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第10章 恋の波乱を巻き起こすデビュタント

第13話 恋敵との対面(レイチェル・コールディア目線)

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♪♬♩♫~

優雅な音色が響き、顔見知りの者達が踊っている。
「レイチェル、体調は大丈夫か?」
「はい、お爺様。久しぶりの宴に心躍りますわ」
コールディアから戻り、久しぶりの社交界で少し緊張をしていたが、いざ宴に参席してみるとこの雰囲気を華やかな場を楽しむ気持ちに嘘はなかった。とびきりお洒落して、想う方と手を合わせ踊れる喜びは格別。
 しかし、父から聞かされた陛下の新たな婚約者候補に少し不安があったのは事実だ。

 祖父の側近が近くにくるなり何かを報告しているようだ。
「なんと、レイチェル!あの話は事実ではないようだ。例の娘はアンデルク王子とパートナーとして参席しているようだ」
 突然、衝撃的な事実にすぐに二人を探すと、王子の髪の色と同じ紅色のドレスを纏ったリーラ・レキシトンが仲睦まじそうに踊っていたのだ。

 ーー良かった…
   噂だったのね…

 私は安堵すると、ショックで泣いていた日々を馬鹿らしく思い、クスッと笑ってしまった。

「デビュタントが終われば、陛下に一曲願いに行こう」
と祖父が嬉しそうに笑うと、
「そうですわね」
と祖父に笑いかける。

 陛下と皇太后様にご挨拶をと玉座へ進むと、陛下がこちらに向かい歩んで来てくれた。

「陛下!」
私は嬉しさのあまり声をあげると陛下は横をすっと立ち去られた。

 ーーどちらへ?!

 私は陛下を向かわれた先を目で追うと踊り終えたリーラ・レキシトンを抱きかかえ、退席された。

「どういうことだ!」
祖父が思い切り杖を床に叩きつけた。

 周りの様子を見るとどうやら、この状況を掌握できない貴族達が慌て,騒いでいた。やはり、噂通り、リーラ・レキシトンが妃候補かもしれない不安がよぎり気分が悪くなる。

「レイチェル様、お顔の表情がすぐれませんわ」
歓談していた学友の令嬢が心配そうに顔を覗きこんでくれた。
「ありがとう…今日はもう退席しようかしら」
告げると同時に再びトランペットが鳴り響き、陛下の来場をつげた。

「「「まぁ!」」」
会場が騒めいた。

「あっ……」

 陛下とあのリーラ・レキシトンと同じ柄の正装着とドレスで来場したのだ。陛下はリーラ・レキシトンをまるで愛おしむように扱い、踊りを披露された。

  ーー彼女にお決めになられたんだわ…

    グサッ。

 胸に何かが刺さったように苦しく、胸を押さえると、陛下はリーラ・レキシトンと並び、何かの発表をされるようだ…

  ーー皇后が決まった発表ね…


「今宵、帝国の新たなつるぎとなる者が誕生する。リーラ・ハントンの数多く活躍を讃え、この場において第6番隊隊長に任命する」

  ーーまさか…隊長…

「レイチェル様、良かったですわね、あの衣装は6番隊の騎士服と似ていますわ、きっと、あのハントン卿を讃えて、陛下がお揃いにされたのですよ」
「ほら、ハントン卿はアンデルク王子と再び踊っていらっしゃいますわ」
友人が私は励まそうと何人も集まってくれた。
「本当ね…」

陛下の口からはっきりと語ってほしいとお姿を探すが既に宴を退席された後だった。

 ーーそうよ、陛下とお話すれば、
   私の愚かなな姿を見せてしまう…
   お話できなくてよかったのよ

 宴が終わってからも陛下とリーラ・レキシトン、いやリーラ・ハントンの噂は貴族の間では持ちきりだった。私を翻弄するリーラ・ハントン…一度、彼女と話をしなければ私は彼女が経営する店へ自然と向かっていた。



◇◇◇


レキシトン商会のドレスショップは帝都の一等地に貴族用店舗、平民街にも平民用にとそれぞれの階級に合った店を開店したようだ。
 
「いらっしゃいませ」

「予約なしに来たけど、お嬢様にドレスを見せてくれる?コールディア様よ」
侍女が店員に声を掛けると、
「かしこまりました、では、特別室に案内致します」
紺色の制服を着た店員は礼儀正しい所作で案内をする店内は噂を聞きつけた令嬢達で賑わっていた。
 特別室に向かう際に、二人の令嬢が楽しそうにドレスを選んでいる姿が目に入る。

「リーラ様~こちらはどうです?」

「ナタリア、さっきから落ち着いた色ばかり選んでるよ?」

「最近は落ち着いた色が好きですのよ」


  ーーリーラ・ハントン…

横目でチラリと見ながら、店員にリーラ嬢を呼んでほしいと頼む。綺麗に内装された特別室のソファーへと腰掛けていると、
「失礼致します。オーナーのリーラ・ハントンでございます。ようこそ、我が店へ。どのようなドレスをご用意致しましょうか?」
と彼女は私の顔を見るなり、あっと小さく声を上げた。

「久しぶりね、リーラ・レキシトンさん。いえ、リーラ・ハントン卿が良いかしら。学院では危ないところを助けて頂きありがとう」

「いえ、騎士として当然なことをしたまでです」

「何かお礼をと思い伺ったの」

「いえ、お礼など必要ありません。今後とも我が店を贔屓頂けると嬉しいです。次回からはお屋敷に店の者をうかがわせますから気軽にどうぞお申し付けください。宜しければドレスサンプルもご覧になられますか?」
と彼女が尋ねた。

「いいわ、実は貴女に話があって来たの」

「はい?」

「つまらない噂を聞いたのよ」

「噂?」

「貴女…が皇妃候補だと」

「えっ?!」

「どうかしら?」

彼女は困惑の表情を見せは静かに考え込むと、
「妃候補候補と聞き、正直、何かの間違いだろうと驚きました。私は騎士として長年勤めて参りましたので妃など滅相もありません」
と彼女は首を振ると必死に否定した。

「そう…突然にごめんなさい、忙しい中、時間を割いてもらって申し訳なかったわね」

「いえ、お気になさらずに」

 私が去りゆく間も彼女は笑顔で見送ってくれた。彼女の言葉に安心しつつ、何かしらの不安を感じずにはいられなかった。しかし、この予感が的中する日がすぐにやってくるとは思いもしなかったのだ。


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