133 / 240
第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編
第5話 悲劇の始まり
しおりを挟む
(第5話から不快な描写が始まります、苦手な方はお気をつけください)
ザブーン
ザブーン
夜闇のウィンターニア沖にゾーンからの船が留まっている。紫色の髪の逞しい身体の男は腕を組みながら陸をじっと見つめる。
「サンドラ、俺はお前のようにはならん…」
横に控えていた部下に命令をする。
「例の魚を放て」
「へい」
青色の美しい魚は海の中へと飛び込むと嬉しそうに跳ねながらウィンターニアへと向かって行った。
「親父、本当にあの魚が切り札になるのか?」
隣に立つ男と同じ髪と逞しい身体の青年が父親に尋ねた。
「知らん、ご主人様が仰るんだ間違いないだろう。我らはことが大きくなるまで待つだけだ。仲間から連絡が来るまで船でのんびり過ごすぞ」
青年の顔がさーっと青くなる。
「嘘だろっ!陸地に上がらせてくれよ。これ以上船はキツい…オエッーー」
ウィンターニア領内 メラバン村
「今日は大漁だ!」
「笑いが止まらないぐらい獲れたな!」
あはははと賑やかに漁師達が早朝に沖から戻り収獲した魚を船から下ろしている。
「獲れたての魚で一杯やろうじゃないか!」
「いいねぇ」
今宵収獲された魚は村でも振舞われ、どの家でも豪華な夕食になったのだ。
翌朝、村の診療所に体調不良で診察に訪れる人がいた。
「先生、大変です。次から次へと村人が診療に訪れています。問診で共通するのは夜に収穫した魚を食べたそうです」
「うむ、食中毒か…。しかしこの村では生で食べるからなぁ」
やれやれと医者は白衣を羽織り、診察の準備に入る。この北西部は魚を生で食べることが多く、度々食あたりを起こす患者がいるので医者も驚いた様子はなかった。
「ひとまず、薬は足りるか?」
「在庫は少ないですね。領都に買いに行かねばなりません」
「仕方あるまい。急いで領都に行ってくれ」
「はい、わかりました」
では、急ぎ行ってまいりますと準備を整え診療所の手伝いの者は出て行った。
「じゃあ、患者を呼んでくれ」
「はい」
「次の方どうぞ」
「こちらにきて座って下さい。喉も見ておこう。口を開けて」
「うっ、は、はい…」
「辛いかもしれないが頑張って」
「あーっ」
と患者が口を開くと口の中からピシッと何かが出てきた。
「なんだ!ギャアーー!!」
「先生!ギャアーー!!」
そして、村から悲鳴が聞こえ続けたのだ。
ノーザンランド 帝都 皇宮
クリストファーの寝所の扉がノックされ、扉越しに侍従の声が掛かる。
「陛下、お寛ぎ中、申し訳ありません。至急レニー子爵が謁見を申し出ております」
「今何刻だ?」
クリストファーは酒の入ったグラスをぐいっと飲み干し、目を通していた書類をテーブルに置く。
「今、準備して行く、執務室に会う」
「御意」
クリストファーはガウンを羽織ると執務室に向かう。扉にはすでにレニー子爵が控えていた。
「陛下、夜分遅くに申し訳ありません。お早く耳に入れて頂きたい案件がございます」
「あぁ、わかった。おまえ達は扉の外で控えろ」
護衛を扉の外に待たせて、レニー子爵を部屋に招きいれた。
「只今、ウィンターニアに散らばせている密偵から報告でございます。ウィンターニアのメルバン村にて原因不明の奇病が発生したとのこと。現在も隣村に同様の病が広がっているようです。22年前の伝染病の再来かもしれません」
「何?!」
22年前にウィンターニアから伝染病が発生し帝都にまで及ぶ感染が嘗て起きていた。当時、医療院のアマーノの迅速な対応により感染を食い止めるができたが、ウィンターニア及び北西部に渡り多くの命が失われた。
ウィンターニアに南の国からの船が寄港し、船にいたネズミが上陸し菌を運んだとされている。菌が拡がるのは一瞬だった、ウィンターニアは当時下水完備もされておらず度重なる戦火に遭い、衛生状態が粗悪な為に起こってた伝染病だった。
「陛下!ウィンターニアからの一報が来ております!」
と執務室の扉をノックし侍従か紙を握りしめてやってきた。クリストファーは紙を広げ読むと、険しい表情になる。
「レニー!ウィンターニアを隔離する!おまえは対応にあたれ!」
「御意」
と頭を下げると小走りにレニー子爵は立ち去った。
「すぐに大臣達に招集をかけろ!あと医療院のアマーノと第6番隊にも招集をかけろ!すぐにだ!」
「はっ!」
「伝染病…」
クリストファーはウィンターニアからの知らせを握り潰した。
ザブーン
ザブーン
夜闇のウィンターニア沖にゾーンからの船が留まっている。紫色の髪の逞しい身体の男は腕を組みながら陸をじっと見つめる。
「サンドラ、俺はお前のようにはならん…」
横に控えていた部下に命令をする。
「例の魚を放て」
「へい」
青色の美しい魚は海の中へと飛び込むと嬉しそうに跳ねながらウィンターニアへと向かって行った。
「親父、本当にあの魚が切り札になるのか?」
隣に立つ男と同じ髪と逞しい身体の青年が父親に尋ねた。
「知らん、ご主人様が仰るんだ間違いないだろう。我らはことが大きくなるまで待つだけだ。仲間から連絡が来るまで船でのんびり過ごすぞ」
青年の顔がさーっと青くなる。
「嘘だろっ!陸地に上がらせてくれよ。これ以上船はキツい…オエッーー」
ウィンターニア領内 メラバン村
「今日は大漁だ!」
「笑いが止まらないぐらい獲れたな!」
あはははと賑やかに漁師達が早朝に沖から戻り収獲した魚を船から下ろしている。
「獲れたての魚で一杯やろうじゃないか!」
「いいねぇ」
今宵収獲された魚は村でも振舞われ、どの家でも豪華な夕食になったのだ。
翌朝、村の診療所に体調不良で診察に訪れる人がいた。
「先生、大変です。次から次へと村人が診療に訪れています。問診で共通するのは夜に収穫した魚を食べたそうです」
「うむ、食中毒か…。しかしこの村では生で食べるからなぁ」
やれやれと医者は白衣を羽織り、診察の準備に入る。この北西部は魚を生で食べることが多く、度々食あたりを起こす患者がいるので医者も驚いた様子はなかった。
「ひとまず、薬は足りるか?」
「在庫は少ないですね。領都に買いに行かねばなりません」
「仕方あるまい。急いで領都に行ってくれ」
「はい、わかりました」
では、急ぎ行ってまいりますと準備を整え診療所の手伝いの者は出て行った。
「じゃあ、患者を呼んでくれ」
「はい」
「次の方どうぞ」
「こちらにきて座って下さい。喉も見ておこう。口を開けて」
「うっ、は、はい…」
「辛いかもしれないが頑張って」
「あーっ」
と患者が口を開くと口の中からピシッと何かが出てきた。
「なんだ!ギャアーー!!」
「先生!ギャアーー!!」
そして、村から悲鳴が聞こえ続けたのだ。
ノーザンランド 帝都 皇宮
クリストファーの寝所の扉がノックされ、扉越しに侍従の声が掛かる。
「陛下、お寛ぎ中、申し訳ありません。至急レニー子爵が謁見を申し出ております」
「今何刻だ?」
クリストファーは酒の入ったグラスをぐいっと飲み干し、目を通していた書類をテーブルに置く。
「今、準備して行く、執務室に会う」
「御意」
クリストファーはガウンを羽織ると執務室に向かう。扉にはすでにレニー子爵が控えていた。
「陛下、夜分遅くに申し訳ありません。お早く耳に入れて頂きたい案件がございます」
「あぁ、わかった。おまえ達は扉の外で控えろ」
護衛を扉の外に待たせて、レニー子爵を部屋に招きいれた。
「只今、ウィンターニアに散らばせている密偵から報告でございます。ウィンターニアのメルバン村にて原因不明の奇病が発生したとのこと。現在も隣村に同様の病が広がっているようです。22年前の伝染病の再来かもしれません」
「何?!」
22年前にウィンターニアから伝染病が発生し帝都にまで及ぶ感染が嘗て起きていた。当時、医療院のアマーノの迅速な対応により感染を食い止めるができたが、ウィンターニア及び北西部に渡り多くの命が失われた。
ウィンターニアに南の国からの船が寄港し、船にいたネズミが上陸し菌を運んだとされている。菌が拡がるのは一瞬だった、ウィンターニアは当時下水完備もされておらず度重なる戦火に遭い、衛生状態が粗悪な為に起こってた伝染病だった。
「陛下!ウィンターニアからの一報が来ております!」
と執務室の扉をノックし侍従か紙を握りしめてやってきた。クリストファーは紙を広げ読むと、険しい表情になる。
「レニー!ウィンターニアを隔離する!おまえは対応にあたれ!」
「御意」
と頭を下げると小走りにレニー子爵は立ち去った。
「すぐに大臣達に招集をかけろ!あと医療院のアマーノと第6番隊にも招集をかけろ!すぐにだ!」
「はっ!」
「伝染病…」
クリストファーはウィンターニアからの知らせを握り潰した。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる