私を雇って下さい!ー逃亡王女の就職放浪記ー

京極冨蘭

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第8話 恋は突然に ーアルバート目線ー

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 私の名はアルバート・ラッセルブルク。この国の皇太子であり、次期王位継承者だ。日々自分の業務で手がいっぱいなのだが、最近見つけた息抜きの為に執務室を抜けた出し、本来は私の仕事ではない書類を待って財務室へ向かう。
 息抜きである財務室にいる彼女に会うことが最近の私の楽しみだ。
 
 財務室へ入ると官司達がまた来たのかと言う目で私を見てくる。失礼な奴等だ。

「アルバート殿下。
 ジュリー嬢は今、休憩中でいらっしゃいません。」
 官司の1人が話しかけてきた。
 ケーブル侯爵も奥の部屋から出てきた。
 ケーブル侯爵までもまた小言を言うつもりだな。

「アルバート殿下、またいらっしゃたんですか?
 よく官司の振りをして来れますね。
 いつか、我が娘にばれますよ。
 騙していると分かって嫌われても知りませんからね。さっさと素性を話をして下さい。私達も騙しているようでつらいのです。」
と侯爵が話すと官司達は一斉にうなずいた。

「わかった。彼女は?」
侯爵は窓の外を指指すと、
「ジュリーは木陰で本を読みながら遅い昼食を取っています。」
と教えてくれた。
 外を見ると木陰に座っている人影が見える。

「この後、彼女を街に連れ出したいがいいだろうか?」
侯爵は一瞬驚いた表情をしたが承諾してくれた。

 木陰に行くと彼女はすやすやと眠っていた。こんな場所で寝て無防備な姿を見せつけたら危ないじゃないかと苛立ちを覚える。
 
 彼女の肩を揺らし、
「ジュリー嬢、こんな所で寝たら風邪を引くよ。」

「うん、えっ?寝てた?
起こして頂きありがとうございます。
 あなたは…宰相室のアルさんでしたっけ。」

「名前覚えてくれたんだな。」

「そりゃ、覚えますよ。あなたと宰相室のアシュレイ様が毎日頻繁に来るですから。」

「アシュレイもくるのか?」

「この前のお詫びにお菓子を持って来てくださったり、書類についての質疑応答をしたりでしょうかね。」

アシュレイ…
まさかおまえもかと焦りを覚える。

気持ちを切り替え彼女を誘う。
「今から街に行って息抜きに行かないか?
侯爵の許可を取っている。」
彼女が財務室の方を見ると侯爵が手を振っているのが見えた。
ケーブル、役に立つじゃないかと心の中で笑う。

「街ですか…。
 実はまだ街に行ってなくて案内してもらえますか?
 文具店に行きたいなぁと思っていたのです。」
恥ずかしそうにもじもじと話す彼女が愛らしく見える。

間違いない。
私は彼女に惹かれている。

 仕事で見せる厳しい表情の彼女も素敵だが、初めて見る街の様子に興奮気味な彼女も可愛らしい。
 私はかなり末期症状かもしれないな…
 アシュレイに先を越されては行けないな。

 文具店に案内すると店員から万年筆の場所を聞き探し出す。

「どれにしようかなぁ。」

「誰かに送るのか?」
少し心配になり聞いてみる。

「いえ、支給されている万年筆でいいんですが、お気に入りの万年筆があれば仕事が頑張れるじゃないですか。」 

「確かに使いやすい物なら仕事ははかどるな。」

「でしょう。」
とくす、くすと笑う彼女。

 やはり、仕事の顔よりリラックスをしている笑った顔がかわいい。
ジュリー嬢は気に入った物を見つけた。

「これをください。」

「店主よ、金は私が払う。」

「いや、悪いですよ。」

「気にするな。忙しい君を街に誘ったんだお礼として受け取ってくれ。」

「ありがとうございます。」
ジュリー嬢は嬉しいそうに微笑んでくれた。

 その後、街並みを案内してジュリー嬢を人気のカフェに案内する。

「うわぁ、カフェに行きたかったんです。」

「好きな物を頼んでくれ。」

「では、お言葉に甘えてまして、ケーキ3つは食べれるわね…」
とぶつぶつ1人で話しながら、ケーキを3個を頼み、ペロリと平らげた。

「アル様、この店のケーキ美味しいですね!また、個室に案内して頂けるとはアル様は貴族の方でしょうか?」

「貴族…そういうものかな…。」

「私、ミッテン領で執事見習いをしていたんですがその時に泊まられた方ですよね。」

「そうだ。覚えてくれたのか?」

「もちろんですよ!
 アル様はなかなかの男前ですからね…
 あっ、失礼しました。
 綺麗な顔立ちの貴族様でいらっしゃると思っていましまからね。」

男前か…脈はあるか。 

「ジュリー嬢にそう言ってもらえると嬉しいよ。」

 甘い物が好きらしく、どのケーキが美味しいなど熱く語ってくれる彼女を見ているだけで幸せに気分になる。
 他国には皿が3段になってケーキやオードブルが乗っているものがあるらしく博識家の彼女の話を聞くのは面白い。 

 仕事の話をするとあの付箋を考案したのも彼女だった。
なかなか感性の鋭い賢い娘だと思った。

欲しい。
私を側で支える我が妻には彼女がいい。
じっと彼女を見つける。
「なんだか背筋が寒いわ。春先だから寒いんでしょうかね。」
とふふふと笑った。

「ジュリー嬢はケーブル侯爵の娘なのだから結婚相手は考えているのか?」

「結婚?
 あぁ~。」

「まさか、アシュレイが求婚して来たのか?」 

「アシュレイ様?
 ない、ない、ないですよ。
 それにあの方、頭硬いでしょう。
 ここだけの話、一緒にいたら息が詰まりますわ。
 結婚は…。
 一応ケーブル侯爵の養女になりましたからいつかとは思っていますが、結婚するなら安定職業の官司の方かお強い騎士もいいですわ。あと、優しくて思いやりがあって女癖が悪くない方なら誰でもいいですわね!」

「全て私に当てはまってるじゃないか。」
「……。どこが??」

「職業的に安定してるだろう、仕事内容は官司のようなものだし、あと毎日鍛えているから騎士にも負けない。
 優しくて思いやりがあると思うし、女癖は悪くないと断言できる!」

「そうなのですか…
 アル様は、女性の扱いがお上手だから婚約者の方がいらっしゃるか、もしかして結婚されているかと思いましたわ。」

「………。
 していないが…。」 

「失礼致しました。
 お話上手なのできっとモテるだろうと思いまして。」
ふふと笑う彼女に真面目な顔で話す。

「貴女の気を引こうと必死なのだ。
 私を結婚相手に考えてくれないだろうか…」

「えっ?!結婚??
 うーん、私はまだ仕事を始めたばかりで結婚は考えてないんです。
 あと養父と養母にも相談しないといけませんから…」

「意中の人はいない?」 

「いないですけど…
 あなたを選ぶとは限りませんよ。」

「あぁ、わかってる。
 頑張って振り向いてもらえるようにアプローチするよ。」
とウインクすると彼女は顔を赤くして照れを隠すように紅茶の入ったカップをゴクリと飲んだ。

 私は時間があれば彼女の元へ向かい昼や休憩を共にしてアプローチを続けた。
 私のあからさまなアプローチは父や母の耳にも届く。
 そして、父や母にも結婚したい相手がいると伝えた。母は身分の低い貴族の出であるから周りにも強いて身分についてあまりうるさい言われなかった。
 
 妃に考えているからと周りに知られたら彼女に危険が及ぶかもしれないと彼女には内密で護衛と影も付ける。

 彼女に逃げられないようにと外堀を埋めて行かなくてはと思案していると執務室に弟がやって来た。
 昔から問題を起こす頼りない弟だか学校に入ってから少しずつまともになってきていると安心していたが、また、何か問題起こすのでないかと警戒する。

「また、何か問題を起こしたのか…」  

「兄上…違いますよ。実は…」

弟から衝撃的な事実を聞かされた私は
大きな決断を迫られるのだ。
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