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第三章 ベオルブイーターを倒せ!

第九百四十二話 金色の舵

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 隠れていたレイビーを連れ、メルザたちの居場所まで戻る。
 こちらにもシラたちはいないようで安心したが……あいつの狙いにメルザが含まれていることも考えられる。
 十分警戒しておかねばならない。
 ヤトもアイジャックも無事だが、疲弊はしている。
 ふと、メルザが唐突に口を開く。
 その内容は、無論あれだ。
 
「なぁなぁ。腹減ったよー」
「参ったなー。調べてたら急に後ろから襲われるんだもん」
「姉御が突っ走りすぎたんですぜ。もっと気を付けてくださいよぉ」
「現況は倒しましたわね? それならばさっさと調べてしまいましょう」

 白丕たちには一度封印へ戻ってもらい、いつでも戦闘対処できるようにしておく。
 ヤトとアイジャックを先頭にして、再び先ほどの部屋を訪れた。
 どうやらこの扉、ヤトたちが向かった際は開いていなかったらしい。
 
「ふーん。中にそんなやついたんだね。入らなくてよかった。下手な罠よりよっぽど危ないよ」
「にしてもよ。常闇のカイナかー。あいつらまだ悪いことしてたのか?」

 シラのことを伏せるため、その点は話していない。
 話したのはアクソニスとマルファスのことだけだ。
 それと、部屋にいるレイビーについて。

「あの人形はあそこで何をしてるのかしら? わたくしには遊んでいるように見えるのだけれど」
「遊んでるんだと思う。いや……もしかしたらアクソニスはあいつに情報を見せていたのかもしれない」
「ルインー。ここー、楽しいよー」
「レイビー、ここで何が起きたか見ていたか?」
「うんー。みんなが来るより前にー」
「おお、すげー。あいつ壁すり抜けてるぞ」

 レイビーは人形のまま建物の一部を透過していた……。
 あんな人形が壁から半身出てきたら絶叫するぞ。
 
「この部屋に何か仕掛けがあるのを知ってるのか?」
「えーとねー。この舵をね」
「なんだ、それ回すのか」

 メルザが走って金色の舵の場所へと向かう。
 おいおい、カルネ抱えてるんだから気を付けてくれ。

「ううんー、回すんじゃないよー」
「えっ?」
「あっ」
「……何か今、変な音がしましたわね」

 徐々に地面が下へ降りているような気がする。
 これ、やっちゃいけない行動だったのか? 

「やばいよな、これ」
「……へへっ。わりーわりー」
「メルちゃ。どじ」
「反対に回せば止まるよな……だめだ、止まらないぞ?」
「えっとねー、うーんとねー」
「今は考えてる場合じゃない! 全員捕まれ……あっ」

 メルザがつかんでいた金色の舵がスポっと抜けた。
 これ、取れてよかったもの!? 

「そう、それだよー。舵取りて、見下ろす黒に舵ありしときー、望郷のものは飛び立つ準備は整うー、だったよ」
「……止まった。それ、アクソニスの台詞か?」
「んっとねー。ここの仕掛けがねー。作動したときに聞こえたのー」
「つまりあいつの言う、情報が無ければってのは仕掛けが作動してたから情報が得られないって意味でか。さて、それより最下層まで降りてきちゃったんだよな、これ」
「こちらにベオルブイーターの手がかりがあるのかしら?」
「いや、どうみても罠に掛かっただけだ。上に戻る方法もなさそうだが」
「そうだね。妖魔君の言う通り、舵を回すだけでたどり着ける目的地なら簡単すぎるよ。舵取りて、見下ろす黒に舵ありしとき、望郷のものは飛び立つ準備は整う……ね。うーん。アイジィ、どう思う?」
「舵ってのは金色のソレで合ってるんじゃねえですかい? 他にそれらしいものはありやせんでしたしね」
「それでしたら、見下ろす……というのであれば、この部屋の位置は見上げる、ですわ」
「んー。んー」
「どうした、メルザ?」
「えーとよ。どうやって上に戻るんだ?」
「……確かに。この舵、抜けた場所にはまらないぞ」
「部屋の扉は?」
「塞がってやすぜ」
「つまり……閉じ込められましたわね」
「へへっ。それじゃここで飯にするか」

 とても嬉しそうに俺を見るメルザ。
 うーん。食事をしている場合なんだろうか。
 
「ヤト。何かいい方法あるか?」
「扉の先は壁だね。天井に穴を開けてみる?」
「いや……それよりも、この部屋の絵にも何かヒントらしいものはないか?」
「どうかしらね。あまり他の絵と違いが無いように見えますわ」
「分かった―――ピンと来たぜ! 俺様に任せろ!」

 再びメルザが大きな声を出して手を挙げるが、全員疑心暗鬼である。
 しかしここで放っておくと不機嫌になるので一応話を聞いてみる。

「メルザ。今度は勝手にやっちゃいけないよ。カルネ、メルザを頼むよ」
「任せろ。俺様自信あるぜ」
「この状況で大した元気だと思いますわ……わたくし、そろそろ血が欲しいのだけれど」

 メルザは俺の手から再び舵をかすめ取ると、立てかけられている絵の前に向かう。
 ……それは絶対違うと思うぞ。黒いところに舵を差し込むんだろう? 
 そう思っていたら、カルネがメルザの持つ舵をひったくり、絵の何もないところに突き刺した。
 すると……再び上へと部屋が浮上していく。

「……さすがだわ、妖魔君の子」
「優秀ですわね」
「あれ? そっちじゃねーぞカルネ」
「メルちゃ、合ってる。黒いの、危ない」

 やっぱりカルネの目は普通じゃないのだろう。
 この状況で絵の何もないところに舵を差し込むなんて選択肢としてはまれだろう。
 さて、これで上へは戻れるとして……上か。

「やっぱり私とアイジィが調べていた上階にある絵画だよね」
「そうだな。ひとまずそこまで戻ろう」


 全員で入口まで戻ると、再び最上階層まで向かう。
 この部屋は殺風景ではあるものの、立派な壁画が書いてあった。
 最初にこの部屋を訪れていたら驚いていただろうが、ヤトには興味がわくものではなかったようだ。

「随分立派な絵だな。他の場所にはなかった絵だ」
「そうだね。私は最初がここだったから一通り調べたけれど、絵には特に何もないようだったよ」
「お待ちになって。この絵……もしかしたら魔対戦のときの絵ではないかしら」
「見て分かるものなのか?」
「ええ。この絵の左端……これは間違いなく血詠魔古里の者ですわね」
「んあ? けつえー?」
「ベルベディシアと同じ種族ってことだ。だが、ベルベディシアの種族は地上の種族だろう? どうしてそんな絵が地底にあるんだ?」
「わたくしにも分かりませんわね。でも、この絵は……何かを止めようとしている絵にも見えますわ」
「うーん。私には逆に追い出そうとしている絵に見える」

 俺も遠めによく絵を見てみる。確かに様々な種族が争っている絵に見える。
 ベオルブイーターの塔。それはハルファスとマルファスが作ったものでは? と思ったのだが、そうではないようだ。
 奴らはベリアルに恨みを抱いていた。そして、ソロモンの塔を守っていた軍団の者で間違いないだろう。
 この遺跡から近いソロモン遺跡はあるようだが、ここまでは距離がそれなりにある。
 何かしらの理由でここへ封印されたのか。あるいは自分たちの意思でここに封印されていたのか。
 どちらにしても常闇のカイナと繋がっていたのは事実か、あるいはアクソニスにいいように利用されているかだが……恐らく後者だと思う。
 あまり賢いようには見えなかったしな。
 さて、こうなると絵とヒント……それにあとは所持している鍵も使う場所があるかもしれない。

「カルネ、どうだ? この絵見て何か思うことあるか?」
「ツイン、お鼻、お鼻ー」
「この子、本当にあなたの鼻が好きなのね……」
「どういうわけかそうなんだよ。お陰で随分鼻が伸びた」
「鼻って伸びるものなの!? って、妖魔君、今それどころじゃないでしょ!」
「そうだった……待てよ? 鼻? この絵にいる奴らの鼻、なんか変じゃないか?」

 絵をまじまじと見ると、鼻の絵に使われている色合いがどうもおかしい。
 いや、色合いがおかしいというより光具合が変だ。

「ほんとだ。よーく見るとツルツルしてるみたい。でも一通り触ったよ?」
「いや……分かったぞ。この中で空を見上げているやつの中に、鼻の色合いがおかしいやつはどいつだ?」
「えっと。一人だけだね。左から二番目の……あ、血詠魔古里の種族じゃない?」
「舵取りて、見下ろす黒に舵ありしとき、望郷のものは飛び立つ準備は整う……ここだ!」

 メルザが持ってきていた金色の舵を、血詠魔古里の種族が見上げている場所に差し込んだ。すると……この遺跡全体が揺らぎだした! 
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