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プロローグ

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 自分で言うのもなんだけど、私は天才だ。

 魔族として生まれ落ちて僅か14年で、史上最年少で魔王軍最高地位の四天王に就任。
 その中でもトップクラスの実力を持ち、それに見合うだけの成果も挙げてきた。《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》なんて二つ名も付いてしまっている。
 まさに上に立つために生まれてきた、祝福された存在。将来きっと魔族の王となって頂点に立ち、皆を導くことになるだろう。

 そんな私は今、魔王様の御前に呼び出されている。聞くところによると、大事な話があるらしい。
 きっと、これまでの素晴らしい功績を称えて、私に金銀財宝とかその類の褒美をくれるに違いない。
 もしくは、優秀すぎる私に次代の魔王の座を譲ってくれるとか、そういうこともあったりするかもしれない。


「エスペランザ、貴様は今日でクビだ」


 そんな私の妄想は、あっけなく打ち砕かれることとなった。

 最初、何を言ってるのかさっぱり理解できなかった。
 目の前の玉座に腰掛けて偉そうに踏ん反り返ってるおっさん――もとい魔王様は今、なんと言ったか。


「クビ、ですか?」
「うむ、クビ」
「私の首になにか付いてますか?」
「辞めろって意味だよ察しろ」


はー、なるほど。
 つまり、解雇、と。ほー。

 ……なんで????????????


「ちょちょちょちょ、待ってください。なんで? 私なんか悪いことしました?」
「…貴様、今の四天王が何人居るか知ってるか?」


 今の四天王?
 そりゃ四天王なんだから4人に決まってんでしょ、《玄武》・《白虎》・《朱雀》・《青龍》・そして私。

 ちょっと待て。


「5人じゃないですか!」
「そう、5人なんだよ。『四天王なのに5人居るのはおかしい』って苦情が来てな」
「それで、私を解雇すると?」
「そうしたら丁度の人数になるだろう?」


 唖然、それしか浮かんでこない。
 人数調整のためにこの私を辞めさせるっていうのか、このオッサン。


「そ、そもそもなんで私なんですか? 何か理由が?」
「城下の民100名にアンケートを取った結果だ。これを見てみろ」


 そう言って魔王様が渡してきたアンケートの結果の紙を見て、絶句する。
 『魔王軍四天王、一番辞めて欲しいのは誰?』というタイトルを冠したそのアンケートは、なんと私が全体の60パーセントの票を獲得して見事1位に輝いていた。
 しかも、その理由が酷い。


・二つ名がダサいから(40代・女性)
・子供が戦うのは危ないと思うから(50代・男性)
・二つ名がイタいから(20代・男性)
・まだ子供だから(60代・男性)
・二つ名を聞くたびむず痒くなる(10代・男性)
・二つ名が聞いてられない(30代・女性)


 ――まだ子供だから!?
 そんなの関係ないんですけど! こちとら実力でここまでのしあがって来たんですけど!?
 ていうか二つ名の事について言い過ぎじゃない!? 《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》かっこいいじゃん!!


「正直、貴様がその二つ名を提案してきた時は流石の我も引いたよ」
「なんでですか!? かっこいいじゃないですか、《鮮血の女帝ブラッディ・エンプレス》!!」
「あーやめろやめろ、言うな。体が痒くなる」


 露骨に耳を塞いでそれを聞くまいとする魔王様。
 このセンスが分からないなんて、流石に脳が古ぼけていらっしゃるとしか思えない。


「酷いです! 7日間、寝ないで考えた渾身の二つ名なのにっ!!」
「貴様、その間に一瞬でも『時間の無駄』とは思わなかったのか…?」


 魔王様はまるで可哀想な子を見るような目で私を見ている。
 おっしゃる意味が分からない。二つ名はロマンだ。それに時間をかけないで果たして一体何に時間を費やせと言うのか。


「ともかく多数決で決まったのだ。魔族は民主主義、それをひっくり返すことは出来ん」
「……百歩、いや千歩……いや足りないな、億歩譲って私が四天王を降りるのは良しとしましょう」
「そこまで行くと認めんと言ってるようなものだぞ」
「なんで、クビにまでならなくちゃいけないんですか!?」


 こればかりは、激しく抗議せざるを得ない。
 四天王を降りろ、と、国民の皆様が言ってるのであれば仕方ない。不承不承ながら受け入れよう。
 しかし、それならば1段階降格とかそれでいいのではないだろうか。クビというのは、すなわち仕事を辞めろという意味。
 何も、そこまでする必要は無いんじゃないか!? 別に、大失態を犯したわけじゃあないんだし。


「だって、貴様女じゃん」


 ……は??????
 え、待って? 理解できない。
 このクソジジィ、何を言って……?


「いや我も戦闘力に目を付けて採用したからな、採用してから女と気付いたんだ。よくよく考えれば、女子供に血生臭い戦場は似合わんだろう。いい機会だし、大人しくカフェとかメイドとか、そのあたりの戦いに縁の無いところでゆったりと働くのが性に合って……うぉっ!?」
「フーッ、フーッ、フーッ……!!」


 怒りに身を任せてぶっ放した氷の魔法を、魔王はすんでのところで避ける。そのせいで玉座には氷塊が食い込んで穴が開いたが、そんなことはどうでもいい。
 今はこの差別ジジィの急所に、なんとしてでも一発ぶちかましてやりたい気分だった。


「次は、脳天にっ……!!」
「お、おい落ち着け! これ以上やるならば我も反撃するぞ、いいな!?」
「っ……!」


 それを聞いて、出しかけた魔法陣を収める。
 腐ってもシワだらけになってても、この男は魔王だ。流石に今の私では、反撃されたら無事では済まないだろう。彼我の実力差を理解して尚立ち向かうほど、私は馬鹿ではないのだ。
 怒りが一向におさまらないまま、私は魔王に背を向けて玉座の間の扉を乱暴に開けた。


「ふぅ…退職金は魔界ゆうちょに振り込んでおく、それを元手にするといい」
「うるさいっ、さっさとくたばれクソジジィっ!!」


 捨て台詞と共に、私は扉を力任せにバタンッッ!! と閉じる。
 壊れろと念じながら閉じたけど、流石に魔王城最深部の扉、そうもいかなかった。クソっ。


「………ムカつく……!」


 悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい――!!

 偉くなって、金持ちになって、自由な暮らしがしたかった。そのためにここまで努力してきて、たまに血反吐だって吐いた。
 それを、女だからって、子供だからって、踏みにじって!! ふざけるなっ、ふざけるなっ…!! 

 怒りと、悔しさと、その他諸々の負の感情によってポロポロと溢れる涙を拭いつつ、私は憎き魔王の居城から荷物を纏めて、お望み通りにさっさと出て行ってやるのだった。
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