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第一章

第3話 伏見の不動産

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冷たい風が吹き荒れる中、少しでも寒さを和らげるためにマフラーを首に巻き、伏見桃山へ向かう。賑やかなお店が連なるアーケードを歩きながら友人が営む不動産会社に入る。

「こんにちは」

「いらっしゃませ、いやぁ!元気やった?沙都!」

「元気…かなぁ…」

 この明るい美女は井ノ上佳子、高校からの友人だ。大学卒業後、地元の伏見にある不動産会社に勤めていたが、会社の若社長に見染められ、玉の輿結婚をしたのだ。小さい会社だよと本人は言うが会社の規模はともかく、旦那さんもカッコよく未来の社長夫人になれるのだ、私は立派な玉の輿婚だと感じている。


「もしかして結婚決まって、新居探すために来てくれたん?」

佳子は私を事務所にある特別室に案内すると、すこし、ふっくらとしたお腹をさすりなが暖かい煎茶とお菓子を出してくれた。妊娠5ヶ月の安定期に入り母親の表情になった友人を見るとなんだか嬉しくなる。

しかし、友人は私の複雑な表情を決して見逃さない。
「どうしたん?あんた、そろそろゴールインとか言ってたやん?!なんかあった??」

「あ、うん……実は振られた」

「ウソ!!」
佳子は驚きのあまり手で口を塞いだ。

「マジ、あのクソ男…浮気してて、
浮気相手との間に子供作ったらしい……」

絶句の表情を滲ませながら佳子が
「えーーッ!!許せんわ、あの男!!」

「やろ、ほんま、それ」

二人で同時で溜息を吐く。

「もしかして心機一転するために引っ越し??」

「まぁね、京風情が漂う中古の家ない?」

「中古ね…間取りの希望は?」

「出来れば、中古の小さな宿が売り出されてるとかない??」

「宿??」

「ほらっ、最近民泊とか簡単にできるみたいやし、私、仕事辞めて、宿でも営もうかなぁ~とか考えてるねん!」

「あんた…天下の公務員様やのに、安定職捨てて、宿やるなんて…はっきり言うけどあほやで」

「いや、いや、いや、教師の大変さ、わからんやろ??まじで大変やねんから、子供の世話からその親の対応まで、ほんまにくそやで?!うっ…失言、失言!」

「あんた、お金はあるん?中古と言えども、そこそこお金いるで、まさか、お金持ちのおばあちゃんに出してもらうん?まぁ、それなら出してもらえるか…」

「おばあちゃんには…援助はしてもらうかもしれないけど、私が出すつもりやねん。まずはいい物件ないか見せて」

「あ………うーーん、わかったわ」

渋い表情をした佳子は物件を探すために事務所へと戻って行く。


 年末ジャンボが当選した私はそのお金を資金にして宿屋を開業しようと思いついたのだ。
 私と哲也が付き合っていたのは職場でも知られており、三角関係の末、捨てられたと噂になるのが目に見える。私はそれほどメンタルも強くないし、周りの目を耐えるなんて真っ平ごめんだ。仕事を辞めて、これからの人生は宿を営みながらのんびりと過ごしたいと考えていたのだ。





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