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第1章 祖国の滅亡
幕間 ローズ王女ー2ー
しおりを挟む彼はひと目を避けるようにノーザンランドが滞在している階に入った。
階にいた黒服騎士達が騒ついている。彼は城の中でも1番豪華と呼ばれる部屋に入った。
「ねぇ、ここ大丈夫なの?皇太子に当てられた貴賓室なんじゃ?」
しーっと私の唇に彼の人差し指があたる。そっとベッドに下され、彼は私に目線を合わせるよう体を低くした。
「大丈夫、部屋交換してもらった」
"交換って…"
「僕が皇太子って期待した?」
私は首を振った。
彼は私の瞳をじっと見つめ、
「僕はね、常に直感を信じてるんだ。
僕の名はビル・リッチモンド。一応1番隊隊長しか肩書ないけど僕の所にお嫁にくる?」
私は嬉しくて彼に抱きついた。
そして、彼は優しく私に口付けした。
その夜、ビル様に私を捧げた。
彼は、私を宝物のように抱きしめ、
私は夢心地だった。好きな人に包まれ、肌と肌が触れ合う心地良さに、彼にしがみつくと彼も私を抱きしめ、背中を優しく撫でてくれた。
朝を迎え、彼は言った。
「僕達が滞在中、君はこの部屋にいるんだ。皇太子と君は恋に落ち、今、王に婚姻の打診をしている」
「えっ…皇太子って?!」
「ふっ。大丈夫」
彼は私の額に優しいキスをした。
「ゾーンは必ず攻める。攻めた後この国はなくなるだろう。王族でなくなった君を帝国に迎えるメリットはない。亡命者として我が家が君の後見人になれば僕と婚姻を結べるだろう。僕の家、父が宰相だからまぁ、そこそこ有力な家だから、大丈夫だよ。でも、申し訳ないが国は救えない。そんな頼りない夫でもいいかな?」
「えっ、大丈夫…わ、わたし、国を出れるなんて考えてなかった。きっとあなたとの事も一夜で終わりと思ってたから…」
「昨日、プロポーズしたじゃないか?僕の所へお嫁にくるって?君も盛大に僕を口説いていたよ」
「……」
昨日からの一連の出来事を思い出し、私は赤面する。
「君と信用できるものは共に国を出れるよう手配しよう。それだけしか出来ないけどいい?」
私には十分すぎる提案だ。
「持参金…あまり用意できるかわからないわ」
「大丈夫だよ。宝物庫の中から何か欲しいと王に打診するから。汚い手を使って奪わなく済んで良かったよ」
「私を利用したの…」
「違う!違う!どちらにしろ頂く予定だったから脅して奪うより、娘さんの持参金としてくださいって言う方がクリーンじゃないか」
「なんだか、少し腹立だしいわ」
「ごめん、ごめん。ローズ許して」
甘い声で耳元で囁かれるとなんでも許してしまう。
「今更なんだけど、君何歳?」
「17歳よ」
「えっ!大人びてたから…僕、もうすぐ24歳だけどこんなおじさんでいい?」
「私も、もうすぐ18よ!子どもじゃないわ。もしかしてがっかりした?」
「大丈夫だよ」
「おじさんなんて思ってないわ。ビル様は素敵よ」
私達は抱き合いながら笑いあった。
それからが早かった。ビル様はノーザンランド騎士を護衛として付けてくれ、父もノーザンランドとの繋がりを持てた事を大いに喜んだ。
持参金として宝物庫の中から持ち出す事を許された。
母と母の兄である叔父には真実を話した。叔父側にもアンデルク国への亡命の話があり承諾するつもりだと聞かされた。母は無事私と叔父家族を国から出すためにも国は出ないと言った。
「必ず幸せになるのよ」
母は私を優しく抱きしめてくれた。
侍女のチリルとジャスミンの家族も共に国を出る事を決めた。
チリルから私の妹のリーラも小間使いとして同伴させてほしいと言われた。
会った事のない妹だったが別に問題はないと思い承諾した。
あの後、私の婚姻の話を聞いたザカルケは大層立腹していたと聞いた。
ビル様は油断してはいけないと話すと出発を内密に一か月早める事を決めた。
婚儀のドレスはまた出来上がっていない。さすがに簡素なドレスで出国するなど誰も考えないだろう。念には念をいれ、出発前夜、母が城の食事に睡眠薬も入れるよう手配した。
私は夜も明けぬうちに、父、兄達にも別れも告げず出発した。
ノーザンランドに着くまで、終始が身体が震えた。そんな私をビル様がそっと抱きしめてくれた。
ノーザンランドに入り、翌日の夜に我が国は攻められた。恐らく私の輿入れのタイミングを狙っていたのに失敗したから急遽攻めたのだろうとビル様がおっしゃった。
ビル様の機転がなければ、私はあの男の手に落ちていたかもしれない。
しかし、私のせいで我が国は攻められたのだ。
民は大丈夫だろうか……。
母、父、兄、側室や家族はどうなるのだろう…
ビル様はお仕事でお忙しいのに私の様子を見に宿に来てくださる。
元気のない私の様子を見て、優しく私の髪に触れながらおっしゃる。
「君をあの将軍に捧げた所で国は救われないよ。ゾーンがほしいのはリヴァリオン国だからね」
彼は私を慰めるよう情勢を説明してくれた。
わかっている。
しかし、私は国を民を捨てた悪魔のような女なのだ…
神様、私だけ生き延びて申し訳ありません。民の命をどうかお救いください。
私はリヴァリオン国に向かい祈り続けた。
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