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第三章

第三話 二組目のお客はん

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「ピィーラ、ピィーラ、ピィーラピラ~」

沙都と行った祇園祭で聴いた祇園囃子の音が耳から離れない。

祇園囃子は厄病となる悪霊を音に酔わせて退散させるのだ。悪霊だけではない、音を聞いた災いを呼び起こすこともあるかもしれない。

空がピカッりと光り稲妻が見えた。

ゴロゴロゴロゴロ

空から雷の音が響き始めた。
朝から晴れていた空は夕方には雷雲を連れてポツリ、ポツリと雨を降らせ始めた。

ピカッ

ゴロ、ゴロゴロ


 紅太郎は黄色の幼児用ジャンプ傘のボタンをポチッと押し、傘を開けた。そして、東山の方角を睨みつけた。

——俺だけじゃなくて他の妖怪も……

  目覚めたか…


◇◇◇


突然雨が降り出すと同時に、ひと組の家族が慌てて宿へ入ってきた。

「す、すみません、予約していた、高梨です」

「おいでやす、お待ち致しておりました、夕立に間に合って良かったですねぇ」

「いや、間一髪でした」

 沙都は真っ白なタオルを家族、一人、一人へと手渡す。この家族は今夜から3泊する夫婦と小学生のお子様を二人連れの高梨様一家だ。

 傘を預かると、入口に並ぶ紅色の下駄箱に靴を納めてもらうよう案内する。ずっしりと重たい宿泊客の荷物を預かると真新しい畳が引かれている廊下から広間へと案内する。

「高梨様、こちらがフロントの窓口、そして、朝食をご用意させていただく広間でございます」

「女将さん、夕食はついていないんですよね」
ぽっちゃりした妻の高梨百合がハキハキとした喋り方で確認のために沙都に尋ねる。

「はい、奥様。我が宿では朝食のみのご提供でございます、稲荷周辺にも和を中心としたお食事処や、さらに西へ行きますと大学周辺にもあります」

「お勧めはありますか?」
小太りで気さくな笑顔の夫である高梨大介が尋ねた。

「雨が止みましたら観光にいかはりますか?」

「はい、雨が止んだら八坂神社にこうと思ってます」

「でしたから、四条界隈がよろしいかと、お子様がいらっしゃるようなのでご希望などありますか?」

と尋ねると子供達は元気よく、
「ハンバーグがいい!」
と答えた。

「せっかくの京都なのにハンバーグ~」
子供達の父親は食べたいものがあったのか残念そうに嘆いている。

「もし、良かったら京都の老舗の洋食屋さんがございますので、ご案内致しますよ、値段もお手頃なんですぅ、デザートのケーキの種類も豊富でプリンが有名でお勧めです。

「ケーキ!いいですね!」
値段のことを聞いた高梨百合は嬉しそうににこりと笑う。

「なんと、パン、ライスも食べ放題なんですよ」

「行くわ!女将さん、場所教えてほしいわ」

「もちろんです、さぁ、お部屋に案内致します。その前に、広間横に男女別の浴場がございます。高梨様のお部屋は2階となります、階段にお気をつけて…」

「畳のいい匂いだ~外観が古かったから心配したんですよー」
と高梨大介があはははと笑うと妻の百合が「パパ、失礼よ」と注意を促す。

みたい綺麗ですね、この宿に決め良かったです」

新築という一言に沙都はドキリとする。

「この宿、リフォーム仕立て綺麗なんです!結構古い建物やったけどしっかり改装しましてねぇ、あははは……」


「僕たち達ラッキーだ!」
「わーい!!」
子供達も大変喜んでいるようだ。

 そうですね、苦笑いをする沙都。
 この宿をここまで新しく変化させたのは紅太郎なのだ。祖母から受け取った一尾の妖力を復活させた紅太郎は一気に妖力を上げ、楽々、宿の改造まで成し上げたのだ。おかげで改装費0円なのだ……
イメージを持たす為にとある高級旅館に泊まりに、同じように変化させたのだ。

 高梨一家を部屋に案内すると、子供達は部屋に入るなり襖を開き窓を開けると電車が走っていく姿が見える。

「電車だーっ!!」

「あれは京阪電車の特急よ、二階建ての特急、カッコいいやろ?」

「カッコいいー」
窓から見える電車の姿に二人の男の子達は釘付けだ。

「では、何がご用意ございましたら、そちらの電話でお伝えくださいませ」

「ありがとうございます」

では、失礼しますと声を掛けるのと同時に下から大きな声で「ただいまー」と声がする。

「あら、子供さん?」

「あ、あー…が帰って来たようです、では、失礼致します」
と礼をすると沙都はそそくさと部屋から退出した。



***

♡沙都が紹介した四条の洋食店♡

1 京都をはじめ関西圏にチェーン店をもつ⚪︎洋亭。四条なら高島屋の7階あります。ご飯、パンが食べ放題!3時から5時の間はドリンクが付き、お得やからいつも行列が…
2 サラダの店サン⚪︎⚪︎洋食系なら並んで食べる価値あり!もちろん並びます。

↑京都来たなら行ってみて!!
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