上 下
7 / 240
第1章 祖国の滅亡

第5話 王女の輿入れ

しおりを挟む

 また、陽も登っていない明け方、祖母に起こされたリーラは栗色の髪のかつらを被り、城の小間使いの服を着るようにいわれる。荷物は金貨の入った袋、平民が着るような服を渡された。リーラは祖父からエステール家の家紋のカフスボタン、祖母からエステール家の家紋の入ったハンカチを貰い受けた。そして母親の形見のペンダントを首につけた。

「足りないものは、帝国で買えばいいわ。侍女の方はチリルさんよ。優しい方だから頼りなさい。北は寒いから着いたら冬装束を買い揃えるのよ。あとお金は無駄遣いしないでね。かつらはノーザンランド側に入るまでは、必ずつけるのよ。
 、いえ、リーラ。あなたは生き残るのよ。これから辛いことがあるかもしれない。私はいつもあなたを見守っています。愛しているわ」
祖母がきつく抱きしめた。少し震え泣くのを耐えているんだろう。

「必ず出世して迎えにいくからね」
「えぇ。待っているわ」
二人はしっかりと抱擁した。

「さぁ、行くぞ」
祖父が声をかけた。

城に向かう途中ロンの家がみえた。リーラは心の中でロン、バイバイと言った。

、おまえは賢い子だ。王女の侍女の言う通りに動くんだ。これが北まで行く新しい身分証だ」

身分証にはロン・グリットの名前が書いてあった。驚いて祖父の顔を見ると何も言わずに頷いた。きっとロンの家族達の協力もあったと察したリーラは改めて感謝した。

「向こうに着くまでロンになりきれ」
「わかった」


城門の手前で祖父は「元気で。愛してるよ」ときつく抱きしめる。

「おじい様も身体に気をつけてね。必ず立派な騎士になるから」
そしてリーラを護衛騎士に引渡すと祖父は去って行く。リーラは見えなくなるまでアレクを見続けた。
 
 城門の外には華美でない馬車3台が準備されていた。護衛騎士は僅か10人ほど。あと侍女が4名、小間使いらしき若い子が何人かいた。護衛騎士の人が侍女のチリルの所に案内してくれた。

「……、ロンね。私は王女付きの侍女チリルよ。あなたは一台目の馬車に御者ともう一人の小間使いと乗ってね。王女様が馬車に乗られるまで脇に控えなさい」

「はい、わかりました」

リーラは周りをちらりと見るとはっと気づいて驚く。小間使いと称した身なりの男の子は近所の裕福な家の女の子だった。皆この国から逃げるだろう。
 そして、皆頭を下げ、王女が来るのを待つ。

 コツ、コツと足音が聞こえる。ピンク色に可愛い花のコサージュが付いた靴が見えた。
 
"ローズだ……おまえもこの国から逃げだすのか。あちらの皇太子を誑かすなんて上手くやったよな。"

ローズが馬車に乗ると、皆それぞれ馬車に乗った。

「出発ー!」
前後4人づつ。左右に1人づつ、馬車を守るように出発した。
まるで急いで逃げるように。 

どうして城内から出発しないのだろうに疑問に思いながら家の方をみると木のそばに人がいる。
アレクとローリーだった。リーラは声をかけたいのをグッと我慢して二人が見えなくなるまで見続けた。知らず、知らず涙が溢れていた。
 

ー絶対、立派な騎士になるから、迎えに
 いくから。



「ほら、使って。よね?」
隣に座っている小間使いの子がハンカチを貸してくれた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。ベラ…だよね」
「うん…」
 リーラはこの国の景色をしっかり目に焼きつけようと山々を見る。太陽が登り始め山を照らしていく。山に目をやると北の山だろうか、一ヶ所やけに輝いている。

なんだ、あれ?
その箇所だけ光りなんだか呼ばれているような気がした。

「なんか北の山、キラキラ光ってキレイだね」
ベラに同意を求めると、
「山??光ってないわよ…湖の方がキレイよ?もう、見れなくなるのかな。」
湖より山が気になった。なんとなく光る場所に行かないと行けないような気がした。

ーいつか、同じ不思議な力を持つ子が
 現れたら泉に秘密を隠したと伝えるよ う代々言われている。

祖父が話してくれた内容を思い出す。
泉…
いつか必ず行く。
待ってて…
なぜかあの場所に泉があるような気がした。

「もうすぐトンネルよ。私、トンネル初めてよ。なんだか暗いわ。手を繋いでいい?」
「うん、僕も怖いから手を繋いで欲しい」
彼女の手は、温かく別れの悲しみを少し癒してくれた。
馬車は、新しく出来たトンネルへの入り口へと進む。トンネルには、警備の騎士が両サイドに立っていた。 

さようなら、リヴァリオン国…
夏の終わりにリーラは母国を去った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...