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「王弟殿下のお子様が見つかった?!」


「兄上がそう言っていた。まだ公にはしていないそうだが、平民として生活していたらしい」


あの騒動から3日後


たっぷり休みをもらった私は、新たに気持ちを引き締めて通い慣れたフィルナンド殿下の仕事部屋へと向かった


そして開口一番に告げられた言葉が冒頭での言葉だった


「王弟殿下って、確か18年前にご逝去されてますよね…?」


「あぁ、ちょうど私が生まれた年だ。入れ替わるように亡くなったと聞いている」


18年前は私はまだ7歳

うっすらであるが確かその当時は国がかなり混乱していた記憶がある


国王が信頼をおいている王弟のご逝去と第3王子誕生という吉報


悲しめばいいのか喜べばいいのか、不思議な感情に大人たちが戸惑っていたのを私は思い出した



「ですが…王弟殿下は未婚でしたよね」

「表面上は、だ。なんでも将来を誓い合った女性がいたそうだ」

まあ、俺は知らないんだがな、と他人事のように話すフィルナンド殿下の態度に私は苦笑した


「その相手の女性がメイドだったらしい。思い合うのはいいが結婚はダメだ、と言われてたみたいだな」


「まあ…それはなんというか…」


「で、叔父上が亡くなってメイドも退職金を渡して実家に戻ったみたいだが……身ごもってたみたいなんだよ」


「未婚の女性が身籠るとはまた大変な思いをされたのでしょうね」


「シャリーの言う通りだ。子供の父親を頑なに黙っていた元メイドは実家から勘当されて市井でひっそりとその子供を育てていたらしいんだが…」


突然歯切れの悪くなるフィルナンド殿下に私は話の先を促した


「つい先日その元メイドが亡くなって子供1人になったらしい。生活が経ち行かなくなった子供が、を質屋に売るところを憲兵が見つけて、王城まで知らせてくれたってわけだ」


チャリとフィルナンド殿下の懐から出てきたの純銀で作られた鷲の彫刻が彫られたバッジだった


「これは…!!」


「王族だけが持つことが許されたバッジ、だな」


我が国では王族は生まれた時にそれぞれ象徴となる動物が彫られたバッジが贈与される


その象徴がその人を王族だと証明するものであり、生涯そのバッジを身につけることが義務付けられていた


贋作が作れないほど緻密に作られたそれは鑑定の結果、だと証明されたらしい
私は自然とゴクリと喉が鳴った


目の前にいるフィルナンド殿下もデフォルトになっている黒い軍服の襟元に彼の象徴である獅子が彫られた飴色の銅でバッジをつけている


それだけ重要なものを質屋に入れようとしていたとは…無知とは怖いものである


「それで、今そのお子様はどちらにいらっしゃるのですか?」


「フレドリック兄上が保護している。複雑な立場だからカロリーナ義姉上が直々に世話をしてるそうだ」


「カロリーナ様が…」


3日前に笑顔で話していたカロリーナ様を思い出す
面倒見の良い彼女ならきっと王弟殿下のお子様を無下には扱わないだろうと安心した


私はふと、素朴ではあるが、とても大事な疑問をフィルナンド殿下に投げかけた


「男性ですか?女性ですか?」


「……女性だ。アイシラという名前だった」


「アイシラ様…従姉妹になりますね」


「ふんっ今更従姉妹と言われても実感はない」


そもそも、そんな奴に私は興味がない、とどこか拗ねたように話すフィルナンド殿下の態度に若干の違和感を覚えつつも、まだ見ぬ王弟殿下の忘れ形見のアイシラ様という女性が一体どういうお方なのかと期待に胸を膨らませていた
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