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第10章 恋の波乱を巻き起こすデビュタント

第1話 クリストファーの贈り物

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ノーザンランド帝国暦321年 初夏


カーン!
カキン!

「ルディー行けー!」 

「我ら三番隊エース!アデル負けるな!」

帝都騎士隊合同鍛錬にてルディとアデルは久しぶりに剣を交わす。剣と剣が合わさり互いの力を確かめようと剣がギリギリと音を出す。ルディは後退し、剣を振り翳すとアデルの隙を捉えて剣を打ち払う。

カキーン!!

「勝負ありー!ルディの勝ち!」
審判役のパブロ小隊長が声を上げると一気に歓声が上がる。

「ルディ、腕あげたな」 

「そりゃね、どれだけ実戦してると思ってるの」 
ルディとアデルは握手をするとリーラとラディリアスが二人に駆け寄る。

「二人ともお疲れ様ー!」
「いい試合でした」

リーラとラディリアスから飲み物を受け取ると
「俺ももっと練習しないとな~」
アデルは悔し気な表情になる。

「もしかして幸せすぎて浮かれてる~」
とニヤリとリーラはアデルを冷やかした。

「ウッ!!おまえ達、俺の結婚式が忘れるなよ、祝いを期待してるからな」
とすぐさま、アデルはラディリアスを見た。

「もちろんです。友人の結婚式は初めて参加するから実はワクワクしてます」

「みんなでパッと盛り上がろうぜ」

「アデル!結婚式の主役はエミリーなんだから男達は控えめにないとダメだよ」
リーラはアデルに釘を刺しおく。

「そうそう、花嫁が主役だからね。準備は我が商会が頑張るから安心してね」
ルディはアデルに任せとけとウインクする。

「おばあ様のドレスでエミリーを飛び切り美しい花嫁にするからね!うちのドレスをしっかり宣伝してもらわないといけないしね…」
とリーラがにたりと笑う。

いよいよ、リーラの祖母のドレスショップが一か月後に帝都に開店する。アデルとエミリーの結婚式には店の宣伝も兼ねてドレスを提供するのだ。

「結婚するってどんな気分?」
ルディがアデルにニヤニヤとした顔で尋ねるとアデルは少し照れたように、
「なんか責任を感じると言うか…エミリーを守らないといけないと言うか…」 

「ラブラブだね…」
「ご馳走さま」


アデルとエミリーは長い交際を得てようやく結ばれる。結婚式には騎士学校の友人達が招待され、久しぶり仲間達が集まり盛大に二人を祝う会を催す予定なのだ。

「おまえ達も忙しいな…もうすぐアンデルクの王族に護衛付添の為に発つだろう」

「リーラが休暇でアンデルクに過ごすから旅費を浮かす為に僕たちの部隊に任務を入れたんだよ」
ルディがアデルに本当のことを話すとアデルがリーラを呆れ表情で見る。

「いや、いや、個人的に行くとアンデルクの旅費も馬鹿にならないからね~」
とリーラは目を泳がせて誤魔化す。

毎夏、アンデルクに行く時は旅費を浮かす為に仕事を兼ねるようにしているのだ。今回、リーラが束ねる第2所属部隊のメンバーにもリーラと同様に一週間アンデルクで休暇を取るように交渉し、皆同意してくれたのだ。

「なかなかアンデルクで1週間過ごす機会もないからアンデルクの仲間と旅行でもしようかと思ってるんだ」

「羨ましい~ルディ、土産買ってくれよ」
任せといてとルディはアデルに答える。

「リーラも旅行するのか?」

「私は友人に会ったり、おばあ様の手伝いかな…いよいよ開店するしね。儲けないと…」

「おまえ相変わらずだな…」

「お金は大切だよ」
と4人はあはははと笑いながら楽しそうに話を続けた。



同じ鍛錬場内、久しぶりに顔を合わしたダリルとハルクは騎士達の鍛錬を見ながら指導を行っていた。

「アデルもルディも良い騎士に仕上がってきたな、ダリル」

「ルディはさすがジョンの息子だ。剣の筋も良いし、実戦で力をつけてきたな」

「ガキだった奴らがあっという間に成長するな。アデルも嫁さんを貰うんだぞ」

「アデルが?!子供達はあっという間に巣立っていくな」

「リーラもあっという間だぞ。娘が巣立つのも間もなくだぞ」

「まだまだだ」

「何を言っている!正式にリーラは皇后候補に上がったそうじゃないか?フォールド公爵も養女に迎えると決定したんだろう」

「あぁ。一年後の話だ」

「一年なんてあっという間だぞ。おまえの策通りに全てが進んでいるな…」

「ふん、何の話をしてるのやら」

「おまえ知っているか?陛下がリーラのデビュタントのドレスを作ったらしいぞ!という来年の為のドレスなんだろうか?」

「なんだと?!なぜ陛下が?ドレスはフォールド公爵夫人が用意すると聞いているが…」

2人は顔を見合わせると何故か嫌な予感がした。




 春を迎え、リーラは16歳になっていた。16歳になると位のある娘達は夏の宴のデビュタントに参加できる。しかし、リーラの体調不良と別の理由から今年のデビュタントの参加を見送ることにしたのだ。
 ダリルはリーラにノーザンランド帝国にて確固たる地位を与える事を望んでいた。フォールド公爵からも正式にリーラを養女に迎えたいと申し出があり、一年後のデビュタントにて正式な公爵令嬢としてお披露目をしようと合意したのだ。

しかし、ダリルはリーラに養女の話をきりだせずにいた。そして、ゆくゆくは帝国の国母になってほしい思いも…

「一年あればリーラを説得できるだろうか…」

「おまえ…まさか養女になる話をしてないのか?!」

「あぁ」

「養女の話はタイミングが重要だぞ、女の子は気難しいからな…」

「あぁ、わかっているさ…」

 

◇◇◇


早めに鍛錬見学を切り上げたリーラはアンデルクの護衛計画提出するために第4番隊副隊長のネイルと共にクリストファーの執務室に訪れていた。きめ細かな計画書を確認したクリストファーは二人を褒め、気をつけて行くように言葉をかけた。部屋を出る際にリーラは呼び止められると、アンデルク帰還後のスケジュールを尋ねられた。

「私の予定ですか…」
とリーラは首を傾げると、
「他に誰がいるんだ」
とやれやれと肩をすくめる。

リーラははっとするとにやりと笑う。
「ふふふ、陛下の耳に入ったんですね?」

「何をだ?」

「アンデルクから戻りましたら、いよいよ、祖母の店が帝国に開店するのです!!そして、私がその店のオーナーなるのです!」

「オーナーになる話は知らなかったが、まずは私が聞きたいのはデビュタントのことだ」

「デビュタント??」

「16歳になったのだ、参加資格はある」

「あーーー、出席しませんよ?店が開店するのに準備で忙しいんです。あと、開店に合わせて友人の結婚式もプロデュースするんです。
私の店の命運がこの夏にかかっているんです!とにかく忙しいのです!祖母が老後もゆったりと暮らしていけるように私が頑張らないと!!」
とガッツポーズをリーラは決める。

「参加しないのか…」
とクリストファーはがっかりとした表情になる。

「父さんが来年、参加しようと話をしていたような…だから心配しないでください。どうか私の店をご贔屓によろしくお願いします」
とペコリと頭を下げてリーラは退出する。

クリストファーは溜息を吐くと椅子に深く腰掛けた。
「せっかくおまえのためにデビュタントの
ドレスをプレゼントしようと思ったのに」
クリストファーはリーラに似合うドレスを仕立て、デビュタントには自分好みに仕上げるつもりでいたのだ。

 しかし、デビュタントが行われる夏の宴でリーラを巡り騒動が起こるとはこの時誰も考えもしなかったのだ。
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