上 下
201 / 240
第12章 残酷な定められた天命

第4話 初代王のラクラインの記憶ー1ー

しおりを挟む
(リーラ→ラクライン目線でお送りします)

 ようやく仕事を片付け、皇宮にある自室に戻ると身の回りを世話する侍女ミーラがすぐに湯あみの準備をしていてくれた。

「さぁ、どうぞ、汗を流して下さいませ」

「ミーラさん、いつもありがとうございます」

 汗を流し、いつものように髪を梳かしてもらうとミーラはあっという声を上げた。
「どうかしましたか?」

「いえ、首筋に何ヵ所が跡が残っていますわ。陛下ですわね…」
ミーラの一言に昼の一部始終を思い出し身体が熱くなってしまう。

「一応、目立たないように軟膏を塗りますわ。明日は少し髪の結い方を考えねばなりませんわ」

「うっ…よろしくお願いします」

「では、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」


 立ち上がり、向かいの棟のクリストファーの居室を見ると明かりがまだ付いていた。

「きっと、まだお仕事してるんだわ…」  

 昼間のことを思い出し、幸せな気持ちに浸りながらベッドへ倒れこむ。

「今日も見るのかな…夢…クリスが傍にいてくれたら怖くて夢を見なくて済むかな…」
 
うとうとと眠気が襲い、リーラは知らぬ間に眠っていた。


◇◇◇

 懐かしい景色が見える。

 澄んだ美しくキラキラ輝く湖、周りに万年雪が頂に被っている山々…

 あぁ、この地はリヴァリオン国…
 でも、城も街も何もない。
 きっと遥か昔の姿なんだわ…

 湖に美しい銀髪を風に靡かせて男が立っている。
 私はその男に近づいているようだ…





「おい!ヴァリオン!また、会ったな!」

「また、おまえか…ラクライン」

「おまえ、本当に暇そうだな」

「暇ではない。私にはおまえ達を守る義務があるのだ」

「精霊という生き物は大変な義務を持っているんだな…神に託されてるだっけ?」

「おまえ達の祖先の神だ…」

「今は天に暮らしてるんだよな」
俺は人差し指を空に差し示した。

「まぁ、釣りでもしようぜ」
俺は強引に釣竿をヴァリオンに渡すと強引に岸に座らせ黙ったまま、釣りを始めた。

『精霊王様、ラクライン!私達が魚をとってあげようか?』
羽をつけた生き物達が釣りを邪魔してくる。

「馬鹿やろう!釣りというのは自分で獲ってこそ楽しんだ!ヴァリオンを見てみろ、力に頼ってばかりで一匹も獲れていない」 

『本当だー!精霊王様下手ですね~』 
精霊の一言でヴァリオンの眉がピクリと動いた。普段から無表情だが、俺は知っている。相当悔しがっている、あいつはすぐに湖を向き釣りに集中し始めたのだ。

 何時間経ち、ようやくヴァリオンの釣り竿に魚が喰らい付いた。

パシャ!
「獲れた…獲れたぞ、ラクライン」
あいつは口元緩ませ、始めて笑った。
「やったじゃないか!」
俺はあいつの肩を引き寄せ共に喜び分かちあった。

 俺が小さい頃に湖のほとりで初めてヴァリオンに会った。あいつはいつも決まって時間に湖に現れ、暇そうに山々を見つめているから話し相手になってやったんだ。
 俺が楽しいと感じることをヴァリオンに教え、ヴァリオンは精霊についてやこの村がどうして出来たのかを教えてくれた。

 神様がこの地に降りたった時に1人の少女に恋をして二人は結ばれたそうだ。そして、二人の間にはヴァリーと言う名の女の子とリオンと言う名の男の子が生まれたそうだ。やがて愛した女性は亡くなり、この地に未練がなくなった神様は自分の世界に帰ることにしたのだ。
 二人の子供を心配した神様は、この地を守るため、大きな湖、山々を創り上げ、村を囲んだそうだ。この地を守る精霊も創り上げ、ヴァリーとリオンを守るように言ったそうだ、その精霊がヴァリオンなのだ。ヴァリオンの名は神様から与えられたそうだ。

 ヴァリオンは北の山にある泉に住みながらこの地を、俺たち子孫を守ってきたそうだ。
 俺たちの村にはヴァリオンが創り出した、たくさんの羽のついた生き物が飛んでいて、俺たちを助け、守ってくれている。
 火が必要なら火を出し、水が必要なら水を出す、湖周辺にはたくさんの村々が点在し、村同士が争えば助けてくれ、精霊達に守られている俺たちの村は最強の村だと知られているのだ。

 俺はこの最強の村で最も力も強く、剣の腕もあり、最強だと自負している。だから、いつまで義務に縛り付けられている俺の友人をこの地から解放してやりたいと思っていた。

「ヴァリオン…俺はいつまでおまえの力に頼ってはいけないと感じている」

「私が不用だということか…」
ヴァリオンは無表情だか少し悲しんでいるようだ。

「違う!俺一人の力で村を守れると思う。だからおまえも義務で縛られんじゃなくて自由に生きろよ!やりたいことはないのか?」

「やりたいこと…」
ヴァリオンはじっと考え込むと口を開いた。
「我が力はこの広い大陸から得ている、山を越えた地がどんな場所か見てみたい」

「じゃあ、行けよ!見てこいよ!おまえ飛べるだろ!」
俺はニカっと笑いヴァリオンの背中を押した。

「しかし、この地に我が力も置かねばならないと神が仰っている…ラクラインよ、我が力を受け取り、この地を守ってみるか?」

「えっ?いいのか?おまえの凄い力を受け取って??」

「あぁ、しかし、お前の身体に異変が起こるかもしれない」

「あぁ、構わないさ!」

 そして、俺はヴァリオンに力を授かった。金色だった髪は銀色に変わり、瞳はヴァリオンと同じ紺碧色にへと変わったのだ。

 村人は新たな力を得た俺を最強の戦士と讃え、俺は誇らしかった。
 しかし、後先考えずに力を授かったことが俺を苦しめる原因になることも知らずに…


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

処理中です...