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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百六十七話 越えし英雄の円舞曲、前半戦

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 アクソニス。長い紅色の髪を持ち精巧な装飾が施された仮面を身に着けていた。それを外すと額から涙が零れ落ちていく。
 感じ取れる魂の叫びは恋慕、復讐、情熱……破壊。
 こいつに俺が負ければ、四肢はバラバラに引き裂かれ、魂だけを抜き取って都合の良い器にでも入れられるだろうな。

「そうだ……カイオスに戻す方法を探せばいい。ルイン。あなたの能力は余計です。それを取り除いてカイオスと一つになり……ギルティと共に地上の生物を一掃する。そうすれば元のゲンドールに戻せる。私には現在、過去、未来の行く末が見える。ああ、これぞまさしく私の求める未来の行く末」
「それはよかったな。封剣、剣戒。決着をつけよう、常闇のカイナ、あまねく広がる憎悪のアクソニスよ! 流星……はっ!」

 俺はすかさずティソーナとコラーダを出し、アクソニスの首を討ち取った。
 空にやつの首が舞うが、手ごたえが皆無だ。
 討ち取られた顔からは不気味な笑みがこぼれ落ちる。

「カルンウェナン……カウントレスハートレス」

 続けざまに本体へ向けて、ライデンから受け継いだ短剣の奥義、カウントレスハートレスを発動。
 無数に増加した短剣が、アクソニス本体へと突き刺さり続ける。
 しかしこちらも効果があるように見て取れない。

「その動き。その技。持つべき神話級。どれ一つでさえ勇者、あるいは魔王と言えるに相応しい力。ですがあなたにはどれも該当しない。絶対神の寵愛を受けた犬という表現が一番お似合いです。絶対神からカイオスを取り戻せばいいだけのこと。さぁ、戦いを始めますよ」
「こっちは最初から始めてる。お前の本体は……その装飾だろう!」

 カルンウェナンの攻撃を、アクソニスが身に着けていた仮面や装飾類に集中させる。
 甲高い金属音が鳴り響くが、全て打ち払われている。
 傷一つついていない。
 本体は既に串刺しにされていたが、それらが液体の塊となって再び装飾類と一体化し、元の姿へと戻る。

「どうでしょうね。あなたが喜ぶ回答を、私がするとでも思っているのですか? このアクソニスが勝利するといえばする。それが私の力。空間支配域を押し広げてあげましょう」

 アクソニスが指を鳴らすと、俺と奴のいる空間が広い球状に包まれた。
 ……かえって都合がいいな。
 
「この中で死んでも魂はその場にとどまります。ふふふふ……さぁカイオスの魂を。先兵ギルティと共に世界を駆逐するのです」
「一つだけ聞かせてくれ。ベルウッド……という者を知らないか」
「誰ですか? 私を惑わして攻撃するつもりなら……」
「いや、何でもないんだ。ラモト、ギルソード」

 ティソーナ、コラーダにラモトの青白い文字を流していく。
 二振りの青白く燃える文字を持つ剣を身構えて、アクソニスの攻撃に備えた。
 薄気味悪く微笑むアクソニスは、左手を上方に挙げて、何かの印を結んでいるようだ。

「魂を吸い取る紫電級アーティファクトが効果を成さないのは少々想定外でした。ですから……私もこの力を使いましょうか。海獣神コインヘン、クリード招来。我が前に出でよ、乱棘オドロ に舞う神槍ゲイ・ボルグ。英知にして栄地。全てを貫き舞い戻るは円舞曲の調べ、ああ、其何に屈する仇敵の名はルイン。仇敵を打ち滅ぼすため我に従え。四宝、グングニル」

 アクソニスは二体の化け物、そして二振りの見事な槍を呼び出した。
 片方は宙に浮かびこちらを見定めるような槍、ゲイボルグ。そしてもう一つ……こちらは紫電級アーティファクトと思われる、グングニルか。
 発動条件に俺の名前が入っていたところをみると、あちらが厄介だな。

「それがお前の切り札か」
「切り札とは追い込まれてから見せるもの。これだけでも十分だと思ったのですが、その余裕顔はカイオスを思い出します。今すぐ止めなさい」
「生まれつきの顔だ。勘弁してもらえないかな」
「くっ……カイオスと同じ台詞を! お前がカイオスで無ければ、とうの昔に全てが片付いていたものを!」

 アクソニスの怒りと共に放り投げたグングニルを避けたはず……だったが、そのグングニルは俺の肩を貫いていた。
 肩に痛みが走りながらも、さらに追撃に来るゲイボルグの攻撃を回避すべく、上空に爆発する光の輪を飛ばした。
 ゲイボルグからは無数の棘が上空より降り注ぐ。槍の攻撃とはとても思えないような技だ。

「……いい槍だな」
「いい槍? 肩を貫かれてそれだけですか」
「まぁ……問題はない」

 貫かれた部分が引き抜かれると、槍はアクソニスの手のうちに戻っている。
 その先端の血を舐めて冷笑するアクソニス。
 ……俺の血は大人気だな。
 突き刺された肩の傷は、問題なくもうふさがっている。

「その治癒能力……いいでしょう。引きずり出せ、コインヘン、クリード」
「ブオーーーーーーーーー!」
「グルァーーーーーーーー!」

 コインヘンとクリード。こいつらはどちらも頭に物干しざおのような長い角が生えた巨大生物だ。
 その角部分はゲイボルグと紫色の光で繋がっている。
 どちらも牙をむき出しにして俺へと迫るが、今の俺をとらえることなど神獣でも不可能だ。
 だが……あえて乗ってやろう。
 両者に俺の両手を食わせてやった。

「無様……いえ、実に様になっていますよ。その二頭はゲイボルグの力であり、糧であり、主でもある。どうせ治癒できるからわざと食らい、こちらの様子をうかがったのでしょうが……」

 さらに追い打ちでアクソニスがグングニルで俺の心臓部分を貫く。
 突き刺したグングニルの槍に乗ったアクソニスは、俺を冷徹な目で見据えて高らかに笑い始めた。

「ふふふふ、このアクソニスが必ず勝つのです。さぁ、いい声を上げて下さいね」
「黒星の鎌」

 俺の上部より分厚い黒星の鎌がアクソニスへと降り注ぐ。
 それを手づかみすると、放たれた場所へと打ち返すアクソニス。
 その表情は少しいらついたものへと変化した。

「姑息な手段ですね。レピュトの手甲ですか」
「なんだ。黒星を受けるのは嫌なのか?」
「両腕がふさがった状況で、よくもまぁそんな余裕顔を……」

 そういいかけたところで、俺の両腕に食らいついていたコインヘンとクリードがどさりと倒れた。
 悪いが眠ってもらった。タナトスの弟、ヒュプノス……ヒューメリーの強い催眠効果だ。
 慌てて槍から飛び降り、距離を取るアクソニス。
 その手元には俺を貫いて引き抜かなかった槍がなぜかある。

「なぜ、なんなのですか。あなたはなぜ、私の思い通りにならない」
「その槍、いいな。勝手に戻るのは便利だ。開城の仕組みに使えるか……?」

 ゆっくりとアクソニスの方へ近づこうとすると、やつは後ずさりしている。
 ゲイボルグはすでに消失している。コインヘンとクリードが持ち主ってわけか。
 あれも便利なアーティファクトだな。

「さぁ。他のアーティファクトを見せてくれよ。お前はまるで神話級アーティファクトを使いこなせていないな。それとも、もう無いのか?」
「ふざけるな! このアクソニスが勝つと言ったら勝つのです! まだ戦いは始まったばかり。いいでしょう。覚悟なさい!」
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