元アサシンだった私は転生先で宰相様を護衛する

星川夜十

文字の大きさ
上 下
3 / 7
第1章_出会い

02:元アサシンは暗く笑う

しおりを挟む



それは確かに、黒く大きい'何か'だった。

見た目は熊や虎、獅子をごちゃ混ぜにしたような体躯で、色は漆黒…いや闇を纏っているかのようだ。
怨み、妬み、怒りなど、負の感情をひとかたまりにしたような、身体の芯から冷えていく気配を漂わせている。
何故だかゆっくりとした動きでこちらに近づいてくる。
まだ少し距離はあるがすぐここに来てしまうだろう。


ふと、声が聞こえる方を向けば、小さな女の子が、くろいのコワイと言いながら震えていた。
このままでは、この子が危ないな。どうやら飛べるようだし、早くあいつから遠ざけないと。

「キミ、飛べるなら早くここから逃げなさい。」

[で、でも、でも!]

「私は大丈夫だから、早く行きなさい。」

[っう、わ、わかった!]

女の子は不安そうな顔をしつつふよふよと大樹の方へ飛んでいった。


その時嫌な予感がして黒いやつの方を向くと、そいつの虚のように落ち窪んだ目と視線が絡む。
ニヤリと笑った様に見えた瞬間、そいつは女の子に視線をやり、これまでのゆっくりとした動きが嘘の様に走り出した。

これでは女の子は黒いやつに追いつかれるだろうと判断し、まだ側にいた女の子にごめんと一言いってから片手に掴むと、勢いをつけて大樹のある方向にぶん投げた。

女の子はきゃーと叫びつつも、大樹の近くで体制を立て直していた。
それを見届けてホッとして直ぐ、腹に激痛が走った。
投げる時に身体を捻った所為で傷口が大きく開いてしまったのだ。
せっかく血が止まりかけていたのに、新たな鮮血がシャツを一層赤黒く染めていく。

黒いやつはそれを嘲笑うかの様に顔をニヤつかせながら目の前まで迫ってきていた。

動物であれば構造上笑えないはずなのだが、黒いやつは動物では無いのだろうか。…

そんな事をどこか冷静な頭で考えつつ、何故か黒いやつに既視感を感じていた。

黒いやつとの距離があと数メートルに迫ったとき、そのニヤつきに愉悦と嘲笑を見た瞬間、既視感の正体に思い至った。…

それと同時に黒いやつの鉤爪が弧を描き、頭めがけて振り落とされた。

………
……
黒いやつは確かに女を切り裂いた感触に笑みを深めた。
だが、気がつくと目の前にいたはずの女がいない。

困惑しているといきなり背後から暗く重い圧を感じ振り返った。
その瞬間後ろ脚が動かず体制を崩し転倒した。
更に困惑が増し、立とうとしてからやっと気付いた。
後ろ脚が動かないのではなく、もう存在していないのだ。
黒いやつは憤怒にかられ、女の気配がする方を睨みつける。しかし、その表情は女を目にして直ぐ怯えに変わった。

女の黒い目は仄暗い炎の様な色に染まり、口元は嬉しそうに笑んでいた。
しかし、その身を包んでいる気配は、黒いやつよりもなお濃い闇を思わせる、重く冷たいものだった。


女は、黒いやつの怯えた目と視線が合うと、より笑みを深めるのだった。…







____
主人公、最後いきなり病んでるなー。
まあ、アサシンなんでね。
病んでる理由は後々に書くので。

※そして次ですが、も少し多めにグロ表現入るので、無理な方は読むのご遠慮下さい。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

処理中です...