地図は、僕が知る範囲のこの世界の事が載っていました。
だってその地図、作ったの僕ですからね。
五十年ほど前だったでしょうか。父に言われて世界中を旅して作り上げたんです。懐かしいですね。
世界が1/4になる前の地図も参考にしましたが、村の位置や山、川、海は全て歩いてから書き込みました。やや実際とは異なるでしょうが、なかなか正確に作れたと自負しています。
「この地図があれば、別行動でも支障はあるまい」
そんなにも一緒に行くの嫌なんでしょうか。
「その地図って五十年ほど前に作られたものですので、当時と若干異なるかも知れません。それを頭に入れておけば平気でしょう」
「そうか、五十年前の地図か。忠告かたじけない。肝に銘じよう」
いくつか買い物を済ませました。食料については主に現地調達になりますが何とかなるでしょう。いざともなれば僕は食べなくても平気ですし。
では出発しましょう。
本当はヴィッテルで一泊できれば良かったんですが、ヤンテ様の美しさは、ある意味恐怖です。
少しでも早く離れるべきでしょう。
「ではヴァン殿、我は少しだけ先に行く。最初の目的地はここ、ロッコ村で良いな?」
ロップス殿が地図を指差して言います。
「そうですね。五日ほどの行程ですのでちょうど良いですね。では、はぐれてもロッコ村で合流にしましょうか」
ロップス殿が出発しました。飛ぶ様に駆けて行きましたが、相変わらず荷物は槍と背に負った布袋のみです。
大丈夫なんでしょうか。竜人族は十二歳で成人だそうですが、見た目はともかくぶっちゃけ子供ですよね。心配です。
あまり引き離されない様にした方が良いかも知れませんね。
「タロウ、プックル、ロボ、我々も少し急ぎましょうか」
「おす!」
『分カッタ』
『承知でござる!』
タロウはプックルに乗っていますが、ロボは頑張って歩いています。
やや速い速度ですが、これくらいならみんな平気なようですね。
道々、ロボに魔法の説明をし、タロウは魔力を感じる事に努めました。出来ませんでしたけど。
これと言ってトラブルなく日暮れ近くまで歩き、そろそろ野営かな、と思い始めた頃、進行方向から人影が見えました。
タロウたちにも一応、警戒を促します。
あの有翼人の子供たちの事もありますから。
人影の輪郭がはっきりしてきました。
「……トカゲマンかーぃ!」
今の僕じゃありませんよ。タロウですからね。
「どうしたんですか? ロップス殿」
「いや、そろそろ晩御飯かなと」
晩御飯だけは合流するスタイルでしたか。
だから荷物が少なかったんですね。
ロップス殿も交えて夕飯にしましょう。
そう言えば、ロップス殿に有翼人の子供たちの事を話していませんでしたね。
ロボの事と併せて説明しましょう。
『ロボと申す。よろしくお願いしますでござる』
「ロップスだ。よろしく」
『それがし、ヴァン殿のお嫁さんになるでござる』
「……ほう。お主なら良い伴侶となるだろう」
『ま! 聞いたでござるか! ヴァン殿!』
聞きましたけど。
みんな何故かロボに甘くないですか?
めちゃくちゃロボが嬉しそうじゃないですか。嬉しそうなロボはいつも以上に可愛いですけど。
「ロボ、今は保留と言ったでしょう。誰彼構わずに宣言するのは、めっ! ですよ」
『……承知したでござる……』
しょんぼりしてしまいましたが、躾は躾です。タロウの様に手刀を繰り出す訳じゃないですので勘弁して下さい。
「それでその有翼人というのは何者なのだ?」
「分かりません。我々と敵対するような事を言っていたのが気になりますが」
「あ、そうなんすか?」
理解してませんでしたか。ちゃんと説明したはずだったんですが。
彼らは最後にこう言いました。
「貴様は使命を全うできんと言っておる。我らがいるのでな」
僕の使命と言えば、タロウをファネル様の下へ連れて行き、後釜の生贄とする事。
しかし、こうも言ってもいました。
「こんな山羊しか仲間にいないんだよ」
山羊と言えば、もちろんプックルの事です。タロウとロボの事には気付かなかったようですね。焚き火から少し離れた所で寝ていましたから。
どうやらファネル様の後釜を僕だと思っている様です。
彼らが何者で、何が狙いか分かりませんが、タロウの存在に気付いていないのは幸いです。
仮に僕が死んだとしても、タロウさえファネル様の下へ行く事が出来れば僕の使命は果たされます。
もちろん、易々と殺されるつもりはありませんが。
ヴァン先生、久しぶりに燃えてしまいますね。
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