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第1章 祖国の滅亡
第5話 王女の輿入れ
しおりを挟むまた、陽も登っていない明け方、祖母に起こされたリーラは栗色の髪のかつらを被り、城の小間使いの服を着るようにいわれる。荷物は金貨の入った袋、平民が着るような服を渡された。リーラは祖父からエステール家の家紋のカフスボタン、祖母からエステール家の家紋の入ったハンカチを貰い受けた。そして母親の形見のペンダントを首につけた。
「足りないものは、帝国で買えばいいわ。侍女の方はチリルさんよ。優しい方だから頼りなさい。北は寒いから着いたら冬装束を買い揃えるのよ。あとお金は無駄遣いしないでね。かつらはノーザンランド側に入るまでは、必ずつけるのよ。
ラリー、いえ、リーラ。あなたは生き残るのよ。これから辛いことがあるかもしれない。私はいつもあなたを見守っています。愛しているわ」
祖母がきつく抱きしめた。少し震え泣くのを耐えているんだろう。
「必ず出世して迎えにいくからね」
「えぇ。待っているわ」
二人はしっかりと抱擁した。
「さぁ、行くぞ」
祖父が声をかけた。
城に向かう途中ロンの家がみえた。リーラは心の中でロン、バイバイと言った。
「ラリー、おまえは賢い子だ。王女の侍女の言う通りに動くんだ。これが北まで行く新しい身分証だ」
身分証にはロン・グリットの名前が書いてあった。驚いて祖父の顔を見ると何も言わずに頷いた。きっとロンの家族達の協力もあったと察したリーラは改めて感謝した。
「向こうに着くまでロンになりきれ」
「わかった」
城門の手前で祖父は「元気で。愛してるよ」ときつく抱きしめる。
「おじい様も身体に気をつけてね。必ず立派な騎士になるから」
そしてリーラを護衛騎士に引渡すと祖父は去って行く。リーラは見えなくなるまでアレクを見続けた。
城門の外には華美でない馬車3台が準備されていた。護衛騎士は僅か10人ほど。あと侍女が4名、小間使いらしき若い子が何人かいた。護衛騎士の人が侍女のチリルの所に案内してくれた。
「……、ロンね。私は王女付きの侍女チリルよ。あなたは一台目の馬車に御者ともう一人の小間使いと乗ってね。王女様が馬車に乗られるまで脇に控えなさい」
「はい、わかりました」
リーラは周りをちらりと見るとはっと気づいて驚く。小間使いと称した身なりの男の子は近所の裕福な家の女の子だった。皆この国から逃げるだろう。
そして、皆頭を下げ、王女が来るのを待つ。
コツ、コツと足音が聞こえる。ピンク色に可愛い花のコサージュが付いた靴が見えた。
"ローズだ……おまえもこの国から逃げだすのか。あちらの皇太子を誑かすなんて上手くやったよな。"
ローズが馬車に乗ると、皆それぞれ馬車に乗った。
「出発ー!」
前後4人づつ。左右に1人づつ、馬車を守るように出発した。
まるで急いで逃げるように。
どうして城内から出発しないのだろうに疑問に思いながら家の方をみると木のそばに人がいる。
アレクとローリーだった。リーラは声をかけたいのをグッと我慢して二人が見えなくなるまで見続けた。知らず、知らず涙が溢れていた。
ー絶対、立派な騎士になるから、迎えに
いくから。
「ほら、使って。ラリーよね?」
隣に座っている小間使いの子がハンカチを貸してくれた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。ベラ…だよね」
「うん…」
リーラはこの国の景色をしっかり目に焼きつけようと山々を見る。太陽が登り始め山を照らしていく。山に目をやると北の山だろうか、一ヶ所やけに輝いている。
なんだ、あれ?
その箇所だけ光りなんだか呼ばれているような気がした。
「なんか北の山、キラキラ光ってキレイだね」
ベラに同意を求めると、
「山??光ってないわよ…湖の方がキレイよ?もう、見れなくなるのかな。」
湖より山が気になった。なんとなく光る場所に行かないと行けないような気がした。
ーいつか、同じ不思議な力を持つ子が
現れたら泉に秘密を隠したと伝えるよ う代々言われている。
祖父が話してくれた内容を思い出す。
泉…
いつか必ず行く。
待ってて…
なぜかあの場所に泉があるような気がした。
「もうすぐトンネルよ。私、トンネル初めてよ。なんだか暗いわ。手を繋いでいい?」
「うん、僕も怖いから手を繋いで欲しい」
彼女の手は、温かく別れの悲しみを少し癒してくれた。
馬車は、新しく出来たトンネルへの入り口へと進む。トンネルには、警備の騎士が両サイドに立っていた。
さようなら、リヴァリオン国…
夏の終わりにリーラは母国を去った。
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