【完結】ノーザンランドの白き獅子リーラ 〜捨てられた王女は人生逆転復活劇は起こしたくない〜

第10章 恋の波乱を巻き起こすデビュタント

第5話 波乱のデビュタントー1ー

　　　　　　　夏の宴　当日

　華美な一台の白い馬車が皇宮へと向かう。静かな車内には黒色の燕尾服に身を包んだルマンド・フォールドと可愛らしいく着飾ったメレディス・オリアンを乗せていた。沈黙を破るようにメレディスが震えながら声を出す。

「あ、あの…ルマンド様、お忙しい中、私のデビュタントのエスコート頂きありがとうございます」

「あぁ」

「最近はお忙しいですか」

「あぁ」

　ルマンドは手元にある書類から目を離すことなく適当に返事をするだけだった。メレディスはこれ以上話しかけてはいけないと判断し、窓からの景色を眺めた。
　皇宮へ進むと正面玄関に馬車をつける。ルマンドが慣れた手つきでメレディスの手を取り馬車を降りると側近のサザリーとロックがそれぞれの婚約者を連れ近づいて来た。

「待たせた、行こうか」
「「はい」」

賑やかな広間に入ると貴婦人達がルマンドの美しさに目を奪われ、まぁと声を上げた。
「公子様だわ、ますます素敵になられるわね」
隣に立つメレディスは自身の容姿に自信がなくなり俯き気味になる。
「胸を張れ、フォールドの者として恥じないように歩くのだ」
と横にいたルマンドに注意されたメレディスは背筋を改めて伸ばした。眩いシャンデリアに照らされた豪華な広間を見たメレディスは場違いな所に来てしまったと痛感せずにいられなかった。

　

　賑やかな会場内では来賓のアンデルク王族の話や間もなく開店するアンデルクのドレスショップ、危機を救った蒸留酒の話題を貴族達は交わしていた。



「おぉ、ダリル！」
ハルクがマリアを伴いダリルに挨拶にやって来た。
「あぁ、ハルク、マリア殿もお久しぶりです。
こちらのご婦人はリーラの祖母のローリー夫人だ。一人参加は寂しいから同行願ったんだ」

「おや、リーラに似て美しいご婦人だ」
「あらっ、本当に似ていらっしゃるわ」

「ローリー・レキシントンでございます。いつも孫がお世話になっております」

「リーラはデビュダントには参加しないんだったな今日はリーラは留守番なのか？」

「「あっ、いやそれが…」」
と二人困ったように顔を見合わせた。

トランペットの音が鳴り響き、来賓であるアンデルク王族の入場する。ライアン王子は紅色の礼服に身を包み、横を歩く同色のドレスを纏った銀髪の美しい令嬢エスコートしていた。続いてアネット姫もお揃いのドレスを身に纏い、騎士団長デュークのエスコートで会場に入って来たのだ。

「あ、あ、あれはリーラじゃないのか？？」
ハルクは顎が外れたかのように口を開き驚いている。




「あれは…リーラさん？」
ライアン王子と隣に立つ女性をみたメレディスも思わず驚いて声を出す。
「リーラ…」
メレディスの声を聞いたルマンドも女性の姿を見て声を出す。

周りにいた貴族学院で顔見知りになった令嬢達がリーラの姿を見て、騒ついている。
「まぁ、王子がエスコートされているのはレキシントンさんよ！」
「ほら、レキシントンさんのお店は王室御用達だから、開店に合わせて同伴されたのかしら？」
「王女様とお揃いで素敵だ」
「本当ね」



再び盛大なトランペットが鳴り響き皇帝の来場を合図する。皇帝は皇太后の手を取り、エリザベスはベンジャミンを伴い入場した。
クリストファーは玉座の前に立つと、
「今年の宴も皆の元気そうな様子を見れ、何よりだ。今宵は我が妹のデビュタントの場となる。さぁ、エリザベスよ、私達に美しい姿を見せておくれ」

エリザベスとベンジャミンは礼を取ると二人手を取り合い広間の中央に赴くと演奏が始まり二人は踊り始めた。

♪♬♩♫～
「エリザベス殿下、お美しい…」
「ウィンターニア侯爵の御子息と並ぶと美男美女ですこと」
「ウィンターニア侯爵の御子息と踊られているということはエリザベス殿下の降嫁先が決まったということですな」

　今年、デビュタントを迎えたエリザベスは初めてとは思えない堂々とした踊りを披露し、エリザベスをしっかりとリードするベンジャミンの安定した踊りを見て、貴族達からお似合いだと感嘆の声が上がる。

　エリザベスは自身から目を離さず見つめてくれるベンジャミンに恥ずかしくもあるが嬉しく思い、幸せを感じながら踊っていたが一瞬、チラリと視界に美しく着飾った友人が目に入った。

　えっ…

微笑みながら踊っていたエリザベスの表情が一瞬変わったことを見守っていたクリストファーは見逃さなかった。クリストファーはエリザベスの驚いた先に目をやると仲睦まじそうに笑い合うリーラとライアンがいたのだ。

「リーラ…」
エリザベスはすぐにクリストファーの方へ目をやるとクリストファーもリーラの存在に気づいたようだ。クリストファーはただ無表情のままじっとリーラを見続けていた。