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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百六十三話 鎮め

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 フェルドラーヴァを殺したい衝動を抑え込み、近づいてくるタナトスとタルタロスを手で制した。
 手で制しただけなのに波動が飛んでいき、危うく二人を攻撃しそうになった。 

「二人とも。それ以上近づくな」
「そんなに範囲が広いの? 手振るうだけでも危ないね……ここまで変貌するとは思わなかったよ」
「……バルフートの影響だろう」
「やっぱり? あれから無理やり力を引き出したらこうなるかぁ……今、モンスターを封印から出したり出来ないよね?」
「全員眠っているみたいだ。恐らくは無理だろう。それより早く、封印してしまった先生を助けてくれ」
「そのためには君をその形態から元に戻さないと。タルタロス、君なら出来るよね」
「……分からん。試してみなければ、な」
「近づくとラーンの捕縛網が暴れ出す。俺にはどうやっても制御出来ない」
「違うって。使役してるの。君への攻撃可能範囲にわずかにでも入る相手に向けて事前に行動してるね。封印させるというか取り込ませるというか。君、何か心当たりない? 最後にこの捕縛網、どんな形にして使ったとかさ」
「形? 確かモードパモでガーディアンを吸い込ませた。それが原因か?」
「それだよ。間違いない。ガーディアンってベオルブイーターを守っている周りのだよね。あれがラーンの捕縛網と結びついて勝手に行動してるんだ。それなら対処方法がある」

 そう聞いてタルタロスが前へ踏み出す。
 近づくとタルタロスでも攻撃するだろう。
 しかしタルタロスは意に介さず前に進む。
 ラーンの捕縛網が反応し、タルタロスへ向かうが、ギリギリの位置でタルタロスは停止し……「十王招来。泰山・癒王、五道・転輪秘王」
「四十九日に七は駆け……薬師如来、癒にございますわ」
「イヨーーーーッ! 三年目。長きに渡る待ち人は心弱らせる。玉の緒よ、絶えなば絶えね、ながらへば、忍ぶることの、よわりもぞする……阿弥陀如来・秘。サァサァサァ!」

 十王を招来した? 見たことが無い十王だ。タルタロスはどれほどの能力を秘めているんだ。
 確かネウスーフォは最後にベオルブイーターを守れとこいつに指示をだしていたが……俺が破壊した以上、敵として認識されているんじゃないのか。

「少し落ち着いてきたみたいだね。君の感情……タルタロスが敵対するんじゃないかって心配してるね。彼はさ。もう管理者じゃないよ」
「どういう意味だ?」
「ブレアリア・ディーン。そろそろおいでよ」
「ブレアリア・ディーンだと? まさかカルネが!?」
「違うって。交代したって言ったでしょ。ああ、カイロスも呼んでおいたよ」
「一体……どういう意味だ」
「……管理者の役割を全て破棄した」
「そ。私たちは全員管理者じゃない。カイオス。君を私たちはずっと見て来た。君にこそ私たちが従うべきだと判断した」
「……闇の賢者であることに、変わり、ない」

 そう告げて姿を現した闇の賢者。
 ……その姿はまるであのときのブレディーそっくりだ。
 自然と、足の力が抜けてその場に座り込んだ。
 
「私、記憶、無い。だから、分からない。でも、スキアラ、言った。お前、姉妹。妹だと」
「ああ。ああ……スキアラよ……感謝する」

 あえて前のブレディーそっくりにしたのか。
 くそ、こんな状態でなければ頭の一つでも撫でてやるってのに。

「そろそろ、初めてもよろしいか? サァ!? あ、サァ!? サァサァ!」
「阿弥陀の秘は騒がしいので早々に切り上げて帰りたいのです」
「薬師の癒は照れ屋でして。ではルイン殿。少しばかり手荒ですが、どうか我々に敵意を向けぬよう。あなたに攻撃されたらひとたまりもありませんので」
「頼む。先生を助けるためなら、俺をいくら攻撃してくれても構わない。自動で反撃してしまうようなら抑え込んでみる。一つ言っておく。この形態でも恐らく攻撃対象の能力を奪うがいいのか?」
「この能力は奪ったところで当たりは一つ。当たりは引いても攻撃ではないのでこの能力を使うために招来されたのですよ。サァ! サァサァサァ! 阿弥陀如来の光背を引き当て、あみだくじ!」

 ……一応妙齢の女性なんだが不思議なしゃべり方だな。
 背中に不思議な紐がいくつも伸びていて、それを引っ張れと言ってきた。
 紐はとても長く、俺の付近に落ちてもラーンの捕縛網は反応していない。
 うち一本を取ると、癒と呼ばれたこちらも法衣に身を包む優しそうな女性が身構える。

「サァ! サァサァサァ!」
「引っ張れってことか……じゃあこれだ」
「キャーーー! 外れ」

 胸のとこがはだけた。一体この状況で俺に何をさせるんだ。
 
「サァ、サァサァサァ!」
「これ、当たるまでやるのかよ……変なところが脱げるなよ!」
「癒線上、魔払いの極み!」

 もう一本引いたそのときだった。
 まるで俺の能力を虚像にしたかのように、紐を通じて怪物が姿を表す。
 秘の横に立っていた癒が急ぎその紐に何かを流し込むと、その怪物はその状態のまま静止した。

「二本目で当たり。良い結果です」
「これは一体なんだ?」

 タナトスがふうとため息をこぼす。
 やれやれといった顔立ちだ。

「タナトスの魂に癒着した、殺された生物の憎悪だね。それとガーディアンに殺された者の怨念なのかな。これだけたまってたら無差別に攻撃したりするか。よく平気だったね、君……爆輪!」

 その怪物を吹き飛ばすと、俺の体は少し軽くなった気がした。
 この作業を何度か繰り返し……俺の体は異常状態からゆっくりと戻っていった。

「おい、そろそろ先生を……」
「大丈夫。紐に癒が薬効効果をもたらすものを次々と流してるから。君は我慢してそのまま続けて。ほらほら、どこがポロリするか見たいでしょー?」
「俺はメルザ一筋だ! ……なぁ。メルザに早く会いたいんだ」
「……そうだね。その前にまずは君の状態を直してからだよ」
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