上 下
238 / 240
最終章 我が祖国よ永遠に……

最終話 リーラよ、永遠に幸せになれ

しおりを挟む
帝国暦 323年 春

 ノーザンランドに春が訪れる。
 暖かな風に誘われ、木々には若い芽も顔を出し、花も開き始めた。
 雲一つない真っ青に晴れた日に皇帝の婚姻式が行われる。
 
 大聖堂の扉が開き、ノーザンランド皇帝クリストファー・ルシュルツ・ノーザンランドは后になるリーラ・リヴァリオン・ラクラインを伴い、中央にいる司祭の元にゆっくり歩んでいく。
 后は繊細なレースで仕上げられな長いトレーンを広げ、純白で清楚な花嫁衣装に身を包んでいる。皆、美しい后の姿に感嘆の声を上げる。

「リーラ、綺麗よ」
姉であるローズ・リヴァリオン伯爵夫人は目を潤ませながら妹の花嫁姿を見つめ、夫であるリヴァリオン伯爵も妻の手を握り締め義妹の晴れ姿を見守る。
 伯爵夫妻の横には旧リヴァリオン国の騎士服を身に包んだ、ダリルと背後にはリヴァリオン伯爵領の官吏とその騎士達、そして祖母のローリー・レキシトンが孫の晴れ姿を見守っていた。

「ダリルさん、貴方のおかげでリーラは幸せを掴めました。本当にありがとうございます」

「ローリさん、私の方こそ感謝しています。
 あの時アレクに救われなかったら、私は路頭に迷っていたでしょう。我々の出会いはまさに運命だったのです」

ローリーは「えぇ」と静かに頷き、ダリルはリーラから返されたリンダの短剣を見る。

——リンダ、これは運命だっただろう?

短剣は同調するかのように微かな光を出し始める。

 帝国の各大臣、そして、主となる貴族達が婚姻式を見守る。その中には来賓として招待されたアンデルク国のアネット王女とベルク国のエメラルド王女の姿もあった。

「皇帝の手中に収まっちゃたわねぇ…」
エメラルド王女はクスッと笑うとアネット王女はその言葉を聞き逃さなかった。

「どういうことですの?」

「ご存知なくて?幼き頃に王女を見初めて、帝国にお連れになってからもずっと傍に置いていらっしゃたのよ」
エメラルド王女は自慢気に話す。

「まぁ?!そうでしたの…」
舞踏会のやり取りから思い当たる節はあるものの、結局はライアンには脈はなかったのだと納得するアネット王女。

 無事、夫婦の誓いを済ませ、婚姻式が完了すると続いて皇后の戴冠が執り行われる。
 ベールが外され金色の獅子が刺繍されたマントを掛けられると皇帝クリストファーから
皇后の冠を頭に乗せられる。

 頭上にのしかかる冠の重さを確と受け取ったリーラは皇后という責務を背負う覚悟を決め、クリストファーに決意の眼差しを送る。
 その決意を受け取ったクリストファーはリーラの手を取ると感謝を込めて手の甲に口付けを落とした。


「きゃっ!」
と突然。女性の悲鳴が聞こえ、参列席がその声の先を一斉に見る。
見つめ合っていたリーラとクリストファーも声の先に振り向くとダリルが光に包まれ、若かりし姿に変わっていた。



◇◇◇


 微かな光を出していた短剣の光が増していく。そして、光の中から金色の髪をした美しい女性が出現する。

『ダリル、迎えに来たわ』

「リンダ……リンダなのか?!」
ダリルは突然現れた愛しき人に驚くとダリル自身がキラキラ耀く光に包まれる。

「なんだ?!この光は?!」
光が収まるとダリルは身体に違いを感じる、手を見ると年老いて乾涸びた手ではなく、張りのある瑞々しい手へと変わっていた。

「きゃっ!」
近くにいたリヴァリオン伯爵夫妻はダリルの変化に声をあげて驚く。

「リンダ……迎えに来てくれたのかい?」

『えぇ、遅くなってごめんなさい』

「遅くないよ……
 会いたかったよ、リンダ」
ダリルは会いたくて仕方なかった最愛の女性をしっかりと抱き締めた。


◇◇◇


 抱き締めあう男女の姿を見ながら、リーラは深い眠りから目覚め時にリンダからの言葉を思い出す。

『ダリルを返してね…』

——あの時の声の主は…


 ダリルは突然の別れに辛そうな表情をするが精一杯の笑顔を作り、リーラに笑う。

「幸せになれよ!リーラ!」

ダリルは再びリンダを見つめると
「さぁ、行こう!もうこの手を離さないよ」

『えぇ、ダリル、離さないで…』
そして、2人はしっかり手を握り合う。

「ダリルッ!!!」
ハルクの叫びにダリルはハルクの方を向く。
「ありがとう、ハルク!じゃあな!」

そして、二人は微笑みながら少しずつ光の粒子となっていく。

「ダリルーッ!!
 と、父さーんッ!!!」
リーラは二人がいた場所へ駆け寄るが二人の姿はなく剣と短剣が残されただけだった。

「嘘………
 ちゃんとありがとうって…
 うっ、うっ、ううっ……
 言えてないよ………
 まだ、まだ話したいことたくさん、
 うっ、うっ、あったのに…… 
 ダリル……ダリルーーーッ」
泣き崩れるリーラを後ろからそっと抱き締めるクリストファー。

「おい、嘘と言ってくれよ……
 旅をしようと約束したじゃないか…」
突然友人を失った悲しみを受け入れることが出来ず男泣きするハルク。

リーラとハルクに光が触れ、さようならと告げると光は消えていく。

「うぁーーん、ダリルーーッ…」
涙が溢れ、その場に離れることができないリーラを慰めようとぺぺが飛んで来た。

「元気だせピヨ、あんまり泣くとお腹の子も悲しむピヨ」
ダリルが消えたことで騒ついていた大聖堂内だが鳥の爆弾発言を参列者は聞き逃さなかった。

「うっ、うっ、えっ…………何?」

「だから、リーラとクリストファーの子が宿っているピヨ、ピヨヨ~」

リーラの涙も自然と止まり、クリストファーをギロッと睨みつけ、
「信じられない!」
クリストファーの胸を両手でポカッ、ポカッとたたく。

「こんなにも上手くいくとは……」
あまりにも物事が上手く運びクリストファーは愛妻に見えないようにほそく笑む。

ダリルの騒動で騒ついていた大聖堂内が皇后の懐妊を知り、より騒めく。
「まぁ、まぁ、まぁ!」
ローリーは孫の懐妊をリヴァリオン伯爵夫妻と共に喜び、
「なんとめでたいことだ」
「やはり父君同様、手が早いのぅ」
と各大臣や貴族達は新たな後継者の期待に湧き立つ。


「リーラ、行こうか」
クリストファーは膨れ顔の愛妻をしっかりと抱きかかえると扉へ向かう。侍従が扉を開くどこから現れたのか外には花吹雪が舞っていた。

「花……綺麗ね……
 ダリルとリンダ様が花を散らしてくれているのね……」
「1番綺麗なのはリーラだがな」
「うふふ」
 照れる花嫁を愛おしいそうに見つめるクリストファー。
 そして、顔を見合わせ互いに微笑み合うと深く唇を交わす。


 沿道から待ち構えていた沢山の民達は仲睦まじい皇帝夫妻の姿を見ると歓声が沸き起こる。二人は馬車に乗り込むと民衆の声に応えるように手を振った。

 花吹雪は二人が皇宮へ戻る間、祝福するように舞っていたそうだ……



◇◇◇



 帝国には語り継がれる物語がある。

 ‘’金獅子の賢者ダリル’’

 敵国に侵略された王女を救う為に過去からやって来た賢者は強さと多様な知識で敵を倒し、王女を助け、使命を果たすと再び元の時代に戻ったそうだ。

 皇宮前の広場には賢者ダリルとその妻リンダの石像が立っている。町行く人々は国に災いが起こらぬように今も石像に願うそうだ。

                 完

  

 長きに渡りお付き合い頂き誠にありがとうございました。
 初めて挑戦した小説を無事終わらせることが出来、感無量でございます。

 お気づきかもしれませんが実は、最後にリーラが与えられた新たな神託については触れていません。後日談にて触れていこうと考えています。後、2話ほど投稿予定です。よろしくお願いいたします。
 
   

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...