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第8章 孤立した皇太后の故郷 ウィターニア編

第2話 ライアンとの街探検ー2ー

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 ライアンはリーラの手を引っ張りながら石造りの路地へと入って行く。
「ライアン!ダメだよ!また危険なことにラ巻きこまれちゃったら大変だよ!」

「大丈夫、大丈夫!」
と細路地を上手に潜り抜けると大通りに出た。賑わう人ごみを小走りで抜けながら、こっち、こっちとライアンがリーラを案内すると赤い煉瓦れんが造りの博物館らしき建物にやって来た。

「この博物館はこの国に貢献した者達の功績が展示されているんだ。ほら見て!」
指が差された場所には祖母のローリーの名前とドレスが展示されていた。

「昨年の受賞者なんだ」

「すごい!おばあ様!」

 大喜びするリーラの姿を見てライアン満足すると、
「もっと驚くことがあるんだ」
とこっちだとリーラの手を繋ぎ、別の部屋へ案内する。かなり昔の功績者の名が連なっている展示部屋にやってくるとライアンがある名前を指し示すと300年前の功績者名でエドモンド・レキシントンと記載されていた。

「この人はレキシントン家の始祖でリヴァリオン国出身だそうだ。アンデルク王国の末姫と婚姻をしてレキシントン家を発展させた人なんだ。」

「?!」
リーラは祖母の祖先がリヴァリオン国の血を引いている事実を知らなかったので驚いた。

「だから…俺とおまえも何かしらの縁…」
「ライアン!あれ何!」

「えっ?あれは…」
最後まで考えていたセリフを言えずガッカリしながらライアンは博物館内のカフェについて説明する。

「毎年、功績者を祝う晩餐会が行われて、そのデザートがこのカフェで食べれるんだ。食べよう!」
「うん!」

二人はデザートと紅茶を注文して食べる。
「うわぁ、食べるのが勿体ない位綺麗な形~美味しいー!甘酸っぱさとクリーミィな二層のムースが合わさってる!初めて食べた!」
リーラは嬉しそうに木苺のムースケーキをモグモグと食べる。

「ははは、良かったよ、喜んでくれて。この紅茶とケーキもその年で競い合い選ばれた品で、唯一この場所で受賞後の晩餐会と同じ品が食べれるんだ」

「へぇ~」

「さぁ、次は街を案内するぞ!」

「うん!」

博物館を後にした二人は新市街と言われる場所を散策する。流行の最先端をいくアンデルクならではの真新しい物を売る店を説明しながら案内をするとリーラのお腹がグ~っと鳴る。
「もう、昼時か…、行きたかった店があるんだけど行ってみないか?」

「行く!行く!」

「姉の婚姻のおかげでナターシャの食べ物がアンデルクにも入ってきたんだ。辺境地の友人がなかなか美味しかったから行ってみればと勧められたんだよ」

新市街の飲食街にある店に入ると昼前だが人気店なのか客で賑わっていた。ライアンは友人のお勧めを頼むと皿にソースのかかった肉団子とパンが運ばれてきた。

「いただきます!美味しい~、横に添えられているジャムをつけても美味しい~」

「本当だ!これは流行るな。リーラ、本当によく食べるな…」

「そう?モグ、モグ」

バン!
息を切らしながら両手をテーブルに叩きつけ仁王立ちしながら二人を睨みつける少女が現れた。
「見つけたわよ!!」

「クソッ!見つかった…」

「誰?」

「双子のアネット」

 ピンク色の髪をおさげに結い上げ、平民の装いをしているが高貴な雰囲気が隠しきれないライアンとそっくりの令嬢がにこりとリーラに笑いかける。
「アネットよ、ライアンが女の子とデートするって聞いたから是非紹介してもらおうと思っていたのに、逃げ足が速いこと…」

「護衛を巻くってもしかして彼女を巻きたかってたの?」

「うっ…」

「お初にお目にかかります。わたくし、リーラと申します。このような場ゆえに略式のご挨拶にてお許しくださいませ」

「許すわ、わたくしも突然、二人を邪魔するように現れて申し訳ないわ」

アネットはライアンをがしっと掴みこそっと耳打ちする。
「美人じゃない?やるわね、ライアン」
「うるさい!」

「リーラに会えたことだし今日は退散するわ!またお茶に招待してもいいかしら?」

「申し訳ございません。仕事もあり明日にはノーザンランドに帰る予定なのです」

「残念だわ…また、こちらに来た際にはお話しましょう」

「もちろんでございます」

「じゃあね、ライアン。ごゆっくり~あっ、ライアンの護衛は追いついたわよ~」

周りを見渡すとアンデルクの護衛達はようやく配置につけたようだ。
「巻くか…」

「いやぁ…駄目でしょ…」




食事を終え見晴らしの良い新市街の高台の公園に行くと街並みが一望できる公園で二人は一休みする。

「あれがライアンの宮殿だね、大きいね…」

「まあな。仕事…忙しいのか?手紙、あまり書いてくれないからってか、催促してないからな!」

「あっははは…そりゃ副隊長だからね。忙しいよ、先日、大きな事件に遭遇したからバタバタしてたなぁ」
リーラは遠くの方を見つめながら悲しげな表情をする。騎士ゆえに戦うために人を殺めてしまうこともある、リーラがその重みを背負っているのかと思うとライアンの胸がギュッと苦しくなる。

「大変なら俺の傍にこないか?」

「ふふふ、ありがとう、大丈夫。副隊長の職務に誇りを持っているから大変じゃないよ。ライアンこそ、大丈夫なの?辺境地って大変じゃないの?」

「大変だったけど行って良かったよ。どれだけ自分がぬるま湯に浸かっていたってわかったから。隣国や海から何度も我が国は危機状況になっていたのに辺境伯に任せきりだったからな。今も役に立っているかわからないけど辺境伯の元で学び、共に闘い、国を守れる存在になれるように頑張りたいんだ」

「ライアン、宰相に狙われてるんでしょう?さらに他の敵なんて、大丈夫なの?」

「あぁ、あの一族は抹殺されたよ」
リーラはえっ?!と驚いた表情になるがライアンは公園の芝生にごろりと寝転がりながら話を続ける。
「俺は囮だったんだ、以前から邪魔な存在だった宰相を消すために俺が利用された訳」

「でも、ライアンに何かあったら…」

「何かあるような身なら必要ないらしい。次のスペアの弟もいるからさっ。正直言うと俺を簡単に切り捨てる父に対しても怖くなったよ。だから俺自身が強くならないといけないって思ったんだ。辺境地に行って特に感じたんだ。戦っても弱いから足手纏いでさぁ。何度も仲間に助けられて救われたよ。こんな弱い俺でも皆、仲間として迎えてくれたんだ。人との繋がりの重要性を知ったよ、殻に篭ったままではいけないって。人脈を築き、強くなり父を超える王になるんだ。明日からのナターシャ行きも姉が創ってくれた人脈だ、無駄にしないさ」

「ライアン、カッコいい~」

「へっ?そっか…」
ライアンは顔から耳まで真っ赤になる。

「リーラ、いつの日か俺のそば…」
「見つけた!!」
ハァ、ハァと息を切らしたルディがライアンの言葉を遮り二人の前に仁王立ちをする。

「リーラ、何考えてんだよ!ダリルさんに怒られるのは僕たちなんだからね!護衛巻くなんてあり得ないよ!!」

「あっ、ごめん!忘れてた…」

「オリーがいなかった見つけらなかったよ!みんな怒ってるんだからね!!」
と二人の前に少し不機嫌なレンやアンディが現れ説教をしようと現れた。

「ライアン大丈夫か!お前達何者!」
とライアンの周辺に異変を感じ、小柄な少年や体格の良いアンデルク側の護衛達も現れる。

「バロン、みんな大丈夫だ。この令嬢の部下達だ」

「部下?君は一体?」
小柄なオレンジ色の髪をした少年が驚いた表情でリーラを見る。

「私、ノーザンランド帝国、第6番隊副隊長のリーラとその部下です、お見知りおきを」
とアンデルクの護衛達に挨拶をすると、皆こそ、こそと可愛いなぁとか帝国の副隊長を落とそうとしてるのか、やるなぁと呟いている。

「リーラ、俺の辺境地での仲間。護衛なしでいいって言ってるのに無理矢理ついてきたんだ。みんな、俺の命の恩人のリーラだ。6番隊は最近出来た救護隊なんだ」
と補足説明すると一人の護衛が、
「噂で聞きました。救護と戦闘が出来る隊が設けられたと!その副隊長と隊員の方にお会いできるとは!副隊長が美しい方なので隊員の方は守りたくなりますよねぇ、殿下、これからの道のりは苦難ですねぇ」
とライアンの身体を肘で突くと、
「うるさいよ、クソッ、やっぱり二人でのデートは難しいなぁ…」
と口惜しがるライアンだった。

「辺境地の騎士の方達なんですね!せっかく護衛のみんなで集まったんだからみんなでご飯行こうよ!お互いの情報交換なんてどう?」
とリーラの提案に隣国同士の情報交換って外交面で大丈夫か?と護衛達の表情は若干不安気になる。

そして、マイペースなリーラにルディもお決まりの一言を言い放つ。
「でた、リーラのみんなでご飯行こうだよ…」

オレンジ髪の少年バロンが、
「賛成~!俺もはらぺこ~」
と言うとルディの腹時計もうまい具合にグゥ~と鳴る。
「僕もお腹減ったよ、ずっと追いかけてたもの。レン先輩、アンディ先輩行きましょうよ~」
レンとアンディは顔を見合わせるとアンデルクの護衛達に同意を求めると交流を深めるのも悪くないとアルティーレの旨い酒場へ行くことになった。

 互いの交流を深めることができたリーラ達はアンデルク最後の夜は賑やかな酒盛りで締め括ったのだ。



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