ハプスブルク家の姉妹

Ruhuna

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健康な姉

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私、ルフィーナ・レイナ・イ・ハプスブルクは物心ついた時から妹のソルティナ・カランサ・イ・ハプスブルクとの良い思い出はない
妹のソルティナの体は病弱体質だ
母に似たソルティナは繰り返された近親婚の弊害が心身ともに出ていた
そんな妹と違って私はとても健康だ
生まれてこの方風邪も引いたことがない
そんな健康な私を両親は放置して妹にかかりっきりとなり私は使用人たちに育てられたようなものだった


幼い頃は両親からの愛を渇望しあの手この手で気を引こうとしたが返ってそれが逆効果だと知ったのは何時頃だったか
17歳になった今では両親に対しての期待は一切なくなっていた


健康な私は10歳で従兄弟にあたる王太子の婚約者になった
その時から王妃教育で王城にいる時間が長くなっていたのも親離れの要因になった気がした


ーーーー




「お姉さま。その髪飾り可愛い。欲しいわ」


麗かな風が流れる午後2時
今日は週に一度の休息日だ
休息日は決まって庭のテラスでお茶を嗜みながら読書をするのが私の日課だった
そこに毎回現れるのが妹のソルティナ
妹はいつも私が身につけている何かしらの物を欲しがる


「……これは殿下から頂いたものなの。今度の夜会が終わったらあげるわ」
「いや。今、欲しいの」


はぁとため息をついた
妹はいつだって欲しいと思ったときに手に入らないと癇癪を起こす
その癇癪が原因で熱を出したりする
そうなると両親はいつだってルフィーナを責めた

私だって形だけの婚約者からもらった髪飾りなどいらないのに

そう思っていても婚約者である王太子エルナンド・フェリペ・デ・ハプスブルクから頂いたものはそう無下に出来るものでもなかったから、必ずソルティナが来るであろうこの時間に髪飾りをつけていたのだ


「仕方ないわね…。殿下にはソルティナから言ってくれる?」
「もちろんよ。ありがとうお姉さま!」


そうすれば必ずソルティナが欲しがることを私は知っていたし、殿下がソルティナに甘いことも知っている
いつだって彼はソルティナの我儘を「仕方ないなあ」と顔を緩ませ、頭を撫でていたのを幾度となく見てきたのだ


そもそも銀髪黒眼である私の髪に銀細工で中央に大きなエメラルドがはめ込まれている髪飾りなど似合わないにも程があった



ソルティナと入れ替わりでやってきたのはお母様だった
訝しげな視線を向けながらお母様がやってくる時は大抵怒られると決まっている
私は無意識に身構えた


「王子から髪飾りをもらったそうね」
「はい。ですが、ソルティナが欲しがったのであげました」
「王子とソルティナを近づけてはいけないとあれほど言ったでしょう?!」


母は自分に似たソルティナを溺愛していた
父に似た私は仲の悪い王妃を連想させてしまうから尚更腹立たしいのだろう

「申し訳ございません」
「以後気をつけなさい」



不機嫌なまま踵を返し母は屋敷の中に入っていった
読みかけだった本をパタンと閉じて私は目を閉じて風の流れを感じた



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