上 下
160 / 240
第9章 リーラの貴族学院デビュー

第13話 エメラルド王女との別れ

しおりを挟む
ベルク最後の夜、騎士達の交流も兼ねてささやかな晩餐会が開かる。
アンディとレンはすっかり王女の護衛と打ち解け楽しそうに話している。

「スミス兄様!渓谷にも精霊いましたよ~」

「そうか、精霊王の話は聞きけたか?」
クリストファーはリーラに優しく微笑みながら尋ねる。
「あっ!魚食べるのに忙しくて忘れてました。王都はどうだったんですか?」

「そうだな、都全体を案内されたが貧困街がなく、美しい街だった。民から納められた税は還元されており福利厚生が充実されているようだ。非常に参考になったな、ビル」

「参考になったって?視察するなら言ってやれよ。皆、観光目的で付いて行ったのに、ルート変更させて、民の暮らしなみから医療院、学校、治安部隊?おかげで、お土産すら見る時間なかったよ…」
周りの様子を見てみると皆、歩き疲れよほどお腹が減ったのか食事を黙々と食べている。
リーラはルディに目をやると観光できず、ガッカリとした表情だ。
「ルディ、馬鹿だなぁ。だから渓谷行こうって言ったのに…」



エメラルドは賑やかな会場を見渡し、リーラを探し出すと、リーラは例の黒髪の騎士とビル・リッチモンドと楽しそうに談笑していた。黒髪騎士はリーラを優しく見つめながら微笑んでいる。
「本当にわかりやすいわね、あの男」
エメラルドは呆れながらリーラ達に近づくと声をかける。

「お話中、失礼。リーラ、頼まれていた物よ」
とエメラルドは箱詰めされている贈り物をリーラ達に手渡す。
「うわぁ、ありがとう!」
レンとアンディも便乗して贈り物を受け取るとエメラルド王女に礼をする。

「王女様、贈り物を頂きありありがとうございます」
様子を見ていたビルはリーラの保護者として王女に礼を伝える。 

「良くってよ。お姉様のプレゼントらしいわ、我が国が誇る肌に良い化粧水なのよ」

「という訳で、お兄様、姉上に渡してくださいね。ちゃんとからのお土産と伝えてくださいね」

「お、おまえ、いつのまにお土産を…僕は買うチャンスなかったのに~~」

「あれ?都に行ってたのに??」

「話聞いてなかったのか?!おまえと違って遊んでいないんだよ!!」
とリーラのコメカミをグリグリするビル。ヒャァーとリーラの叫び声を聞きながらエメラルドは首を傾げた。
「ビル・リッチモンドって確かローズ王女の伴侶だったわよね…」




◇◇◇



最後の夜を語り明かそとエメラルドの寝室にリーラは招かれ、二人はベッドに寝転びながら話を始める。

「明日には帰ってしまうなんて、リーラと早く出会いたかったわ。帝国で無駄な時間を過ごししまったわ」

「ねぇ、エメラルドはまだ陛下に恋してるの?」

「ないわ」

「即答だね」

「あれだけ露骨に見せられたら目が覚めるわ」

「??」

「リーラはどうなのよ」

「恋?しない、しない。私の父親って初恋を拗らせたみたいで…そのおかげて沢山の女性を娶ってね、みんなが悲しむことになったの。子供も被害被るしね、色恋って良いことないって知ってるから…」

エメラルドはハッとする。亡きリヴァリオン国王は沢山の側室がいたと気づいたのだ。

「ねぇ、リーラあの場では話さなかったけど、あなたをリヴァリオン国の王女でしょ」

「えっ?!どうしてわかったの?」

「1つ!リヴァリオン国から来たでしょう、2つ!ローズ夫人が姉だと話してだじゃない、そして先程の話から…」

「エメラルド凄い!」
とリーラは手をパチパチするとエメラルドは当たり前じゃない、わかるわよと照れだす。

「でもどうして私の国に来たかったの?」

「演説大会でエメラルドが話していた人と自然との共存の未来は素晴らしいと思って、そんな自慢のベルク国を見てみたいって思ったの」

「どうだった?」

「素晴らしい国だと思った。貴女の望み通りずっとこの美しい自然を残してね」
とリーラが話すとエメラルドは自国を褒められ嬉しそうにはにかんだ。

「私の国はかつて人と自然との共存していた。けれどもゾーンに奪われ、国は恐らく荒らされているわ。私の国の姿をあなたの国を通して見たかったのかも…」

「辛いことを思いださせてごめんなさい」

「大丈夫、気にしないで」
と首を振るリーラ。

「うーん、そうだ、あなたがノーザンランドにどうやって行ったか教えてよ。冒険者風にアレンジしてもいいからね」

「何それ??仕方ないなぁ、まぁ、私の騎士になるまでの話は結構凄いんだから…」
とリーラの自慢話は延々と続くがエメラルドは嫌な顔せず興味深く聞き、2人の少女たちは朝までお互いの生い立ちを語り合い親交深めたのだった。



◇◇◇



  ベルク国 ポーラー港

ノーザンランドの騎士達はケンドリック王子とエメラルド王女に頭を下げると船へと入って行く。
リーラとエメラルドは互いの両手をぎゅっと握り合うと微笑み合う。

「港まで見送りしなくてよかったのに」

「親友との別れよ、見送りたいじゃない。貴女と出会えて良かったわ」

「私も!じゃあね、エメラルド」

「リーラも元気で、また遊びに来てよ」

「うん、必ず行く」
ふふふと二人はぎゅっと抱きしめ合う。

リーラはタッタッタと桟橋を渡り船に乗り込むと最後の客を乗せたと確認すると船は汽笛パォーンを鳴らし出港を告げる。

「エメラルドー!またねー!」
甲板から顔を出し手を大きく振るリーラの姿が見えた。そして、その横に立つ黒髪の騎士の姿を見たエメラルドはスカートを摘み頭を下げる。

「エメラルド?!誰に頭を下げているんだ」
一緒に見送りに来ていたケンドリックが驚いたようにエメラルドを見る。

「お兄様、一度お会いしたのにお忘れになったの?」

「ん??」

「あの黒髪の騎士はノーザンランド皇帝クリストファー陛下よ」

「えっ?!」

「騎士に扮していらっしゃたのよ」

「なんてことだ…一言言ってくれれば丁重にお迎えしたのに…、ま、まさか我が国を偵察!!」

「はぁーー…愛しい姫君を守るために隠密にいらっしゃたのよ」

「姫君??誰?ま、まさか、リーラのことかい?!」

「お兄様…話にならないわ…」
 

 好きになった人を間違える訳はない…

 国へ帰る途中に騎士に扮した陛下を見かけた時、私を殺す為に見張りの騎士に扮しているかもしれないと恐れた。しかし、2人でいる時、あのリーラを見る眼差しですぐに気付いた。

 自分好みに育てる為に側に置いるのね
 相当な執着心だわ
 ある意味怖い…
 あんな男に見初められるなんて
 リーラ、
 貴女もこれから苦労するわね…

クスッと笑うとエリザベスは帰りますわよとケンドリックの腕を掴み、城への帰路に着いたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...