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10「Young guy《お兄さん》」

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「ごめんなさい店長。ご面倒お掛けしました」

 キャップを被り直して私に謝るカオルさん。
 少ししょんぼりしているが可愛い。

「いえいえ、ちっとも面倒じゃありませんよ。賢そうな良い子じゃないですか」
「……えへへ」

 愛娘を褒められて照れるカオルさん。ほんとに可愛い。

「じゃ、ここお願いしますね」
「はい! お任せ下さい!」

 カウンターをカオルさんに任せ、厨房へ戻り縦型ミキサーコロちゃんへ入れる材料を準備しようと手を動かすが、思いとどまってカウンターへ戻る。

 カオルさんへ耳打ちし、そしてカオルさんがイートインで大人しく本を読み始めた野々花さんを手招き。

 ふんふん、と頷いた野々花さんは喜多へ近付き声を掛けた。

「ね、

「…………オ……俺、オに――いさ――ン……」

 壊れたロボットのようにギシギシと動き始める喜多。
 徐々に硬さが取れ……

「お――お兄さんになんのようだい子猫ちゃん? ってカオルちゃんの娘ちゃんじゃねえかどうしたよ一体?」
「奢ってくれるって言った。さっき」

「おぅ! なんでか忘れてたぜ! なんでも奢っちゃうよこのお兄さんがよぉ!」

 よし。
 邪魔な置き物は退き、さらに売り上げにも貢献させた。ナイスだ野々花さん。
 喜多にあの薄いコーヒー、野々花さんに紅茶。
 そしてそれぞれ小さめの甘いパンをひとつずつ。野々花さんはパン・オ・ショコラ、喜多はあんぱん。

 残念ながら喜多お気に入りのベーコンエピは売り切れだ。悪いな、人気商品なんだ。
 午後のベーコンエピはもう少し増やした方が良いかもしれないな。


「いらっしゃいませこんにちはー!」

 からんころんとドアベルが鳴り、カオルさんの溌剌とした声が響き渡る。
 さぁ、夕方ピーク、書き入れどきだ。

 ぺたこらぺたこら響くコロちゃんの音、ドアベルのからんころん、カオルさんのいらっしゃいませこんにちは。
 この時間が最高なんだ。

 生地を切り分け成形を進め、つい緩んでしまう頬を肩で拭ったところ、イートインからこちらを覗く野々花さんと目が合った。

 野々花さんはすぐに首を引っ込めたが、ニヤついてたとこをバッチリ見られた気がする。少し恥ずかしい。

 耳を澄ませば、野々花さんと喜多が他愛ないことを話しているらしいが、私がにやにやしていた、などとは言っていないようでホッと胸を撫で下ろした。


 十七時ちょうど、三つ四つのパンを残して客足が途切れた。

「カオルさん、お疲れ様でした。上がって下さい」
「あ、もう五時? ちぇっ、上がるまでに全部売れると思ったんだけどなぁ」

「全部売れますよ。なぁ喜多?」
「おぅ。カオルちゃん、残り全部レジしてくれ」

 よく分かってるな。さすが喜多だ――ん?

「バカ。カオルさんは上がりだ。私がする」
「バカやろう! 何が悲しくってゲンちゃ――げふんっ! げふっ! ごほんうほうほ……わりぃ、せちまった……オメエにレジ打って貰わなきゃなんねんだ! カオルちゃん一択だ!」

 ぷふっ――

 二つ同時に響く笑い声。
 見れば杭全くまた親子が笑っていた。

「良いですよ店長。アタシやりますから」
「やりぃ! さすがカオルちゃんだぜ! サンキュー!」

「いえいえこちらこそ。野々花も奢って貰っちゃったし」

 そう言ってカオルさんはてきぱきとパンを包みレジを打つ。

「野々花、ほら」

「喜多お兄さん、ごちそうさまでした」
「おう、いつでも奢ってやんぜ」

 ペコリと頭を下げる野々花さんに親指を立てる喜多。
 
「店長さん、急に押しかけてごめんなさい。パン美味しかったです」
「ありがとうございます。いつでも来てくれて構いませんよ」

 私なりに全力で笑顔を作ったつもりだ。
 きちんと笑えていたら良いんだが。
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