私の愛すべきお嬢様の話です。

Ruhuna

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「貴様の悪行を暴くために、言い逃れができないようこの場を使ったのだ!」

「まあ、悪行ですか?」

「そうだ。貴様は男爵令嬢だからといってパウラに対して酷い罵詈雑言を浴びせただけではなく、暴力までに手を染めた!そのようなものが未来の王妃などあり得ない!私の隣には可憐で心優しいパウラしかあり得ないのだ!」

「ユリアン様~パウラ、感激です!」

いつのまにか登壇したのかクソ殿下の隣にはパウラ・ヘルマンが立っておりました。
耳障りなあの喉元を潰したいと常々、私思っておりました。
お嬢様をお守りできるよう、静かに後ろに控えます。

「証拠はございまして?」

お嬢様が至極真っ当な受け答えをされます。

「パウラがそういっている」

「…それは証言です。私がいってるのは証拠です」

はぁ、とお嬢様がわざと大きなため息をつかれます。
それを受けたクソ殿下の顔はみるみると赤くなります。

「シェリルが暴言を言った場面を皆見ていたはずだ!そうだろう?!」

証拠がないクソ殿下は周りの学生に問いかけます。
ですが、みな静かに視線を逸らします。
それはそうでしょう、皆面倒ごとには巻き込まれたくはありませんから。

「暴言ではなく、助言です。シェリル様はパウラ様に正しいことをお伝えしておりました。」

1人の御令嬢が声を上げます。
お嬢様のご友人の1人、ルリア伯爵令嬢です。
ルリア様の言葉に続いて何人もの御令嬢、ご令息が同じように声を上げます。


「くっそ…!!そ、それなら暴力はどう説明する?!2週間前にパウラを階段から突き落としただろう!」

「2週間前…?」

目を見開くお嬢様には申し訳ございませんが、私、笑いが止まりません。
もちろん声は上げません。口角が上がってしまうのは仕方がないです。
隣にいるアドルフに小突かれましたが、笑わずにはいられません。

「わたし、本当に怖かったんですぅ~!いきなりシェリルさんから背中を押されて…足が痛かったんですよぉ…」


そう言いながらドレスを上げてくるぶしを見せるパウラ・ヘルマンの行動に会場中がどよめきます。
女性が夫以外の場で足首を見せるなど、破廉恥以外の何者でもありません。
大袈裟に包帯を巻いているパウラ・ヘルマンは周りの戸惑いなどお構いなしのようです。


「パウラ!何をしているんだっ」

「なにかダメでしたかぁ?」

流石のクソ殿下もその行動を咎めます。
腐っても王族ですから、そこら辺のマナーは叩き込まれている証拠ですね。

「パウラのこの怪我が大きな証拠だ。」

改めてお嬢様には向き直ったクソ殿下は憎たらしい顔でそう言い放ちます。
私はそっとお嬢様の横に立ちお嬢様には一つの書類をお渡しします。

「何か…誤解をされておりますが、私はこの1ヶ月学園にはおりませんでしたわ。なので、どうやってもヘルマン男爵令嬢に手を出すことは不可能ですわ」


私が渡した書類を堂々と掲げるお嬢様はとても素敵です。さながら女王のようなその佇まいに頭が下がります。


「きゅ、休学届け…?!」

休学届けをみたクソ殿下は驚きの表情を浮かべています。
やはりこいつは私の話など一切覚えていなかったようですね。
休学届けもありますし、なにより映像も残っておりますのでクソ殿下が言い逃れることは不可能。チェックメイトでございます。


「そんな…嘘だ!これは嘘の書類だ!」

ギャーギャーと喚き立てるクソ殿下に呆れて物が言えません。
そろそろ動きますか。とアドルフに合図を致します。


「もう良い。ユリアンを退室させよ」


私たちが動き出そうとした瞬間。最も高い位置に座っておられた国王陛下が声を上げます。

「父上?!」

「ユリアン、私は1ヶ月前にお前に告げたはずだ、アルストロームより皇太子が来国し、ブリジット侯爵家に滞在することを。その相手にシェリル嬢をあてがったことも」

陛下の大きなため息が会場中に響き渡ります。
陛下の意見も最もでしょう。何せアーベル殿下がブリジット家に滞在する旨は全貴族に通達されているのですから。

「えっ、なんでっ、だって…」

クソ殿下が狼狽えます。
昔から身分ばかりを振り翳していたクソ殿下は陛下をかなり尊敬しておりました。
尊敬されている方からの「お前は馬鹿なのか?」発言はこたえたのでしょう。
無様に床にへたり込む姿は我が国の王太子殿下としてとても無様でございます。


「ブリジット侯爵令嬢、此度は愚息が迷惑をかけた。」

「もったいなきお言葉ですわ。国王陛下、私、このようなお方と一生を添い遂げることは不可能でございます。……こちらを」

お嬢様がそっと手をあげます。
私はすぐさま国王陛下の近くに向かい、その書類を側近のお一人に渡します。
書類を受け取った側近の方が内容を見て目を見開いております。早く陛下に渡しなさいよ。


「ほう…令嬢が義娘になるのを楽しみにしていたのだが、仕方あるまい」

「ありがとうございます」

「ユリアンとブリジット侯爵令嬢の婚約を解消とする」


陛下が会場に響き回る声量でそう言います。
婚約破棄ではなく、解消。
これでお嬢様の華麗なる経歴に傷がつくことはなくなりました。


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