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第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編

幕間 フレンチェスカ・レニーの回想ー1ー ※

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(R15となっています。苦手な方は控えて下さい)

走りゆく6番隊を見送りながら、ふとフィールド領側を見ると一人の若き騎士がじっと去り行く6番隊を見ていることに気づいた。

「あれは、フィールド公爵の御子息様ね、もしかして6番隊に想い人がいらっしゃるのかしら」

フレンチェスカは6番隊達の二人の女性騎士に気づいていた。想い人はあの二人のうちのどちらかなのだろう。

「若いっていいわね、羨ましいわ」

フレンチェスカは自身の若かりし頃を思い出していた。



 かつてウィターニア王国は数多く貴族達が仕えていた。私はウィターニアの国境付近を守る伯爵の一人娘だった。跡継ぎがいないために幼馴染の隣領の次男と婚姻を結び仲睦まじく過ごしていた。
 時の情勢はノース山脈を越えたノーザンランド村の賊達が周りの村や国を合併し、あっという間ににノーザンランド国、そして帝国へと急成長していた。
 東にあるコールディア王国は帝国の属領になることを表明し、帝国に目をつけられていた南にあるローレンヌ王国は自国の家臣に裏切りに遭い、帝国の属領へと統合された。ノーザンランド帝国の脅威がやって来ることをウィターニアはひしひしと感じながら、国境付近に守る防壁であったレニー家は砦の強化に努めていた。若かった私はノーザンランドの脅威もさほど感じてはいなかったが、砦を守っていた父親がノーザンランドに陥され事態は急変する。帝国の勢いは早く、第2の砦を守る為に夫も発つ。

「もしもの時はエルザと共に逃げるんだ」 

夫の忠告も虚しく、帝国軍に夫は討たれウィターニア王国からの救援など来ることなくあっさりと占領されてしまったのだ。
 侍女達からは逃げるように言われたが、私が逃げるまでに領内の騎士達は命をかけて戦う、彼らにだって家族がいるのに… 。愛する夫は殺され、私まで殺されてしまえばこの地は荒らされてしまう…

 考えるのよ、フレンチェスカ!
 生き残る道を…
 私が上手く立ち回れば…

当主として先祖が代々守ってきた土地と民の命が私の肩に重くのし掛かった。

「降伏しましょう、当主として私が出るわ」

「姫様!!」

「エルザがいると人質を取られてしまう。娘を頼んだわ」
侍女にエルザを託すと、覚悟を決める。所詮殺される身だ、踠いてみるもありだろう。1番綺麗なドレスを身に纏い、敵の頭に目通りを願うとあっさり通る。



「私はこの地を治めていますフレンチェスカ・レニーございます。どうか、我が地に慈悲を、民もお救いくださいませ、ウィターニアを裏切り、貴方様にお仕え致します。お願いいたします」

「顔をあげろ、この地は女のおまえが治めているのか」
私は顔をあげると前には黒髪で真っ黒な瞳で睨みつける目つきが恐ろしい若い男がいた。イーサン・ルシュルツ・ノーザンランド、ノーザンランド帝国の皇子だった。

「い、いえ、父でございます。しかし、先日討たれ、私が一人娘でございますから私が当主でございます」

「女のおまえにどれだけの価値がある?」

「ありますわ、試されます?」
私は立ち上がり、わざと胸の谷間を見せつけイーサンを誘惑しようと試みる。

「この地はウィターニアを陥とす為には重要な地でございます。我らウィターニアの情報に精通しております故、お役に立てますわ、ふふふ」
震える身体を叱咤し、妖艶に振るまいながら上目遣いで懇願する。

「……所詮ウィターニアは滅びゆく国…私は民を救い、皆とともに生き残りたいのです」
真っ直ぐに男の目を見つめた。

「……ふっ、フレンチェスカ、我の荒ぶる身体を癒せるか」

「ふふふ、もちろんでございますわ、我が主人」

イーサンは私を担ぎあげると寝所へと手荒く運んだ。イーサンはすぐにドレスを破ると私を激しく抱き始めた。まるで獣のような交わりに必死に応えるように尽くすと朝まで相手をさせられた。情事が終わり横たわるイーサンを見ると苦しげな様子で眠りについていた。痛む身体を動かすことも出来ず、瞳を閉じ眠りにつこうと思うとなぜか母がいつも子供の時に歌っていた花の唄が脳裏に浮かび、口ずさんでいた。瞳から涙が流れていた。泣いている姿を見せてはいけないとイーサンを見るとの先程の苦しげな様子が和らいでいるようだった。私はこの時、なぜなのかこの歌を歌い続けた方が良いと感じ歌い続けた。


眠りから覚めたイーサンが、
「おまえ、歌っていたか…」

「えっ…はい」

「そうか…、久方ぶりによく寝れた。おまえのおかげだ。余はおまえが気に行ったぞ、フレンチェスカ」

「こ、光栄でございます」

 イーサンは私を気に入り、皇子の愛人の座を得ることができた。私は帝国の騎士達に居心地の良い駐屯地としてレニー領を提供した。領民からはもちろん反発があり、私は非難されることもあったが他領に比べ、レニー領の民は不当な扱いは受けず、帝国の民として丁重に扱われ、いつしか民達は身を挺して民を守ってくれたと私に対して感謝を述べてくれるようになったのだ。
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