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第9章 リーラの貴族学院デビュー

第15話 サム、ローレンヌ騎士団へ

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帝都に着いたリーラ達はルーカスが眠る共同墓地へと進む。

「サム、ここにルーカスが眠っている」

「に…兄さん……。馬鹿だよ、僕のために…うっ、うっ、兄さーん!!ワァーー」
とサムは崩れ落ちるように地面に顔をつけ泣き出した。


リーラは泣き止んだサムにそっと傍に寄る。

「サム、本当にごめんなさい」

「王女様謝らないでください。兄はあの国に貴女を連れて行くことはできないとわかっていたのです。私の父は王族を守る騎士でした。その父の意志に反することは出来なかったんでしょう」

「サム、君の方が辛いのに…ごめんなさい」
サムは必死に首を振ると、
「王女様、お願いがあります!!僕は父や兄のように騎士になりたい、そして貴女を守りたい!!」

「サム…」

「貴女が騎士の姿をしているのは…いつかあの国と戦うつもりなんでしょう…」

「……いつか、我が国を取り戻したいと思っている」

「なら、私も一緒に戦わせてください!!」

「サム…」



コツコツと誰かが近づく音が聞こえる。

「無理なんじゃないかしら」

「そうだな、騎士学校は来年の夏まで試験受けれないぞ」

懐かしい声がしたと思い、振り返ると黒色のショールを羽織り、紫色のベルベットのドレスに身を包んだキャサリンと黒色の紳士服に外套を羽織ったオースティンだった。

「キャサリン隊長…」

「リーラ、もう隊長じゃないのよ、キャサリン姉さんといいなさい」
とリーラの額にコツンと手を弾いた。

「この方達は…」

「私の恩師…」

「母の墓参りに来てみたら、鳴き声は聞こえるし、可愛い妹分もいるじゃない?」

「話は大方聞かせてもらったよ。あの密偵の弟を拾ってくるとはな…運命って奴なのか」とオースティンはふっと笑う。

「あらっ、運命なら私達と出会ったのも運命よ。あなた、私の騎士団で修行を積みなさい。短期間で使える存在にしてあげる」
とキャサリンがクスッと妖艶に笑う。

「おまえ達、殺すなよ」
横で話を聞いていたクリストファーは我慢出来ず口を挟む。

「あらっ陛下、いらっしゃたのね、お久しぶりですわ」
と二人は遅れてクリストファーに礼をすると
「ほら、陛下が一番ご存知でしょう、騎士を育てるなら私が一番ですわ」
とオホホホーと高笑いするキャサリンにクリストファーはサムに心配そうな眼差しを送る。

「お願いします!僕、頑張ります!」
サムは二人に必死に願いを乞うと
「王女様、お願いします!」
とリーラにも頭を下げた。周りの騎士達も「死ぬ寸前まで鍛錬させられるぞ、やめとけー」
と必死にサムに目線を送るがサムは一向に気づく様子ない。

「キャサリン姉さん、オースティン副団長、サムをよろしくお願いします」
信頼のできる2人にサムを預けることが出来、リーラは安堵する。

「任せなさい。貴女の騎士に立派に仕上げてあげるわ。では陛下、この子を預かりますわね」

「……あぁ」
クリストファーは諦めた表情で頷いた。



◇◇◇     (キャサリン目線)


 昨年の秋、無事、息子のアンドレを産み落とし、領内の報告も兼ねて久しぶりに帝都に訪れた。母の墓参りにも久しく訪れていなかったと思いオースティンと向かう。
 ふと、共同墓地の人集りに気づくと我が可愛い妹分のリーラと弟分のクリストファー陛下がいることに気づいた。面白そうだから行ってみようと近づくとなかなかシリアスな雰囲気だった。幼い少年が泣き、辛そうに見つめるリーラ。
 そして、何故か悲しそうにリーラを見つめるクリストファー陛下。あのお方、こんなキャラだったかしら?と疑問に感じた。
 オースティンとこの雰囲気を考察してリーラが殺った密偵の弟を墓に連れて来たのだと察する。

「あの子、騎士団に入れるのはどう?」
「人手不足だから丁度良いな」

 オースティンとも意見が一致し、サムと言う少年を我が騎士団に迎えることに決めた。
私達のことを怖がってなかなか入団希望の少年がいないのだ。ちょうどいい。

 リーラにもアンドレに会わせてあげたいから屋敷に誘おうと思っていると、
「キャサリン姉さん、赤ちゃんは?」
とリーラの方から聞いてきた。

「今、屋敷にいるわ、見にくる?」

「行きます!行きます!名前は?」

「父から名前を貰ってアンドレと名付けたわ」

「カッコいい名前!抱っこしてもいい?」

「もちろんよ。さぁ、行きましょう。サムの今後の話もしたいわ。じゃあ、陛下、失礼しますわ」

リーラとサムを回収して去ろうとすると陛下の表情が曇る。あらっ…やっぱり何かあったわね。リーラにも問い詰めないといけないわとオースティンとも目を合わせる。

確かリーラは春には16歳よね、
ふ~ん、面白くなりそうだわ…
でも、リーラはまだまだお子ちゃまなのよね、陛下の想いは届くかしら…
ふふふ…


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