上 下
21 / 24

21

しおりを挟む


「最近フォーの調子が良くなさそうだからそれが気になって仕事どころじゃないんだ」

「…ダメよ。仕事はしっかりしなきゃ」


アレクの不安そうな瞳が揺れている
私はそっと彼の頭に手を伸ばす
仕事用にセットされた髪の毛は案外触ると柔らかく、私はその柔らかい髪を指に通した

「ご飯だって以前より食べる量が減ってきているから心配なんだ」

「大袈裟だよ。女の子はそんな時もあるの」

大丈夫だよ。と伝えたい私は必死に彼に言い訳をする
しかし、本当は彼のいう通りここ最近体調はよろしくない

あんなに食べるのが好きだったのに、脂っこいものはきついし、甘すぎるものもうっとくる


そんな私の本音を見抜いたのかアレクは頑なに首を横に振って私の言い訳を拒否する

「フィーが嫌がると思って黙ってたけど実は今日医者を呼んでる」

「えぇ!そんないいのに…」

「ダメだ。しっかり見てもらって」

良い子だから。と軽くチュッとキスをしてくれアレクに絆されて、私は紹介された女医に挨拶をする


「では早速診察しましょう」




ーー





「おめでとうございます。ご懐妊ですね。」


「「えっ?」」

「今は大体5週ちょっとぐらいですね。食べる量が減ったのは悪阻だと思います」


女医の言葉に固まる私たち
機械的に話す彼女に私たちはついていけない


「えっ、妊娠…?」

「はい。月の物が最後に来たのはいつですか?」

「月の物…確かに今月は遅れてて、でも前から遅れる事はよくあったから…」

衝撃的な事実をすんなり受け入れられない私に対して女医はニコリと笑った

「妊娠は奇跡です。思いもよらぬタイミングで授かることはなんら不思議なことではありませんよ」


と。



「そっか…」


彼女の言葉がストン、と落ちてきた私はそっと自分のお腹を触った
まだ膨らみはないが確かにここに命が宿っている

(「不思議」)


その一言に尽きる
女というものは自覚して仕舞えばあっという間に動ける生き物だ
私の頭の中にはマタニティ生活で気をつけるべきことや、準備することが瞬時に展開していた


「フィーが妊娠、私と、私の子供…?」

「そうよ!アレクと私の子供!」

「ここにいるのか…?」

そうだよ。と笑いながら震えるアレクの手を自分のお腹の上に置く
ガラス細工を触るような手つきにくすぐったさを感じる
でもそれがすごく幸せで、嬉しくて、尊くて
私は流れるようにアレクへと抱きついた


「これから家族3人で頑張りましょう」


「勿論。愛してるよフィー。私の唯一の人」


そっと触れ合った唇の熱さは私の記憶の中で一番鮮明に跡を残した








ーー







「おかあしゃま、レベッカ抱っこしてもいーい?


「フィオナ叔母さんに聞いてご覧なさい?」

「はーい!フィオナおばさん、レベッカ抱っこしたいの!」

「いいわよ。そしたらこっちに座って?…そう、頭をしっかり持ってね」


デナム国の市街地に建てられた邸宅
バラの低木が綺麗に整えられたその庭で私と、生まれて半年の娘のレベッカ、そしてお義姉様とその子供の4人で楽しく遊んでいた


「レベッカかわい~」

「ありがとう。レベッカも喜んでいるわ」


首も座って抱っこしやすくなったレベッカはふにゃふにゃと笑っている
その顔はアレクに似ているからきっと彼女は年頃になると美しく育つだろう
我が娘ながら将来が楽しみだ


「…フィオナはテンパートン卿のことはどこまで知ってるの?」


不意にお義姉様がそう話した
彼女が我が家に来るのは3回目
毎回アレクがいなときを狙ってやってくるからお義姉様はアレクのことが苦手なのかもしれないと勝手に思っていたがどうやら間違いではないらしい


「学生時代から私のことをみていたとか、ですか?」

「ソレを知ってるのね。…フィオナ、ごめんなさい。彼に貴女の情報を渡してたのは私よ」

「……薄々そうだろうな、とは思ってました」


ごめんなさい。と謝るお義姉様に気にしないでください。と告げる
終わりよければすべてよし。だと伝えると彼女はほっとしたような表情を浮かべていた


「フィオナ、貴女今幸せ?」


「はい!とっても!」





fin.



本文は一応終わりです。アレク視点とお義母様視点を何話かあげる予定です。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

王太子になる兄から断罪される予定の悪役姫様、弟を王太子に挿げ替えちゃえばいいじゃないとはっちゃける

下菊みこと
恋愛
悪役姫様、未来を変える。 主人公は処刑されたはずだった。しかし、気付けば幼い日まで戻ってきていた。自分を断罪した兄を王太子にさせず、自分に都合のいい弟を王太子にしてしまおうと彼女は考える。果たして彼女の運命は? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたは旦那様にふさわしくないなんて側室ですらない幼馴染の女性にけなされたので、私は離婚して自分の幼馴染と結婚しようと思います

ヘロディア
恋愛
故郷に愛している男がいるのに、無理やり高貴な貴族に嫁がされた主人公。しかし、そこでの夫には、幼馴染を名乗る女が毎晩のようにやって来て、貴族の夫婦のすべき営みを平然とやってのけていた。 挙句の果てには、その女に「旦那様にふさわしくないし、邪魔」と辛辣な態度を取られ、主人公は故郷の男のもとへ向かう決意を固めたが…

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

逃げて、追われて、捕まって (元悪役令嬢編)

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で貴族令嬢として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 *****ご報告**** 「逃げて、追われて、捕まって」連載版については、2020年 1月28日 レジーナブックス 様より書籍化しております。 **************** サクサクと読める、5000字程度の短編を書いてみました! なろうでも同じ話を投稿しております。

処理中です...