上 下
1,077 / 1,085
第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百六十五話 志の果てに願いしは、力の誇示か尊厳か

しおりを挟む
 魂の反応というのは今まで所持していたターゲットの能力とはまるで異なる。
 いや、魂だけではない。四名の管理者より受け継いだ能力はいずれも形容しがたい力。
 
「そこ、か……」

 血の跡が点々と残る場所がある。その色は、鮮やかな紅色だ……。
 大きな湖前まで続くその近くには、息絶えた巨大な鳥と……黒づくめの鎧を身にまとう、初老の男がいた。
 こいつは……ベルドの父親? いや、違う。
 初めて会ったときのライデンそのものの姿だ。

「まだ、話くらいは少し出来るか」
「ぐほっ、げほっ……ああ。もう、長くはない、か」
「なぜシーザー師匠やハーヴァルさんたちを裏切ったんだ。バルドスをなぜ殺した」
「力が……欲しかった。ルイン。お前の、ような……力が」

 うつ伏せで這いずるように倒れるライデンを、仰向けにして両手を組ませてやった。
 かすかに目は見えているようだが、もう……死の寸前だ。

「俺の顔を見ろ……こんな顔をしなければならない。そんな力があんたは欲しいっていうのか」
「……なぜ、お前は、そんな顔をする。力が、手に入ったのだろう。うっ! ごほっ……」
「お前にも分かるはずだ。大切なものを失うと、生物は悲しむ。お前は……シラを追っていたんじゃないのか。こちらは分からないが、お前にも……娘がいたことを知って、探していた、とか」
「ぐっ……ごほっ……私に、子など……」
「ああ、それはいいんだ。あんたは一体何がしたかったんだ? 力をもとめたその先に何かしたいことがあったんだろう? アルカイオス幻魔、ヴェライよ」
「……! ……やはり、気付く者がいた、か。私は、復讐を、したかったわけでは、ない。優れた力を、負けたわけでは、ないことを……証明、した、かった。お前も……そう、だろう。ルイ、ン」
「俺は、お前の娘を何より幸せにしたい。世界で一番幸せにしてやりたい。それが叶えばもう、俺自身すら必要とはしない。シラはきっと、メルザを殺そうとするだろう。シラは、壊れてしまった」
「娘、メル、ザ? ……たの、みがある。カルンウェナンを。それと……げほっ……げほっ!」
「それ以上しゃべるな」

 そう告げたが、震える血まみれの手で俺に手をかざすライデン。
 すると、極めて小さな短剣が俺の前へと降りて来た。

「ベル、ウッド……という、男が、裏切った。あれ、も転生者、だ。私はやつを利用し……利用、され、た」
 
 ベルウッド? そいつはライデンの部下だった男か? 

「やつは……うっ! ……やつは、私のもつエクスカリバーを……おかしく、させ、契約破棄を無理やり……させ、た。その、エクスカリバーを、持ち……げほっ……あれが、あれば。死ぬ、ことは、ない」
「お前の切り札か」
「そう、だ。ただ、でさえ最強の、神話級と言われ……アトアクルーク、湖の魔女に力を……あ」
「もういいしゃべるな。俺がなんとか、なんとかするから。だからお前は……もう、休んでくれ。メルザにはお前のこと、伝えられない。お前のことは俺の心の中で弔うから。だから……もう、休んでいい。お前は悪いことをした。だが、生命は死のその瞬間には安らいでもいいんだ。ベルドの父のこと。イーファのこと。それは死後お前が償っていけばいい……安らかに、眠れ。メルザの父、ヴェライ。いや、ライデン・ガーランドよ……」

 ライデンは息を引き取った。
 その顔は少し安心したような表情を浮かべていた。
 俺は直ぐ近くを掘ると、こいつが望んでいるかは分からないが、この湖近くに黒い鳥と一緒に埋めてやった。
 
 ――アトアクルーク。俺はついにこの地へと来た。
 自分の故郷がどのあたりなのかは分からない。
 ベオルブイーターの影響を受けない地点もあったのだろうか。
 地底の中央にあるその湖は、澄んでいてとても綺麗だ。
 そして、怖いほど静寂に包まれている。
 封印内を確かめてみるが、俺の封印者は誰一人として目覚めてはいない。
 先生は……命はとりとめてくれたと信じている。
 現在感じられる魂の反応は多くはない。
 湖に浮かぶ神殿内までは分からないか。
 湖以外にもいくつか調べる予定だった場所がある。
 先導させようとしていた部隊もいた。
 だが、状況を考えるに……部隊を統率して避難させた優秀な仲間の顔が目に浮かぶ。
 俺はゆっくりとアトアクルークの湖に向けて歩み始めた。
 この湖を、少し潜ってみたくなった。 
 ……もうどれほど前だったか。本当に不思議だった。
 メルザに引っ張られて水の中に飛び込んで。
 そこから出たら見たこともないような場所に。
 それだけじゃない。
 目に映るものすべてが、俺にとっては輝かしいものだった。
 弱視から全盲に生まれ変わり、生まれ変わった世界で何も見ることができない自分。
 望みをか叶え、面白いものが詰まった宝箱。
 その宝箱で風呂に入ったり。パモという不思議な生物に出会ったり。
 三つの夜に分かれる不思議な町があり……俺はそこで弱いことを痛感した。
 海を渡る冒険ではスケルトンに襲われた。そこでシュウと出会った。
 大会ではファナが襲撃される事件もあった。ベルドはとても強かった。
 そして俺は……地底に連れていかれた。
 リルの足取りはまだつかめていないが、今の俺なら……きっと容易いことだろう。
 地上と地底。絶対神とアルカイオス幻魔。
 俺たちと、常闇のカイナ。
 ここで……終止符をつける。
 
「すべては我が主、メルザのために」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...