上 下
233 / 240
最終章 我が祖国よ永遠に……

第17話 リヴァリオンに訪れる春

しおりを挟む

 
帝国暦322年 春

 ゾーンとの戦いが終わり、リヴァリオンは復興に向けてが動き出す。

 勝利に貢献したノーザンランドはリヴァリオン国を領土獲得する。
 皇帝はリヴァリオン国をリヴァリオン領として定め、第1番隊隊長ビル・リッチモンドにリヴァリオン伯爵の位を授け、リヴァリオン領主として治めるよう命ずる。

 リヴァリオン領都は北の街ローフェスに移され、領都を見渡せるように領主の屋敷が建設中だ。殺戮のあった城は取り壊され、その跡地には犠牲になった者達の碑が建てられている。領民は一丸となり領の復興に力を注いでいるのだ。
 
「ごきげんよう、ハントン卿、キングストン卿」
騎士の詰所に簡素なドレスを身に纏ったリヴァリオン伯爵夫人ローズが現れた。

「おぉ、これは伯爵夫人」
黒色の帝国騎士服を身に纏ったダリル・ハントンがローズ・リヴァリオンに深々と礼を取る。

「お忙しいとはわかっているのですが、何名かの騎士をお借りできるかしら?各国からの救援物資を頂き、各街に届けて欲しいの」

「わかりました、若い者を何名が送ります」

「ありがとうございます」

「今日も孤児院ですか?ローズ様もあまりご無理なさいますな」

「ふふふ、ありがとう、大丈夫よ。無理のないように手伝っていますから。そうそう、ハントン卿も夜のお酒はほどほどになさいませ。お2人の飲みっぷりの良さは噂になっていますよ」

「なんと!噂とは?!」
と横にいたハルクがガハハハと笑う。

「では、また」
 リヴァリオン伯爵夫人は微笑みながら詰所を後にする。
 彼女は夫ともに戦後、リヴァリオン領へ戻り復興が必要な街や村に出向き、民のために尽くしている。民達への配慮を欠かさず行い、今では逃げたした王女ではなく、救世主である幼い聖女を守り抜き、そして育て上げた聖女の姉として民から慕われている。
 夫のビル・リヴァリオンも領主だけではなく、外交大臣の任も任され国のために活躍している。

 第6番隊副隊長であったダリル・ハントンはリヴァリオン騎士団へ移籍し、団長として領内の復興に力を注いでいる。ハルク・キングストンもダリルを手伝う為に国を訪れ、一年後には若い世代へとバトンを渡すつもりだ。

「誰か、伯爵邸に出向いてくれ」

「団長、俺が行きますよ」

「リヨン、頼んだ、若い奴も何人か連れて行ってくれ」

「了解ッ!」
リヨン・グリットは若い騎士達に声を掛けると伯爵の仮屋敷へ向かう。
 彼の息子ロンが化け物に取り込まれ、最後は国を守るために化け物を抑え、亡くなった報告を受けると息子を失った悲しみから立ち直る時間を要したが、泣いてばかりでは命をかけて国を守った息子に顔向けできないと復帰を申し出たのだ。
 リヨンはノーザンランドに貢献した功績からダリルの跡を継ぐ次期騎士団長として任命を受けており、責務を果たそうと日々頑張っている。

「ダリル、そろそろ切り上げるか?」

「そうだな、ハルク」

「団長達、飲みすぎないで下さいね、朝、迎えに行くのが大変なんだから」
詰所にいたサムがダリルとハルクに釘を刺す。

 サム・バーリーはローレンヌ騎士団を退団した後、故郷のリヴァリオンに戻り、リヴァリオン騎士団に入団する。将来は父のような騎士団長になるが夢だ。兄が果たせなかった夢を代わりに果たそうと日々頑張っている。

「今日の仕事は終わりだとルディに伝えてくれ」

「了解です、騎士団長!」

 ルディ・ロッテンハイムは第6番隊派遣隊員としてリヴァリオン国へ来ていた。彼は精霊の友を偲ぶために休憩の合間に湖に行き、オリーに話しかけているのだ。

「オリー、君が国を救ったおかげでリヴァリオンの復旧は大分進んだよ」

ルディは青々とした山々を見つめる。

——君は空の上から見守っているのかな…

「ルディさーん!隊長達が夕食を食べに行くから戻ってこいとおっしゃってまーす」
サムが走りながら呼びに来てくれたようだ。

「サム、いつもごめんね」

「いいえ、ルディさんもあの戦いで大切な方を失ったと聞きました」

「うん、きっと空の上から僕を見守ってくれていると思うんだ…」
空を眺めるルディの横でサムも父と兄を思い出しながら空を見上げた。

 ひゅうっとリヴァリオンに暖かな風が吹く。春の訪れを喜び、湖の周りの花々の蕾が開き始めた。

 リヴァリオンに春が来た…
 



 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...