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第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編
第11話 エリザベスの長い1日
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ウィターニア 領都ルーヤ
リーラ達と分かれたエリザベス達はウィターニア領都ルーヤに入る。北西部のウィターニア領は旧ウィターニア国があった場所だ。領地争いのために長年ノーザンランド帝国と争い、ウィターニア国は敗北し帝国の領地下に入ったのだ。現在は皇太后シャーロットの弟ショーンがウィターニアを治めている。長年皇太后ショーロットも捕虜としてウィターニアを出てから戻っておらず、戦争以外で皇族がウィターニアを訪れたのは今回で初めてなのだ。
道にはエリザベスを一目見ようとたくさんの人達が道端に立っていた。
「皇女様ー!」
「殿下が助けに来て下さった!」
民から歓声が沸き起こっていた。
馬車の中のエリザベスは溜息をつくと、
「信じられないわ。全く緊張感がないわね」
呆れ顔になっていた。
「殿下、無下には出来ませんわ」
王女の従者がそういうと馬車のカーテンを開きエリザベスは仕方なしに民達に手を振り始めた。エリザベスの姿を見た民達は一気に歓声を上げた。
「すぐに叔父様に言って外出禁止令を敷かなくては」
「アマーノ先生がこの風景をみたら馬車の上に乗って杖を振り回して家に入れと怒鳴っていますよ」
同乗した医師達も笑いを堪えながら全くだと頷いた。
こうして馬車は石造りのウィターニア城へと入って行った。最後まで帝国との戦いを続けた城は取り壊されることなくウィターニアのシンボルとして使用されている。
ウィターニアの騎士達がずらりと並ぶ中に馬車が進む。騎士が馬車の扉が開くとエリザベスの姿を見ようと叔父であるショーン・ウィターニア侯爵がいち早くやって来た。
「ベス!久しいねぇ。さぁ、疲れただろう。部屋は用意してあるからゆっくりお休み」
「休む??叔父様!挨拶はよろしくてよ!今すぐ対策会議を開くわ!重臣達を集めてちょうだい!」
「会議?」
「信じられないわ。叔父様、危機感がありませんの?疫病が流行るかもしれませんのよ?」
「うっ…」
痛い所を突かれ黙り込んだ侯爵に助けるように横に控えいた水色の髪の騎士が前にでるとエリザベスに礼を取る。
「殿下、お久しぶりでございます」
「ベンジャミンお兄様、久しぶりですわ」
「今すぐ対策会議の準備を。あと、現状報告を聞かせて下さい」
「かしこまりました。では、こちらに」
「えぇ。叔父様!ぼっとしてないで行きますわよ!」
「は、はい!」
エリザベスはショーンの腕を掴むと城の中へ入って行く。ある一室に案内されたエリザベス達は椅子に腰掛けるとすぐさまショーンを叱りつけた。
「早馬の伝令を聞きました?なぜ、民が外に出ているのです!」
「いやぁ、一応告知はしたんだよ。ベスが来てくれるから皆、安心してるだよ」
「信じられないわ…。叔父様、病は見えないのよ。一瞬で人の命を奪うことがあるのよ」
「わかってるよ」
「いえ、わかっていませんわ。今からこの場所を対策部としますわ。ベンジャミン兄様は直ちに騎士達に民の外出禁止令を敷いて下さい。もちろん領都にも入領は禁止です。他の町村も同様です」
「かしこまりました」
ベンジャミンは直ちに遂行すべく部屋から退出した。
「領内の医療担当者は?」
「私でございます」
貴族らしい男がオロオロしながら前に歩み寄った。
「状況を聞かせてちょうだい」
「は、はい。メルバンという北西部にある村
から腹痛の症状の者が多くいる為に薬の要請が領都に来ていました。その後改善されているかはまた報告が上がって来ていません。その後周辺の町村から腹痛を伴う症状があると報告が上がっています。我が領都のルーナではそのような症状は上がっておりません」
「そう…。時間の問題かもしれないわ」
「えっ??」
「このテーブルに領内の地図を用意し、腹痛発生箇所に印をしてください。今からルーヤの医療院へ向かい、現状把握と帝都から持参した薬剤を補充に向かうわ、案内してください」
「は、はい。わかりました」
「叔父様、領内で下水が行き届いていない町村はありますよね」
「あぁ」
「私が戻る間に調べておいて下さい」
「わ、わかった。ベス、今から出かけるのかい?」
ショーンが心配そうに尋ねると、
「当然ですわ」
戻るまでにしっかりと対策本部を機能させておくように重々、言い包めるとエリザベスは城を後にした。
街の中心部にあるルーヤの医療院へ薬剤補充と現状確認に向かうと簡素な造りの建物の前に馬車は止められた。帝都の医療院と異なり小規模な建物に驚きながらエリザベスは老年の医療院長と挨拶を交わす。
「皇女様、このようなむさ苦しい場所に足を運んで頂き至極恐悦で御座います」
「いえ、先生、どうか頭を上げてくださいませ。アマーノから薬を預かってきました」
「アマーノ…懐かしいのぅ、元気に過ごしておりますか?」
「はい。毎日、弟子達を叱咤されていますわ」
「あははは、目に浮かびますわ。皇女様もアマーノに師事されたと聞きました。今回の疫病はどのようにお考えか?」
「腹痛…、恐らく菌による空気感染ではなく、何かしら菌が口から体内入ったのでと先生は考えていらっしゃいました。現在、帝国騎士隊の救護隊が調査の為に村に派遣され明日、明後日あたりには報告が来るかと思われます」
「これはまた、対応が早い。さすが陛下ですな。お若いのに20年前の教訓が生かされていますな」
「帝都から医師を何人か連れて参りました。医療院のお手伝いをさせて頂きますわ」
「有り難いですな」
「あと…」
「どうされました?」
「念の為に診療できる場所を拡張させた方がよいと考えています」
「確かに…もし、この疫病が拡散されればこの小規模の医療院では抱えきれないでしょうな」
と院長はうむと考え始めた。
「城に戻り仮の診療所を設置するように取り計らいますわ」
「その方が良いかもしれませんな。皇女様、誠にありがとうございます。では、仮施設が出ましたら医療院の人間を二手に分けるよう手配しましょう」
エリザベスは城に戻りショーンに仮施設を提案すると領都郊外に適した建物があり、街から離れた場所の方が良いと判断し早速、仮診療所の設置に急いだのだ。
リーラ達と分かれたエリザベス達はウィターニア領都ルーヤに入る。北西部のウィターニア領は旧ウィターニア国があった場所だ。領地争いのために長年ノーザンランド帝国と争い、ウィターニア国は敗北し帝国の領地下に入ったのだ。現在は皇太后シャーロットの弟ショーンがウィターニアを治めている。長年皇太后ショーロットも捕虜としてウィターニアを出てから戻っておらず、戦争以外で皇族がウィターニアを訪れたのは今回で初めてなのだ。
道にはエリザベスを一目見ようとたくさんの人達が道端に立っていた。
「皇女様ー!」
「殿下が助けに来て下さった!」
民から歓声が沸き起こっていた。
馬車の中のエリザベスは溜息をつくと、
「信じられないわ。全く緊張感がないわね」
呆れ顔になっていた。
「殿下、無下には出来ませんわ」
王女の従者がそういうと馬車のカーテンを開きエリザベスは仕方なしに民達に手を振り始めた。エリザベスの姿を見た民達は一気に歓声を上げた。
「すぐに叔父様に言って外出禁止令を敷かなくては」
「アマーノ先生がこの風景をみたら馬車の上に乗って杖を振り回して家に入れと怒鳴っていますよ」
同乗した医師達も笑いを堪えながら全くだと頷いた。
こうして馬車は石造りのウィターニア城へと入って行った。最後まで帝国との戦いを続けた城は取り壊されることなくウィターニアのシンボルとして使用されている。
ウィターニアの騎士達がずらりと並ぶ中に馬車が進む。騎士が馬車の扉が開くとエリザベスの姿を見ようと叔父であるショーン・ウィターニア侯爵がいち早くやって来た。
「ベス!久しいねぇ。さぁ、疲れただろう。部屋は用意してあるからゆっくりお休み」
「休む??叔父様!挨拶はよろしくてよ!今すぐ対策会議を開くわ!重臣達を集めてちょうだい!」
「会議?」
「信じられないわ。叔父様、危機感がありませんの?疫病が流行るかもしれませんのよ?」
「うっ…」
痛い所を突かれ黙り込んだ侯爵に助けるように横に控えいた水色の髪の騎士が前にでるとエリザベスに礼を取る。
「殿下、お久しぶりでございます」
「ベンジャミンお兄様、久しぶりですわ」
「今すぐ対策会議の準備を。あと、現状報告を聞かせて下さい」
「かしこまりました。では、こちらに」
「えぇ。叔父様!ぼっとしてないで行きますわよ!」
「は、はい!」
エリザベスはショーンの腕を掴むと城の中へ入って行く。ある一室に案内されたエリザベス達は椅子に腰掛けるとすぐさまショーンを叱りつけた。
「早馬の伝令を聞きました?なぜ、民が外に出ているのです!」
「いやぁ、一応告知はしたんだよ。ベスが来てくれるから皆、安心してるだよ」
「信じられないわ…。叔父様、病は見えないのよ。一瞬で人の命を奪うことがあるのよ」
「わかってるよ」
「いえ、わかっていませんわ。今からこの場所を対策部としますわ。ベンジャミン兄様は直ちに騎士達に民の外出禁止令を敷いて下さい。もちろん領都にも入領は禁止です。他の町村も同様です」
「かしこまりました」
ベンジャミンは直ちに遂行すべく部屋から退出した。
「領内の医療担当者は?」
「私でございます」
貴族らしい男がオロオロしながら前に歩み寄った。
「状況を聞かせてちょうだい」
「は、はい。メルバンという北西部にある村
から腹痛の症状の者が多くいる為に薬の要請が領都に来ていました。その後改善されているかはまた報告が上がって来ていません。その後周辺の町村から腹痛を伴う症状があると報告が上がっています。我が領都のルーナではそのような症状は上がっておりません」
「そう…。時間の問題かもしれないわ」
「えっ??」
「このテーブルに領内の地図を用意し、腹痛発生箇所に印をしてください。今からルーヤの医療院へ向かい、現状把握と帝都から持参した薬剤を補充に向かうわ、案内してください」
「は、はい。わかりました」
「叔父様、領内で下水が行き届いていない町村はありますよね」
「あぁ」
「私が戻る間に調べておいて下さい」
「わ、わかった。ベス、今から出かけるのかい?」
ショーンが心配そうに尋ねると、
「当然ですわ」
戻るまでにしっかりと対策本部を機能させておくように重々、言い包めるとエリザベスは城を後にした。
街の中心部にあるルーヤの医療院へ薬剤補充と現状確認に向かうと簡素な造りの建物の前に馬車は止められた。帝都の医療院と異なり小規模な建物に驚きながらエリザベスは老年の医療院長と挨拶を交わす。
「皇女様、このようなむさ苦しい場所に足を運んで頂き至極恐悦で御座います」
「いえ、先生、どうか頭を上げてくださいませ。アマーノから薬を預かってきました」
「アマーノ…懐かしいのぅ、元気に過ごしておりますか?」
「はい。毎日、弟子達を叱咤されていますわ」
「あははは、目に浮かびますわ。皇女様もアマーノに師事されたと聞きました。今回の疫病はどのようにお考えか?」
「腹痛…、恐らく菌による空気感染ではなく、何かしら菌が口から体内入ったのでと先生は考えていらっしゃいました。現在、帝国騎士隊の救護隊が調査の為に村に派遣され明日、明後日あたりには報告が来るかと思われます」
「これはまた、対応が早い。さすが陛下ですな。お若いのに20年前の教訓が生かされていますな」
「帝都から医師を何人か連れて参りました。医療院のお手伝いをさせて頂きますわ」
「有り難いですな」
「あと…」
「どうされました?」
「念の為に診療できる場所を拡張させた方がよいと考えています」
「確かに…もし、この疫病が拡散されればこの小規模の医療院では抱えきれないでしょうな」
と院長はうむと考え始めた。
「城に戻り仮の診療所を設置するように取り計らいますわ」
「その方が良いかもしれませんな。皇女様、誠にありがとうございます。では、仮施設が出ましたら医療院の人間を二手に分けるよう手配しましょう」
エリザベスは城に戻りショーンに仮施設を提案すると領都郊外に適した建物があり、街から離れた場所の方が良いと判断し早速、仮診療所の設置に急いだのだ。
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