上 下
49 / 240
第4章 別れと新しい旅立ち

第4話 実地訓練ー帝都編ー1

しおりを挟む

 候補生2年目には第2,第3番隊で実地訓練を受けることが慣しだ。今日からシャルケ組は第3番隊実地訓練に入る。
 リーラは上下黒の騎士服に身を包み、黒革の編み上げブーツを履き、腰にエクストリアを帯剣をする。
 
 鏡の前でポーズを決める。
「なかなかかっこいいじゃない?!」
 髪も少し高い位置で縛れるようになった。黒色リボンを結び出来上がりだ。
「キャサリン隊長に少しは近づいたかな?」

「リーラ、準備できたか?」
ダリルの声が聞こえ、
「はーい」
と下に降りる。

 リビングに降りていくと見知らぬ簡素な服を着た黒髪の青年がいる。ぺこりと頭を下げると青年も頭を下げる。

「本日よりリーラ王女護衛を任されました第1番隊のレンと申します。よろしくお願いします」

「はぁ…えっ、私に??護衛?!どういうこと?」

「陛下の判断でリーラに護衛をつけることになった。私も仕事がありリーラを守りきれない。今日から帝都での実地訓練が始まる。危険もあるかもしれないからな」

「いや、王女って扱われたこと人生で一度もないから護衛もいらないと思うんだけど…」

「リーラ王女様、護衛はわからないようにしますのでご安心ください。私の他にも第1番隊アンディがお側に控えますので今後ともよろしくお願いします。では」
レンは必要な事だけ話すと立ち去る。

「リーラ、とりあえず、問題を起こさないように。あと、危険が近づいても自分から絶対首を突っ込むな。団体行動だぞ!」

「あー、朝から全くうるさいなぁ。わかってる、わかってる。行ってきまーす」

「こらぁ。まだ話が終わってないぞー!」

"あれ以上注意されたら耳が痛くなるよ。"

『もう少し、ダリルを労われ』
『はい、はい』



◇◇◇



 第3番隊の詰所は帝都の中心、セントレア通りにあり質屋街の横に隣接していている。騎士候補生2年のシャルケ組は詰所の会議室に集められた。

「シャルケ組の諸君!おはよう!第3番隊副隊長のエドモンド・キングストンだ。名前長いからエドって呼んでくれたらいいから。毎年、候補生が冬の間に来てくれて助かるよ~。地方から来ている奴は冬に実家に戻って手伝いとかあるからまとまって休みをとるんだよ。実地訓練とかいうけど、まじで仕事してもらうからね。じゃあ、みんなよろしく~」
エドモンドはウインクして去って行く。

シャルケ組は副隊長の軽さに動揺していると小隊長らしき人が説明を始める。

「はーい、副隊長の挨拶でした。では、3番隊は10の班で分かれています。そのうち街の中心部の4班に所属してもらうね。仕事内容は雪が本格的に降る前に街は買い物客で賑わうのでスリとか泥棒とか色々悪さする人が多くなる時期なので取り締まりをします。あと買い客が子連れでくるから迷子も多い。
 雪が降ったら怪我人も多くとにかく色々起こるから臨機応変に対応してくださーい。以上。解散!」

「思ったより軽い感じだな。俺にぴったりだ。」
アデルが満足げに話す。
確かにアデルにぴったりの隊のようだ。

「さぁ、君達はこっちだ。私は5班の小隊長のパブロだ。平民街担当となる、毎年助かるよ。10人では、動けないからね。2~3人に分かれくれる?」

「リーラは私と組もう」
ルマンドが申し出てる。

「あっ、うん」
リーラが気づくとアデルはサザリーと組んでいた。なんか故意的に組まされたような気がした。

「決まったかな?じゃあ5班の詰所に移動するね。詰所に指導してくれる先輩騎士がいるからね」
 5班の詰所に移動の道中、街は人で混雑していた。みんな冬籠ふゆごもりのため荷物をたくさん持っていた。
ぴゅーっと冷たい風が吹く。
もう冬がやってきているかもしれない。

 5班の詰所に着くとリーラ達の担当の先輩騎士を紹介された。イアンは16歳で紺色の短髪の人が優しいそうな青年だ。騎士歴は2年目に入る。
 早速、一行は街にパトロールに出かけた。

「正直なところ町の南側に来たのは初めてなんだ」

「私もそうだよ」
ルマンドも同意する。
リーラはキョロキョロと周囲を見た。
街の中心と外れではここまで貧富の差があるんだと感じる。

イアンはくすっと笑い、
「君達、貴族だろ。驚いた?でも、このあたりの治安もましになってきたんだよ。さぁ、行こうか。まず、スリね。年配者が狙われやすいから、年配者の後ろに怪しい人がいたら声かけていくよ」

「「はい」」

 しばらく歩いていると子供の鳴き声が聞こえてきた。駆けつけるとお母さんとはぐれてしまったらしい。

「よし、よし、泣くな。ナンシーさんとこの子だな。ママは?」

「買い物行く途中でよそ見したらママいなくなった、え~ん、え~ん」

「よし、よし、抱っこしてやるから店まで見に行くぞー、よいっしょ」

イアンは軽々抱き上げ歩き出す。
「先輩、子供の扱いに慣れていらっしゃるですね」

ルマンドが聞くと
「あはは、5人も兄弟いるからね。
あっ、ナンシーさんだ!見つけた。
ナンシーさーん!」
子供を探している女性が走ってきた。

「イアンさん、ごめんなさい。目を離した隙に、助かったわ。抱っこまでしてもらって~、ありがとうございます」
女性は子供を受け取り頭を下げて去って行く。

「泥棒ー」
オレンジを握った男の子が走って行く。リーラはすぐに人混みをくぐり抜け男の子を抱き上げる。
男の子は、足をジタバタさせた。
「離せー、離せー」

「勝手に取ったらダメだろう」

「騎士様ありがとうございます」

果物屋の店主が追いついてきた。
イアンはオレンジを店主に返し子供はこちらで親に注意するのでと納得してもらった。

「親が共働きで家に一人でいるのが寂しく親を困らせてやろうと盗んだりするんだ。ひとまず、詰所に戻ってこの子にお菓子でも食べさせてから親を探そう」

リーラ達は詰所の戻り男の子にお菓子をあげると喉が詰まるんじゃないというくらい勢いよく食べていた。落ち着いて話を聞くと家族が帰ってこなくなり何も食べてなかったらしい。
 結局、この男の子はパブロ小隊長が孤児院に連れて行く事になった。

「私達は、本当に恵まれているね」
ルマンドが辛そうに言った。

「本当だね」
リーラは自分の人生はかなり不幸だと感じていたがこの男の子と違い食事だって満足に食べて住む所だってある。
そして家にはダリルがいる。
今日の朝のことを思い出し、帰って謝ろう思ったのだ。

 
 リーラが家に帰るとダリルがすでに帰って夕食を作っていた。思わず後ろから抱きつくと、

「どうした!何かあったのか!」
とかなり驚く。

 今日あったことを話すと優しい表情でリーラは成長したということだなと頭を撫でた。
 

 
 リーラは、暖炉の上ににかかる短剣を見つめた。迷子になっていた子がママと泣いていたのを思い出す。

「ママかぁ…」
なんとなく短剣にママと呼んでいいよと言われたような気がした。

"ふふ、リンダママ、父さんをこの時代に送ってくれてありがとう。"
そっと短剣を触った。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...