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第一章

第13話 ふくの後悔

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 ご満悦の表情でコンちゃんを撫でる祖母は「食事はまだやな」と高級料亭丸の井に食事を運ぶようにいつの間にか連絡をしていた。

「稲荷様の為に稲荷寿司はたくさん頼んどきましたからね~」
と祖母はコンちゃんににっこりと笑う。

「稲荷寿司より肉が良かった、オレ」

「コンちゃん、お年寄りは肉あんまり食べへんから合わせてあげて」
とコンちゃんを宥めると私は食事が来る前に人間の姿になる様に催促する。 


ポンと変化し、可愛い男の子になると扉がノックされ老人ホームのスタッフが飲み物を運んできた。

「天野様、お飲み物で御座います」
とスタッフが私達に飲み物を置いてくれた。スタッフが退出するのを確認すると祖母が口を開く。

「で、沙都、なんか用があったんやろ?」

運ばれてきたお茶を啜りながら祖母が尋ねた。

「実は建物の資金はあるんやけど、内装とか良い物に手を掛けたいからお金を貸してほしいねん」

「………そうか…」

じっと黙りながら考え込む姿を見るとお金にシビアな祖母から資金を得ることは難しいと悟る。

「やっぱり…駄目か…」

「違うんや、あんたには色々苦労かけたしな、私もいつ死ぬかわからん。あんたにもお金を残してるんや」

「うそ??」

「ほんまや。でもな、そのお金はもしもの時に残しといたらええから、私が持っている金を使ったらいいわ、支払いはうちに全部まわしよし」

「ありがとう、おばあちゃん」

「それぐらいさせてもらわな、あんたには申し訳ないことしたからな…」
と祖母は薄っすらと瞳を潤ませ、昔を思い出している様だった。

 

◇◇


 娘の夫の浮気が発覚し、義息はその女と蒸発したそうだ。生活が厳しくなり京子は孫の沙都を連れ、私に助けを求める為に会いに来た。孫との再会に有頂天になっていた私は娘に言わなくても良い一言を言ってしまう。


「それみたことか、だから、あたしは言ったんや、あの男はあかんって!」

「そんなん、言わんでもいいやろ!もうええわ、ほんま腹立つわ!!」

 私の余計な一言は癖のようなもので日頃から荒ぶれた口調から私と京子は、度々、言い争ってしまう。京子も黙ってはいられない性格ゆえ、結婚する時も激しく反対した為に駈け落ち同然となりしっかり祝ってやれなかったのだ。
 娘がせっかく助けを求めに来たのにも関わらず、再び口喧嘩となり、京子は私の前から飛び出して行ったのだ。

「また、余計なこと言ってしまった」

後悔もあり、何度か娘に支援の連絡をするが娘は私に似て大変頑固な性格で、私からの支援は一切断り、山科にある洋菓子工場で働き、孫の沙都を育てたのだ。

 謝りたい、孫にも会いたい気持ちもあり、次女の麗子に仲直りの仲介に入ってもらったのだが、京子は頑なに断ったのだ。
 しばらくして無理がたたり、京子の病で倒れ、余命僅かと発覚する。時既に遅く、治療という治療を受けれず、あっという間に京子はこの世を去ってしまったのだ。私と京子の再会は悲しくもあの子の葬式だったのだ。

「京子ーッ、京子ーッ、ワタシより先に逝くなんて……ほんま、悪かった、京子ーッ!!」


 私は号泣し、京子が眠る棺桶にしがみつき必死に謝っていたのだ。娘を失った悲しみから気力を失った私は老いが進む。会社を動かすのは無理だと判断した私はすべて麗子に託すと早々に引退を決め、最期の住処を老人ホーム決めたのだ。
 

◇◇◇
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