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第三章 ベオルブイーターを倒せ!
第九百六十四話 管理者を統べし者
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俺の状態を戻していく途中で、アルカーンが現れた。
少しやつれた顔をしているのはいつも通りだが、機嫌が悪そうに見えた。
「なるべくならタルタロスとは会いたくなかったのだが」
「まぁまぁ。仕方ないでしょ。彼女なんてもっと可哀そうだよ。わけが分からないままここにいるんだから」
「そう。不明。何もかも」
「管理者にしては時が若すぎる。スキアラもそれどころではなかったのだろう?」
集まった四名はいずれもが絶対神より創造された管理者たちだ。
イネービュが創造せし時の管理者、アルカーン……いや、正式な名はカイロス。
スキアラが創造せし闇の管理者、ブレアリア・ディーン。
ウナスァーが創造せし死の管理者、タナトス。
ネウスーフォが創造せし魂の管理者、タルタロス。
いずれも神と異なる特別な存在であり、特異的能力を保有する。
そして彼らが一堂に会したことがあるかどうかも不明だ。
なぜ集まったのか。それは……「どう? 癒。そろそろ近づいても平気?」
「いかがでございましょうか。秘。そろそろ終わりまして?」
「サァ?」
「……ふざけていますのね。だから秘と一緒は嫌なんですのよ……」
こいつらは召喚された十王と呼ばれるタルタロスの遣いのような者なのだが、どれも奇抜な能力を保有している。差し詰め奈落における重大な管理者といったところか。
そう考えていると、見覚えのあるやつが空から降りて来た。
確かこいつは……先兵のアルケー。そう呼ばれていたはずだ。
「タルタロス様。奈落は既に……」
「そうか。お前も自由にしていい」
「ではこれにて」
そう言い残すと、俺を少し恐れる目で見た後、かき消えた。
あいつ自身俺より強い相手だと思っていた。
立場が逆転したか……だがこんな力。
「いらないなんて言わないよね。力無き者は何も守れないよ。まだそんな甘い考えを持っているの? 私に酷い目に合わされて少しは気付いたかと思うよ。君は持っている力から逃げてる。だから制御も使役の仕方も苦手のままなんだ」
「だが、お前は俺を裏切ったりしていなかったろう」
「ほら。甘い考えだ。利用されても利用されたと考えない。私はここで君に殺されてもいい覚悟で待っていたんだ。なのに君は、怒りすら覚えていない。震える手で次はお前だ? 君には一生私を殺せないよ」
「……タナトス。嫌がらせをしてやるな。ルイン・ラインバウトという男はそれでいい。弟も同じことを言っていた。それが貴様の星の法則なのだろう? 深くまで物事を考える心理を持つ、崇高な民族がいると聞く。その血を受けた魂は、慈愛に満ちているのかもしれん。だからこそ取り込んだモンスター、人、神にすら安らぎを与えてしまうのだろう」
「カイロスは彼に甘すぎるんだよ……」
「ブレディー、光、欲しい。眩しい。きらきら」
「……もう決めたことだ。お前も覚悟はしていたはずだ」
四人で一体何の話をしているんだ?
と思っていたらタナトスがフェルドラーヴァへ近づいた。
「その前に。フェルドラーヴァ。解放していいよね。ここにいると邪魔なんだ。いいかい。フェルドナーガのところに戻るんだ。ちゃんと言伝も添えてね。捕縛し、奴隷にした妖魔たちすべてを解放するんだ。そうしなければ、このカイオス……ルイン・ラインバウトが必ずや討ち滅ぼしにくると」
「わ、分かった。私は、助かる……のか」
「さぁ。それは彼の努力次第。このままいけば全員餌になるだけだよ」
「……感謝する。どうやら私も、父も、王の器ではないようだ」
「そんなことはないから君らを生かしたんだよね。稀代稀に見る優秀な統治者だ。ただし奴隷は禁止ね。彼の意にそぐわないほどじゃないけど、さ」
フェルドラーヴァを捕縛していた状態から解放すると、やつは体を引きずりながら去っていった。
今更、そいつに興味を持てなかった。
全員餌になるというのは理解出来ない。
タナトスはまさか……「私たちは君に取り込まれることにした。絶対神が封じられた今、管理者の役割を破棄しても消滅するだけかもしれない」
「……我々には役目がある」
「強い、強すぎる、力。必要、器」
「少し異なるが、リルやサラと同じ道を歩めるのだ……兄としては悪くない。実に悪くない気持ちでいっぱいだ。リルとサラのことは引き続き貴様に頼むとしよう」
「でも、それじゃ俺が死んだら……」
だが全員、決意は固いようだ。
それならば……消えるというくらいなら。
「両手、戻ったね。でも力は内包したままだよ」
「お前は強くなった。時の管理者と互角に戦った唯一の者だ」
「ふ……冥府の番人と恐れられたこのタルタロスとも、だ」
「ブレディー。戦ってない。戦いたかった」
「私も君とは真剣に戦った。もう勝てないだろうな。君に」
「おい。なんで今世の別れみたいに言うんだ。だって封印したらいつだって外に……」
「さぁ癒。秘。戻れ」
『承知しました』
俺の治療を終えた二人の妙齢な女性はクスリと笑みをこぼし、音を立てずに消え去った。
そして、四名は俺を取り囲み……「これは君にただ封印されるわけじゃない」
「我々の意思で封印される」
「結果どうなるかまでは分からない」
「それでも、一緒、いい……ずっと、一緒、ツイ、ン」
『全ては、我が主のために』
「うっ――――」
ふさがれた目が自然と開いていく。
いつもの視界に戻った。
体も、翼も何も生えていない。
完全に元の体に戻った、のか?
なのに、なのに……封印を確認しても四人の姿は見当たらなかった。
「う、そだろ。どうなった。どうなったんだ? おい、タナトス、タルタロス、アルカーン、ブレディー。返事を、封印から出てきてくれ。出ろ! 出れるんだろ!? おい!」
俺の声はむなしくその場に響くだけだった。
また……一人になった。
俺はその場に崩れ落ちた。
先生を救おうとしたからか? いや、あいつらは絶対神がいなければ消滅するから、か。
それじゃライデンのせいで管理者四名を失ったのか?
だが、ショックを受けていていいわけじゃない。
あいつらが何を俺に託したのか、今ならはっきりと分かる。
「アクソニスとシラは俺が止める。全ての魂を掌握するためのもう一つの秘宝。紫電級アーティファクトは俺が守る。メルザ……すまない。もう少しだけ俺を待っててくれ……流星!」
俺が地を蹴り流星を発動させてみると、地上部分を消し飛ばしながら前方に進む。
早すぎて意識がついていけないかと思ったが、まるで切り取られた時のように視界がはっきりしている。
これは……カイロスの力か。
そして、明暗の差がまるでないように視界がくっきりとしている。
これは……全ての闇を見る、闇の賢者の力。
そして、周囲にあるあらゆる生命の死を感じ取れる。
これが死の管理者、タナトスの力。
そして……離れた場所にある魂を感じる。
これが……タルタロスの力。
「成し遂げてみせる。必ず。お前らの代わりに」
そして、俺は一つの死の反応と、魂の反応を感じていた。
こいつはまだ生きているが、もうじき死ぬ。
「ライデン……最後に話を、聞いてみよう」
少しやつれた顔をしているのはいつも通りだが、機嫌が悪そうに見えた。
「なるべくならタルタロスとは会いたくなかったのだが」
「まぁまぁ。仕方ないでしょ。彼女なんてもっと可哀そうだよ。わけが分からないままここにいるんだから」
「そう。不明。何もかも」
「管理者にしては時が若すぎる。スキアラもそれどころではなかったのだろう?」
集まった四名はいずれもが絶対神より創造された管理者たちだ。
イネービュが創造せし時の管理者、アルカーン……いや、正式な名はカイロス。
スキアラが創造せし闇の管理者、ブレアリア・ディーン。
ウナスァーが創造せし死の管理者、タナトス。
ネウスーフォが創造せし魂の管理者、タルタロス。
いずれも神と異なる特別な存在であり、特異的能力を保有する。
そして彼らが一堂に会したことがあるかどうかも不明だ。
なぜ集まったのか。それは……「どう? 癒。そろそろ近づいても平気?」
「いかがでございましょうか。秘。そろそろ終わりまして?」
「サァ?」
「……ふざけていますのね。だから秘と一緒は嫌なんですのよ……」
こいつらは召喚された十王と呼ばれるタルタロスの遣いのような者なのだが、どれも奇抜な能力を保有している。差し詰め奈落における重大な管理者といったところか。
そう考えていると、見覚えのあるやつが空から降りて来た。
確かこいつは……先兵のアルケー。そう呼ばれていたはずだ。
「タルタロス様。奈落は既に……」
「そうか。お前も自由にしていい」
「ではこれにて」
そう言い残すと、俺を少し恐れる目で見た後、かき消えた。
あいつ自身俺より強い相手だと思っていた。
立場が逆転したか……だがこんな力。
「いらないなんて言わないよね。力無き者は何も守れないよ。まだそんな甘い考えを持っているの? 私に酷い目に合わされて少しは気付いたかと思うよ。君は持っている力から逃げてる。だから制御も使役の仕方も苦手のままなんだ」
「だが、お前は俺を裏切ったりしていなかったろう」
「ほら。甘い考えだ。利用されても利用されたと考えない。私はここで君に殺されてもいい覚悟で待っていたんだ。なのに君は、怒りすら覚えていない。震える手で次はお前だ? 君には一生私を殺せないよ」
「……タナトス。嫌がらせをしてやるな。ルイン・ラインバウトという男はそれでいい。弟も同じことを言っていた。それが貴様の星の法則なのだろう? 深くまで物事を考える心理を持つ、崇高な民族がいると聞く。その血を受けた魂は、慈愛に満ちているのかもしれん。だからこそ取り込んだモンスター、人、神にすら安らぎを与えてしまうのだろう」
「カイロスは彼に甘すぎるんだよ……」
「ブレディー、光、欲しい。眩しい。きらきら」
「……もう決めたことだ。お前も覚悟はしていたはずだ」
四人で一体何の話をしているんだ?
と思っていたらタナトスがフェルドラーヴァへ近づいた。
「その前に。フェルドラーヴァ。解放していいよね。ここにいると邪魔なんだ。いいかい。フェルドナーガのところに戻るんだ。ちゃんと言伝も添えてね。捕縛し、奴隷にした妖魔たちすべてを解放するんだ。そうしなければ、このカイオス……ルイン・ラインバウトが必ずや討ち滅ぼしにくると」
「わ、分かった。私は、助かる……のか」
「さぁ。それは彼の努力次第。このままいけば全員餌になるだけだよ」
「……感謝する。どうやら私も、父も、王の器ではないようだ」
「そんなことはないから君らを生かしたんだよね。稀代稀に見る優秀な統治者だ。ただし奴隷は禁止ね。彼の意にそぐわないほどじゃないけど、さ」
フェルドラーヴァを捕縛していた状態から解放すると、やつは体を引きずりながら去っていった。
今更、そいつに興味を持てなかった。
全員餌になるというのは理解出来ない。
タナトスはまさか……「私たちは君に取り込まれることにした。絶対神が封じられた今、管理者の役割を破棄しても消滅するだけかもしれない」
「……我々には役目がある」
「強い、強すぎる、力。必要、器」
「少し異なるが、リルやサラと同じ道を歩めるのだ……兄としては悪くない。実に悪くない気持ちでいっぱいだ。リルとサラのことは引き続き貴様に頼むとしよう」
「でも、それじゃ俺が死んだら……」
だが全員、決意は固いようだ。
それならば……消えるというくらいなら。
「両手、戻ったね。でも力は内包したままだよ」
「お前は強くなった。時の管理者と互角に戦った唯一の者だ」
「ふ……冥府の番人と恐れられたこのタルタロスとも、だ」
「ブレディー。戦ってない。戦いたかった」
「私も君とは真剣に戦った。もう勝てないだろうな。君に」
「おい。なんで今世の別れみたいに言うんだ。だって封印したらいつだって外に……」
「さぁ癒。秘。戻れ」
『承知しました』
俺の治療を終えた二人の妙齢な女性はクスリと笑みをこぼし、音を立てずに消え去った。
そして、四名は俺を取り囲み……「これは君にただ封印されるわけじゃない」
「我々の意思で封印される」
「結果どうなるかまでは分からない」
「それでも、一緒、いい……ずっと、一緒、ツイ、ン」
『全ては、我が主のために』
「うっ――――」
ふさがれた目が自然と開いていく。
いつもの視界に戻った。
体も、翼も何も生えていない。
完全に元の体に戻った、のか?
なのに、なのに……封印を確認しても四人の姿は見当たらなかった。
「う、そだろ。どうなった。どうなったんだ? おい、タナトス、タルタロス、アルカーン、ブレディー。返事を、封印から出てきてくれ。出ろ! 出れるんだろ!? おい!」
俺の声はむなしくその場に響くだけだった。
また……一人になった。
俺はその場に崩れ落ちた。
先生を救おうとしたからか? いや、あいつらは絶対神がいなければ消滅するから、か。
それじゃライデンのせいで管理者四名を失ったのか?
だが、ショックを受けていていいわけじゃない。
あいつらが何を俺に託したのか、今ならはっきりと分かる。
「アクソニスとシラは俺が止める。全ての魂を掌握するためのもう一つの秘宝。紫電級アーティファクトは俺が守る。メルザ……すまない。もう少しだけ俺を待っててくれ……流星!」
俺が地を蹴り流星を発動させてみると、地上部分を消し飛ばしながら前方に進む。
早すぎて意識がついていけないかと思ったが、まるで切り取られた時のように視界がはっきりしている。
これは……カイロスの力か。
そして、明暗の差がまるでないように視界がくっきりとしている。
これは……全ての闇を見る、闇の賢者の力。
そして、周囲にあるあらゆる生命の死を感じ取れる。
これが死の管理者、タナトスの力。
そして……離れた場所にある魂を感じる。
これが……タルタロスの力。
「成し遂げてみせる。必ず。お前らの代わりに」
そして、俺は一つの死の反応と、魂の反応を感じていた。
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