上 下
57 / 240
第4章 別れと新しい旅立ち

第12話 ジェフの過去

しおりを挟む

 ゾーン国が攻めてきた。
 ローズ王女が急ぎ輿こし入れした翌日に攻めてきたのだ。すぐに城は落とされ、国は占領下となった。

 私の父親はリヴァリオン国の騎士団長を務めており、私は父の後を継ぐために剣を磨いてきた。来年、16歳になればようやく入団できる。父と共に働ける希望に満ちていた。

「時間の問題で国が戦場になるかもしれない。国を出る準備をしろ」
父が突然言い出した。
「あなたは、どうするの?」
母が聞くと、
「私は騎士だ。国に残る。まだ、占領されるかはわからない。問題なければまた戻ってこればいい」
父は大丈夫だからと言った。

 しかし、事態は急変する。
「すぐに荷物を詰めろ。ローズ王女が国を出た。すぐに国境トンネルに向かえ」

 私達は荷物をまとめトンネルに向かった。今思えば荷物など持たずすぐに国境トンネルに向かえば良かったのだ。
 昼過ぎに家を出てトンネルに向かうと国境の関所に向かう馬車を待つ人の列が出来ていた。しばらく並んでるいると国境の関所の閉鎖時間となり馬車は止まってしまった。人々は誰一人家に戻らず待ち続けるようだ。私も朝まで待つことになり母と弟と3人で待ち続けた。夜に南の山手の街道から幾つの灯りが見えた。私は何かしらの恐怖を感じた。その恐怖は現実となる。街から大勢の人が逃げてきたのだ。私達もひとまず親戚のいる北西にある村に逃げる。親戚は快く迎えてくれた。しばらくしてやって来たゾーン兵士に王族が殺害され騎士も全滅させた、おまえ達も抵抗すれば殺すと脅された。
 父を亡くし失意の母を支えながら静かな日々を送っているとゾーン国から10才から15才の男女を集めるよう通達がくる。親戚には抵抗すると殺されるので行くように頼まれた。母は行くことに反対したが弟とも話し合い親戚や母のために城に行く事に決めた。

 そこからは地獄だった。

「兄さん!!」
「サムー!!」
「抵抗するな!」
バシっ。私は抵抗した為殴られ牢屋に入れられた。
 集められた弟と10才位の子達はゾーン国に送られたそうだ。
 私のような15才くらいの男の子達は甘い匂いのものを嗅がされゾーンの兵士の言うがまま働かされる。

「この水どうぞ。ルーカスさん、ほとんど水を口にしていないでしょう」

「ありがとう。なんだか身体を動かすのもしんどくてさぁ。ロンは大丈夫なのか」

「はい、恐らくこの甘い香のせいなんでしょうね。私に効きにくいみたいです」

そう話すロン・グリット。父の部下のリヨン・グリットの息子だ。父がよくリヨンさんを飲みに連れて帰ってきてたのですぐに名前から息子だとわかった。

「いつまでこんな生活が続くんでしょうか…」

「わからない」

小さい鉄格子のある窓から見える三日月をぼんやり二人で眺めた。
ドカン。扉が突然開いた。

「おい!ロン・グリットはいるか!」

「はい。僕ですが…」

「上の方かお呼びだ。来い!」

「ロン!」

「ルーカスさん!」
彼は引きずられるよう連れて行かれ2度と戻ることはなかった。

 ある時、集められた子供同士、闘うように言われた。もし勝利できれば待遇がよくなると聞かされ顔見知りの者同士が戦う羽目になった。

 その姿を薄気味悪い赤い口紅を塗った紫色の髪の女が笑いながら見ていた。何人か友人達は、死んで行きそろそろ私の番かと思った時にあの薄気味悪い女に呼ばれた。

王の間に呼ばれて気づく。 
この女は王妃サンドラだった。 

 父と母の話を思い出す。この国にゾーン国の将軍の妹が嫁いできてからこの国は変わり始めた。何も身分のない他国の平民の娘が嫁いだのだ。
この国の伝統を踏みにじり崩壊させた女だ。 
 
 女は僕に言った。

「あなた達を置いて逃げた王女が2人いるのよ。そのうち1人を連れて帰ってきて。名前は、リーラ・リヴァリオン・ラクライン。銀髪に青色の瞳よ。殺さなかったらどんな状態でも構わないわ。もしできたら、あなたの弟を助けてあげる。成果をだしたら私の家臣にしてあげるわよ」
ローズ王女以外に王女がいる事に疑問を感じたが、私は女に魂を売った。

「仰せのままに」
サンドラは足に口付ける。

 私はゾーン国に入り港へ向かい船に乗った。陸地を離れて行く船からゾーンの街並みを眺める。この国のどこかにサムがいる。必ず仕事を済ませ迎えに行くと心に誓う。
 船は半月かけてノーザンランドの南東部にあるザイデリカ領に着いた。
 王女が潜伏すると言われる帝都グランディナに向かった。偽の身分証と2才の年齢を偽りノーザンランドの騎士学校に潜入する。もともと父から剣の指南を受けていたので容易たやすく合格できた。王女がロン・グリットの偽の身分証で入国していたと聞いたのでその名で探りを入れる。しかし、広大な帝都。なかなか一人を見つけるのは難しい。騎士学校で過ごしていると幸せそうに騎士ごっこをしている周りの子供を見ると腹立だしかった。

 街で聞き込みをしていると、声を掛けられた。幼なじみのケリーだった。
懐かして涙が出そうになった。しかし同時に彼女に腹が立った。彼女の親は王女付きの侍女と護衛だ。私達を置いて逃げた王女の仲間なのだ。けれど彼女を憎めない。ずっと好きだった。幸せになれよと思い冷たくあしらう。

「ルーカス待ってよ!どうしてここにいるの!!」

「離せ、人違いだ!」 

「嘘よ、待ってよ。一人でこの国に来たの?」

「お前なんか知らない。近づくな!」
私は彼女から走った。

 後から考えてみれば彼女を利用してリーラと言う女の情報を聞き出せば良かった。しかし、自分には彼女にあれ以上近づくことは出来なかった。

さようなら、ケリー…

 ある日、鍛錬の練習の時思わぬ落とし穴に気づく。リーラと呼ばれている少女がいたのだ。まだ確証は得れていない。伝書鳥に該当なしと紙をつけて飛ばした後に赤髪の少年が私に接触して来た。この少年はなかなかお喋りで色々情報を流してくれた。私も少ししゃべりすぎたかもしれない。なんだか弟のサムとラディリアスが重なって見えたからだ。
 ラディリアスの情報からすべての情報が一つの線に繋がった。ロン・グリットはリヴァリオン国の亡命者。そして、偽名と性別も明かしリーラと呼ばれている。あの女が王女だ。
 あいつが王女だとわかると毎日間抜けずらで笑うあの女が憎たらしいくて仕方なかった。
 ちょうど、野営訓練で街からでる。
父と呼ばれている護衛らしき男とも
離れるチャンスはこの時しかない。
 私は伝書鳥に標的発見。襲撃場所と仲間の要請の連絡をした。



 ようやく、サムを救える。笑いがこみ上げる。目立たないように黒装束の服に着替える。その時突然、扉が空いた。

「ジェフ、どこに行くんだ」

「チッ!」

「おまえの事、数日見ていたんだぞ。鳥に手紙をつけていただろう」

くそっ、見られていたか。あなどれないな、さすがラモント・ユーリアムの甥ってところか?

「何か喋れよ。まさか、リーラ様を襲うんじゃないだろうな」

私の瞳の動きをみたラディリアスは、
「させない!」
私を殴りつけた。

ふっ、かわいいパンチだよな。
私は持っていた刀を出しラディリアスを刺す。

「あっ、あっ……」
ラディリアスは床に倒れこむ。

思わず急所を外してしまった。

なぜだろう?
どうしてなんだろう…
胸が痛い。

私は騎士学校を後にした。

あの女をゾーンに連れて帰るために…




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

最初から最後まで

相沢蒼依
恋愛
※メリバ作品になりますので、そういうの無理な方はリターンお願いします! ☆世界観は、どこかの異世界みたいな感じで捉えてほしいです。時間軸は現代風ですが、いろんなことが曖昧ミーな状態です。生温かい目で閲覧していただけると幸いです。 登場人物 ☆砂漠と緑地の狭間でジュース売りをしている青年、ハサン。美少年の手で搾りたてのジュースが飲めることを売りにするために、幼いころから強制的に仕事を手伝わされた経緯があり、両親を激しく憎んでいる。ぱっと見、女性にも見える自分の容姿に嫌悪感を抱いている。浅黒い肌に黒髪、紫色の瞳の17歳。 ♡生まれつきアルビノで、すべての色素が薄く、白金髪で瞳がオッドアイのマリカ、21歳。それなりに裕福な家に生まれたが、見た目のせいで婚期を逃していた。ところがそれを気にいった王族の目に留まり、8番目の妾としてマリカを迎え入れることが決まる。輿入れの日までの僅かな時間を使って、自由を謳歌している最中に、ハサンと出逢う。自分にはないハサンの持つ色に、マリカは次第に惹かれていく。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...