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しおりを挟む「最近フォーの調子が良くなさそうだからそれが気になって仕事どころじゃないんだ」
「…ダメよ。仕事はしっかりしなきゃ」
アレクの不安そうな瞳が揺れている
私はそっと彼の頭に手を伸ばす
仕事用にセットされた髪の毛は案外触ると柔らかく、私はその柔らかい髪を指に通した
「ご飯だって以前より食べる量が減ってきているから心配なんだ」
「大袈裟だよ。女の子はそんな時もあるの」
大丈夫だよ。と伝えたい私は必死に彼に言い訳をする
しかし、本当は彼のいう通りここ最近体調はよろしくない
あんなに食べるのが好きだったのに、脂っこいものはきついし、甘すぎるものもうっとくる
そんな私の本音を見抜いたのかアレクは頑なに首を横に振って私の言い訳を拒否する
「フィーが嫌がると思って黙ってたけど実は今日医者を呼んでる」
「えぇ!そんないいのに…」
「ダメだ。しっかり見てもらって」
良い子だから。と軽くチュッとキスをしてくれアレクに絆されて、私は紹介された女医に挨拶をする
「では早速診察しましょう」
ーー
「おめでとうございます。ご懐妊ですね。」
「「えっ?」」
「今は大体5週ちょっとぐらいですね。食べる量が減ったのは悪阻だと思います」
女医の言葉に固まる私たち
機械的に話す彼女に私たちはついていけない
「えっ、妊娠…?」
「はい。月の物が最後に来たのはいつですか?」
「月の物…確かに今月は遅れてて、でも前から遅れる事はよくあったから…」
衝撃的な事実をすんなり受け入れられない私に対して女医はニコリと笑った
「妊娠は奇跡です。思いもよらぬタイミングで授かることはなんら不思議なことではありませんよ」
と。
「そっか…」
彼女の言葉がストン、と落ちてきた私はそっと自分のお腹を触った
まだ膨らみはないが確かにここに命が宿っている
(「不思議」)
その一言に尽きる
女というものは自覚して仕舞えばあっという間に動ける生き物だ
私の頭の中にはマタニティ生活で気をつけるべきことや、準備することが瞬時に展開していた
「フィーが妊娠、私と、私の子供…?」
「そうよ!アレクと私の子供!」
「ここにいるのか…?」
そうだよ。と笑いながら震えるアレクの手を自分のお腹の上に置く
ガラス細工を触るような手つきにくすぐったさを感じる
でもそれがすごく幸せで、嬉しくて、尊くて
私は流れるようにアレクへと抱きついた
「これから家族3人で頑張りましょう」
「勿論。愛してるよフィー。私の唯一の人」
そっと触れ合った唇の熱さは私の記憶の中で一番鮮明に跡を残した
ーー
「おかあしゃま、レベッカ抱っこしてもいーい?
「フィオナ叔母さんに聞いてご覧なさい?」
「はーい!フィオナおばさん、レベッカ抱っこしたいの!」
「いいわよ。そしたらこっちに座って?…そう、頭をしっかり持ってね」
デナム国の市街地に建てられた邸宅
バラの低木が綺麗に整えられたその庭で私と、生まれて半年の娘のレベッカ、そしてお義姉様とその子供の4人で楽しく遊んでいた
「レベッカかわい~」
「ありがとう。レベッカも喜んでいるわ」
首も座って抱っこしやすくなったレベッカはふにゃふにゃと笑っている
その顔はアレクに似ているからきっと彼女は年頃になると美しく育つだろう
我が娘ながら将来が楽しみだ
「…フィオナはテンパートン卿のことはどこまで知ってるの?」
不意にお義姉様がそう話した
彼女が我が家に来るのは3回目
毎回アレクがいなときを狙ってやってくるからお義姉様はアレクのことが苦手なのかもしれないと勝手に思っていたがどうやら間違いではないらしい
「学生時代から私のことをみていたとか、ですか?」
「ソレを知ってるのね。…フィオナ、ごめんなさい。彼に貴女の情報を渡してたのは私よ」
「……薄々そうだろうな、とは思ってました」
ごめんなさい。と謝るお義姉様に気にしないでください。と告げる
終わりよければすべてよし。だと伝えると彼女はほっとしたような表情を浮かべていた
「フィオナ、貴女今幸せ?」
「はい!とっても!」
fin.
本文は一応終わりです。アレク視点とお義母様視点を何話かあげる予定です。
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