64 / 240
第4章 別れと新しい旅立ち
幕間 甘いひととき(第15話の後日談)
しおりを挟むリーラを乗せた馬は皇宮内へと入る。なぜ皇宮?と疑問を感じながら馬から降ろされ再び抱きかかえられる。
「あの…」
リーラの声も届かずクリストファーはコツコツと進む。
「お帰りなさいませ」
紺色の侍女服を着た女性達が並んでいる。
「彼女が雨に濡れて身体が冷えている。温めてやれ」
「かしこまりました」
「陛下、私はだいじょ…うぶ」
最後まで言う前にクリストファーは部屋を出る。
「さぁ、こちらへ」
侍女達に連行される。
部屋の造りを見ると豪華な内装で明らかに高貴な人の部屋だった。
「あの、この部屋は…」
「陛下の御部屋でございますよ」
服を剥がされ侍女に温かいお湯の張った浴槽に放り込まれる。
そして、丹念に身体を清められるリーラだった。
「あの自分で出来ますが…」
「わたくしどもの仕事でございます」
「はぁ…」
「まぁ、磨き甲斐のあること」
侍女達は髪を結い、ドレスの着せ付けに忙しい。
ドレスを着たリーラは美しい令嬢に変身する。
鏡を見たリーラはこれ誰?あっ、私か…。何か股がスースーする、違和感半端ないと愚痴をこぼす。
「リーラ!」
部屋にエリザベスが入ってきた。
「あらっ、どこの淑女かと思ったわ」
そして、リーラをギュッと抱き締める。
「話を聞いたわ。大丈夫?」
「はい。ご心配をおかけしました」
エリザベスは首を振りながら
「私、リーラを尊敬しているのよ。王族である同じ立場のあなたは苦境に負けず真っ直ぐに生きている。私なら今頃死んでいるわ。辛かったわね。さぁ、疲れた時には甘いものよ!」
リーラの手を握り別の部屋に向かう。
「部屋に嫌なことを忘れるくらい美味しいお菓子を用意してるのよ」
部屋に入ると甘い匂いが漂う。
「さぁ、女子会よ」
「はい!」
初めて食べる甘いお菓子に心が癒されるリーラ。
「リーラ、聞いてくれる?私ね、このままではいけないと思ってるの。私にできること何かあるんじゃないかって。このままで終わりたくない。誰かの元に嫁いで子を産んで終わりなんていやよ。リーラのように真っ直ぐ前に進みたい。まだ何かは見つけていないけどね」
リーラを見つめ笑いかける。
「私もまだ何かなんて見つけてないです。ただごく普通に生きれたらそれだけいいとは思ってます」
そうねと頷き、普通に生きたいが彼女の背負う運命がそうさせないのだろうとエリザベスは感じた。
部屋の扉がノックされクリストファーとビルが入ってくる。
クリストファーはリーラの令嬢姿を見て驚いた様子だったが普段通りに話しかける。
「身体の方がだいぶ冷えていたが大丈夫か?」
と両手でリーラの頬を包む。
「大丈夫です。ありがとうございます」
リーラは突然触れられ赤面する。
「おい、クリス!可愛いく変身したからって気安く義妹に触るな」
手を退けようとするビル。
「お兄様、私のように簡単に女性に触れてはいけないわ。リーラごめんなさい。きっと妹みたいに思って触れているのよ」
「はい…」
「それは悪かったな」
バツが悪そうに頭を掻くクリストファー。
「お兄様、お願いがあるの。リーラはお母様の護衛騎士でしょう。私ではダメ?
一緒にいれたらいつでも楽しく話せるじゃない⁈」
「そうだな。歳近い者同士話せるのもいいだろう」
「ありがとう!!リーラ、これからもよろしくね」
「はい」
二人は笑い合う。
クリストファーが突然立ち上がる。
「リーラ、仕事だ」
「えっ??」
あんた何いってるんですか?の表情でクリストファーを見るリーラ。
「思ったより元気そうだからな。嫌な事を忘れるには仕事が1番だからな。では、参ろうか?リーラ嬢」
エリザベスとビルはこんな時に仕事を与えるなんてやはり非道な皇帝だと冷たい眼差しを送る。
「やっぱりなぁ。こんな高待遇受けて何か裏があるかと思ったよ。やっぱり名の通りの冷徹皇帝だね」
「何か言ったか?リーラ?」
「やば、聞こえてた?あははは、何も言っておりません。陛下」
顔の前で手を振り必死に不敬発言してませんアピールをするリーラ。
クリストファーは難しい顔になり、なんだか満足のいく返答を返せなかったようだ。
「せっかくの美しい装いの淑女姿なのだから装いに相応しい返答と仕草がほしいのだが…」
にやりと笑うとリーラに手を差し伸べた。
「さぁ、美しき令嬢参ろうか。手を」
「へっ陛下、参りましょう」
ぎごちなく差し出したリーラの手を取り歩き出しながら苦笑するクリストファーだった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる