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第5章 リーラとアンデルクの王子

第14話 女の闘いー1ー

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 皇宮内にあるシャーロット皇太后がお茶会を催す際に使われる百合の間。
 長い冬でも皇宮の庭が見えるようガラス張りのテラスと繋がっている。リーラは今護衛を任につくためにこの間にいる。
 皇太后様主催のお茶会。
 先日晩餐会に参加出来なかったデビュダントの前のライアン王子と歳が近いご令嬢とアンジェラ王女に近い年齢の令嬢の何人かが集められた。
 ホスト役である皇太后のテーブルは百合の間に掛かる見事なタペストリーが見える位置設置されてアンジェラ王女とノーザンランドの令嬢達がテーブルを囲んでいる。もう一人のホスト役のエリザベス殿下のテーブルは庭の散策がしやすいようにテラス側にテーブルが設置され、ライアン王子や歳若い座り令嬢達がテーブルを囲んでいた。



◇◇◇


 
   

    黒獅子棟 騎士総本部 
 
お茶会、3時間前、ビルが騎士隊員の前に立つ。
「今から任務前の打ち合わせを行う。今日の第1所属部隊予定は、陛下が貴族院の議会出席され、その後アンデルク側の外交大使と大臣との会議が予定が入っている。
 第2,3所属部隊は百合の間で護衛だ。午後から皇太后様がアンデルク王子達を百合の間に招待される。他の招待客は12人の令嬢が招待されている。第3所属部隊はエリザベス殿下がライアン王子を庭にご案内される予定もあるから庭からの護衛は特に注意しれ。たくさんの人が出入りする。アンデルクの襲撃事件も起こっているからみな気を引き締めていけ。」

「はい!!」

「そして…、今回のお茶会はいわば殿下の顔合わせも兼ねている」

「お見合いですね!」

「こら、リーラ喜びな!」

「エリザベス殿下とライアン王子の顔合わせの場ともなる。他の令嬢達も良縁の機会が与えられた。令嬢達も気をひこうと頑張るだろう。何も起こらないとは思うが令嬢同士のトラブルに気をつけろよ。
 厄介なのはアンデルクの王女が我が国に嫁ぎたがっているが陛下があまり乗り気ではない。皇太后様のアンジェラ王女を見極める場でもある」

「きっとそれぞれの令嬢達のドロドロした駆け引きや闘いが見れるのかぁ」
他の隊員がつぶやいた。

「こら、そこ!うるさい!リーラにやにやするな!」

「だってドロドロのドロドロした駆け引きを見れちゃうわけですね!」

「リーラ、口をつつしめ」

「いや、いや、みんな結構楽しみにしてますよね、ビル隊長だって結果報告聞きたいくせに~」

「…頼むぞ」
第2,3所属部隊員は任せておけと合図した。
    
     ********

 テーブルの離れた場所で護衛するリーラは1人実況始める。
「おっと、いつもの和気あいあいとしたお茶会ではなく部屋に何か張り詰めたものを感じますねぇ。ライアン王子まわりに座っている令嬢達!目はギラギラとライアン王子を見ています、肉食ですねぇ。」

「リーラ様…」
呆れた表情のレンが注意する。

「すみません…」



 
 シャーロット皇太后とアンジェラが和やかに会話をしているように見える。

「ノーザンランドはとても過ごしやすいですわ。アンデルクだとまだ汗ばむ季節ですもの」

「まぁ。確かにアンデルクは南に位置してるわね。そんなにも気候が異なるのね」

「私にはノーザンランドの気候があっていると思いますわ。皇太后様、陛下とご縁があればと思っているのですがなかなか良いお返事が頂けませんわ。皇太后様からもお声掛け頂きたいですわ」

 二人の話を聞いていた令嬢達はまぁとアンジェラの積極さに驚く。

「家臣からも何人かの妃候補についての話は聞いているわ。でもね、前陛下が崩御されて一年しか経っていないから、陛下もまだその気にはなれないかもしれないわね」

 皇太后は悲しい表情でやんわりとアンジェラ王女の願いを断った。

「今、と話されたわ。わたくし達も入っているのかしら?」
扇子で口元を隠しながらフォールド公爵の側近オリアン伯爵の娘セリーヌが扇子を広げこそこそ話す。
「でも、第一候補はアンジェラ王女かレイチェル様ではなくて」
第5番隊隊長ラモントの娘ステナが扇子越しに答える。



「我が国は大国になった今、陛下と共に国を治めれる伴侶は相当の手腕を見せれる者でなくてはいけないわ」

アンジェラは自信のある表情になる。
「私、服飾の事業を起こしましたの!実は晩餐会で着用したドレスがまさにそれですの。ドレスだけでなく今まで脚光を浴びなかった靴にも焦点を当てましたの。今や靴業界にも新たな風が吹いていますわ」

 令嬢達はさすがだわ、まぁすごいわとアンジェラ王女と褒め称える。

「ドレスに散らばらせたのはダイヤではなくガラスですのよ。ガラスでしたら平民の手に届くでしょう。誰でも手に入りやすいように今、貴金属部門の事業にも手を伸ばそうと考えてまして経済を活性化させる役割に貢献していると思いますの」

「さすが芸術の国アンデルクならではね。けれどもノーザンランドではどうかしらねぇ?ほら、我が国では着飾る機会といえば短い夏ぐらいしからないでしょう。長い冬は厚手の外套で隠すからあまり見せれる機会も少ないわ。民の間に流行らせるのはらなかなか策が要るわね。それに…、今は少し難しいのよね…」

 貴女達は当然知っているわよねと皇太后は冷やかにノーザンランドの令嬢達をみる。

 アンジェラの横に座っていたローズ・リッチモンド夫人が扇子を広げ、先日起こった事件をこっそりと伝える。
 1週間前に発覚したザイデリカ前財務大臣の不正は民に知れ渡り、国の金が無駄に使われた後で華やか貴金属類を扱う皇后など今の治世必要ないのも一目瞭然。今のノーザンランドは国の金をどう堅実に扱うかを民に見せていかなくていけないのだ。

「皇太后様のおっしゃる通りでございます。アンジェラ王女様がお越しの際にあのような慌ただしいことが起こるとは…
まずは帝国の安定からですわ」
と真っ直ぐな眼差しで話すのは翠色の髪を持つレイチェル・コールディア侯爵令嬢だ。

「レイチェル様、帝国の安定も大切ですが、アンジェラ王女様がおっしゃるように経済の活性化はすなわち民の生活が向上にも繋がります。今は難しいかと思われますが、広い視野も見ることも必要かと思われますわ」
と堂々と発言する令嬢はハイベルク公爵、側近のターナー伯爵の娘クラリッサ。

レイチェルに挑戦的な眼差しを送る。それに気づいたレイチェルも睨み返し、両者間に見えない火花が飛び散っているようだ。

 自分磨きに忙しかったアンジェラは大使からの財務大臣の汚職事件の話を聞き逃していたのだ。アンジェラだけではなくステナ嬢とセリーヌ嬢も知らなかったようだ。

「アンジェラ王女様は王子様の襲撃事件のことで大変でいらっしゃったからご存知なくて当然でございますわ。どうか気になさられないように」
と優しくローズはアンジェラ王女の手を添える。

 今回はローズはアンジェラ王女の顔馴染みということでフォロー役に招かれた。ローズ夫人のフォローの様子を満足気に見ていた皇太后はアンジェラとローズに微笑みかける。

「ターナー伯爵令嬢の言う通り、今後の経済発展のためにも広い視野で考えることは大切だわ。よく、勉強をしてるのね」
 皇太后は貴賓であるアンジェラ王女に失礼のない物言いをしたクラリッサを褒める。

「いえ、私などまだまだですわ」
とチラリとレイチェルに自慢げな微笑みを送る。

「もちろん女性にとって着飾ることは大切だわ。今は厳しいかもしれないけど、女性の活躍の場を増やす為にも服飾業界を発展させることは大切よ。アンジェラ王女、是非みなにお話聞かせてちょうだい。ほら、靴のデザインが素敵だったわ」

「もちろんですわ…」

アンジェラの自信に満ちた表情が落胆した表情に変わるのをリーラは見逃さなかった。

「カーン、皇太后様勝利」

ギュッ。

「痛い!痛いじゃん!レンさん!」

「シーっ!」
後ろに組んでいる手を思い切りレンにつねられたリーラだった。

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