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最終章 我が祖国よ永遠に……

第9話 リディアムの過去

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 リヴァリオン城……

 かつての白亜の美しい城の姿はなく、城の壁はひび割れ、城内も廃荒れ果てた有様だった。
 その城に居を移した少年は窓を開け、バルコニーに出ると目の前に広がる湖を見つめる。

「あぁ、感じるよ…美しい…」

 少年は外套を取るとと床に落とした。
 茶髪の少年はリーラが上空に放った力を眺めながらニヤリと笑う。

「あぁ、兄さんの力だ…」


◇◇◇



 国の名もなき時代に僕は生まれた。
 英雄である父、兄、そして、村1番の美しさを誇っていた母から生まれた僕は病弱な身体だった。
 活発な兄のように外で狩りもすることなくベッドに横たわり、窓から兄が楽しく遊ぶ姿をいつも眺めていた。そして、いつも父と母が僕の傍で呟くのだ。
「ラクラインのようにリディアムの身体が強ければ…」
「兄のようにたくさん食べれば丈夫になれるぞ!」

父、母からは常に兄から比べられ、喉も通らない食事を食べさせられる日々に僕は疲れていた。

「オェーッ、ゴホ、ゴホ、ゴホ!!!」

『リディアム、大丈夫?』

「あぁ…」

優しく常に寄り添ってくれたのは水の精霊アクアベルだった。吐き戻し、汚れた身体を力で綺麗にすると彼女は励ましてくれたのだ。

日に日に身体が弱まる僕をアクアベルは心配そうにする。
『貴方の生命の灯火が消えそうだわ』

「そっか…生きることに疲れた僕にはちょうどいいさ」

『リディアム、そんなこと言わないで!』

「君と一緒に生きたかったな………
 神様…僕は水の精霊になって、アクアベルと一緒にいたいです」

『リディアム!私も一緒にいたいよ………
グスン…うっ、うっ、わぁーん!!』
泣き崩れる小さなアクアベルを手で包みこむと僕達は光に包み込まれた。手の中にいたアクアベルの姿はなく、身体からアクアベルの声が聞こえる。

『神様が私達の願いを叶えてくれたのよ、外に行きましょう!』

 湖に向かい、水に念じれば自由に操ることができたのだ。この力が有れば兄さんのように父母は認めてくれると淡い期待を募らせると、遠くから取り巻きを連れ、闊歩する兄の姿が見えた。
 僕の内に秘めたる闇が動き出す。

——あいつは邪魔だ…

 僕は日頃から目障りでもあった兄さんの友人のアリアを殺し、村中に原因が兄さんだと思わせると思惑通りに居づらくなった兄さんは村から追い出されるように隣村へと逃げて行った。

 邪魔者がいなくなり平穏な生活ができると喜んでる矢先に僕に今まで感心を示さなかった母が、
「リディアム、どうして病気が治ったの?
 貴方、瞳に青が混ざっていない?
 まさか水の精霊を食べたんじゃないでしょうね…」
口を手で押さえ、恐怖で震える母は怪物を見るような眼差しで僕を見る。

「うるさい…」
僕は母を殺すと水の音に気づいた父が部屋に入って来た。
「見たな……さよなら、父さん」  
そして、父の息の根を止める。
異変を感じ、騒ぎ立てる村人達を次々に葬ってる。

 ようやく静かな日々を取り戻せた時、追い出した兄さんがひょっこりと村に戻ってきた。
 僕が創り出した水の世界を見て、兄さんは驚いたように、「なぜ、父さん、母さん、村人を殺したのだ」と問う。

 ——邪魔だからだよ

 当たり前のことを聞いてくる兄さんに真実を話してやると兄さんは激昂し、僕に剣を向けてきた。僕は油断した隙に兄さんの持っていた剣が胸に刺さる。
 剣はゆっくりと身体の中へと入っていくため、剣を抜くことが出来たず、混乱しながら叫んでいた。

「なんだよ、この剣!身体の中へ入っていく!!」

兄さんは僕が逃げないよう、足元から結界を張り、精霊王の力で浄化を始めた。

「ウワァーーーッ、嫌だァー!!」
 僕の足は精霊王の力により消滅していく。

「ウワァーー、僕は死なない、僕は死にたくい…アクアベル………」

 ——逃げよう

 ——わかったわ、リディアム、
   エクストリア、ごめんなさい
   彼を見捨てることができない
   さようなら…

 僕とアクアベルは身体が消える瞬間、水となり上空にあった黒い雲に逃げ込むと風に運ばれて南の地へ雨粒として落ちたのだ。

 運良く、餓死しかけた子供の口の中に雨粒は入り、新しい身体を手に入れた僕は南の地で新しい世界を創ることを決めた。

 しかし、僕とアクアベルの魂は長く他人の身体に寄生出来ないことに気づく。僕達の魂が高貴過ぎて、人間の肉体はすぐに腐敗するのだ。
 子供達の身体を寄生し、何百年の時を過ごす内、僕は昔住んでいた村が山を越えた場所にあることに気づいた。

 きっかけは一人の男が僕の住んでいた村の自慢話をしたからだ。

 ——リヴァリオン国……

 興味が湧いた。
 兄さんの子孫が生きて、精霊王の力を引き継いでいるのだ。
 僕は国に訪れようと向かうがどうしても山を越えることが出来なかった。

 ——なぜだ?

 山に何かしらの結界を感じ、僕の訪問を拒絶するのだ。時が流れ、兄と容貌が似ている王女が生まれたと報告を受けた。

 僕は兄さんの魂の再来だと分かる。
 精霊王の力を持った身体を手に入れれば身体は腐敗せず永遠に生きられるではないかとと確信する。

 何度も王女を連れるように命ずるが部下達は失敗を繰り返す。
 口惜しい思いをしながら、かつて王女の友人だった少年に寄生すると、身体には精霊王の力がしっかりと染み付いていたのだ。

 ——これが光の力…
   力が漲る…

 そして、拒まれ続けていたリヴァリオンへ難なく足を踏み入れ、ようやく生まれ故郷へと戻れたのだ。


◇◇◇



「もうすぐあれが僕のものだ…」

リディアムはクックックッと笑い出す。

「早くおいで…兄さん、いや、王女様…」

 リディアムはリーラのいる方角に向かって笑いながら手を差し伸べた。



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