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第二章 地底騒乱

第九百二十話 まさかの合流地点

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 笑い過ぎて若干涙目になりながらも起き上がったベルベディシアは、こちらを見てにっ
こりと微笑んだ。

「ふう、ふう……落ち着きましたわ。少々血を分けては頂けませんか?」
「てめえ……俺を見て散々笑い転げたかと思えば一言目がそれかよ!」
「なんで笑ってただけで血を分ける必要があるんだ……」
「それはもう、激しい笑いを二度も行ってしまいましたから。随分と消耗してしまいました
わ」
「電撃を笑いで放出してるのか!? 能力の無駄遣いにも程がある……ほら」

 仕方なく少々血を放出する。
 俺の血が笑いで電撃放出へと還元されるのを考えると複雑な気持ちだ。
 しかしベルベディシアはヴァンパイアとどう違うんだろう? などと考えていると……
今度はけたたましい腹の音が周囲に鳴り響く。
 ここはまだ列車の通る道の上だ。
 しばらく歩いて外に出る場所を探そう。
 
「おいルイン。早めに飯を探そうぜ」
「今のはベリアルの腹の音か」
「わたくしはそんなはしたない音を出したりしませんわ!」
「嘘つけ。おめえさっきグルグルと鳴ってたの知ってんだぞ」
「何か仰いまして? 消炭の鳥にして食べて差し上げましょうか?」
「やってみろ、コラァ!」
「喧嘩してないでさっさと行くぞ」

 腹が減ると喧嘩腰になると言うが……その感覚は俺にはない。
 腹が減っても腹が減ったと思う以外特に感情はないし、食べ物も適量あれば十分だ。

「気に入らねえ壁だな。何で出来てやがんだ、これは」
「雷撃に耐えられるあの鎧と同じではなくて?」
「採掘してた金属鉱だろ? 地底には面白い貴金属が幾つかあったな。ウガヤが作り
だした洞窟にもあったが、この世界は俺の想像出来る範疇はんちゅう陵駕りょうがしているよ」
「あなたの前世ではどのような金属があるのか興味ありますわね」
「んーと、そうだな。多く採取出来るのはアルミニウムといわれるものだ。鉄は化合しや
すいから非化合物状態ではほぼ採取出来ない。純正の鉄自体は加工しなければ作るのが困
難だし、高温の熱を浴びせなければ加工は不可能だ」
「ありきたりの金属しかねえってのか?」
「いいや、あくまで多くとれる量のものだ。チタンやクロム、プラチナなどだが、同じも
のをこの世界で確認したことが無いな」
「あるぜ。地底にはな」
「本当か? ……月影って奴が言ってたことを聞いてから引っ掛かることがある。地底には
月が存在するのか?」
「そいつはおめえが実際見て判断するんだな……おい見ろ。そこの壁、壊せそうじゃねえ
か?」
「わたくし、もう少しお話が聴きたかったのですけれど。特に……磨くと光るような石に
ついて、ですわね」
「また今度だな……確かに壊せそうな場所がある」

 ベリアルが鳥の姿で飛び着地した地点。
 隙間が空いている部分がそこにあった。
 急仕立てでこしらえたせいなのか……何れにせよこの先もしばらく壁の切れ目がないた
めここで離脱しておきたい。

「少し下がっててくれ。流星とガントレットで対処してみる……流星! くそ、びくとも
しない」

 どうやって加工して作ったかは知らないが、大した強度だ。
 厚さも相当あるのかもしれない。

「俺ならこの隙間から外に出られるな。ちょいと外からぶち壊してくるか」
「ああ。それと念のため周囲を警戒しておいてくれ」

 ――そしてベリアルが隙間から外へ出て直ぐ。
 外からけたたましい笑い声が聞こえて来た。

「クックック。ようやくだ……形身が狭っくるしくてしょうがなかったぜぇ! 吹き飛べ
や、オラァ!」
「ちょ、まだ避難してない!」
「一緒に沈めや、雷帝!」

 俺も直ぐ近くにいるんですけど!? 
 慌てて飛び跳ねて回避した。
 さすがのドラゴントウマ……あの金属も本気のベリアルの攻撃には耐えられず、崩れ落
ちた。

「あらあら……どうやら消炭になりたくて仕方が無かったようですわね……」
「ま、まぁ落ち着け……腹も減ってるだろうし急いで食糧探すから」

 ベリアルは不服な様子でその穴を覗き見ていた。
 破壊出来たのに何で不満そうなんだ? 

「けっ。この壁全てが崩壊するはずだったが……気に入らねえ金属だな」
「お前の全力攻撃だったんだろう? 十分な威力だと思うぞ」
「ああ? 今は腹が減ってて全力なんざ出せるかよ。二割だ二割」
「嘘おっしゃい。竜の顔がバテバテですわよ」
「喋り疲れただけだ。食糧が入るまで俺は寝るからよ」
「おいおい、道の偵察だけしてきてくれよ」
「仕方無ぇな……たまにはルーニーを使ってやれよ」

 バサバサと巨大な翼を広げ上空へと昇っていくベリアル。
 少し周囲を飛ぶと鳥の姿へ戻り、周囲の状況を説明してくれた。
 ルーニーはベリアルと違って喋れはしないからな。
 
「このまま南に下りゃあ恐らくベレッタだ。東に進めば穴がボコボコ開いた赤土の渓谷があるな。
そこから地下に入れるかもしれねえ」
「このままベレッタに向かうのは危険かもしれないですわね。それで食べ物はありました
わよね?」
「……無ぇな。木一本すら道すがら生えて無ぇ」
「モンスターはいたか?」
「渓谷までの道にはいねえな。巣穴があるのは間違いねえだろ。何の巣穴かは分からねえがな」
「ベレッタに向かう途中の道にさ。昔凄く美味いモンスターがいて焼いて食……」
「さぁ行きますわよ! 早く! 何をぼさっとしていらっしゃるのかしら!」
「おう。俺はおめえの封印内で休んでるからよ。飯に辿り着いたら起こしてくれ」
「……でもその場所に辿り着くとは限らな」

 と、止める間もなく渓谷方面へと足を進めるベルベディシア。
 おいおい、食事に釣られるメルザじゃあるまいし。
 しかしノースフェルド皇国の食事を考えると美味いものを食べたいって感覚の方が正常
だろう。
 仕方ない、峡谷の方へ進もう。

 ――渓谷に向けて一時間程歩いたろうか。
 どうやって出来上がったのかさえ分からない、切り立った峡谷の上方部分に俺たちは立っている。
 細い道だが峡谷の下へと通じる道がある。
 人為的に押し固めて作られた道、というより何かの生物が作った道にみえなくもない。

「ここで生活してる何かがいるのは間違いないな」
「そうですわね。言葉が通じる相手だと良いのだけれど……」

 渓谷をどんどんと下りて行くと、ひやりとした冷たい空気へと変わっていく。
 周囲に今のところ敵となるものは見当たらないが……。

「地底に来てからというもの、新しい発見が多いですわね」
「地上とは随分違うからな。土の様子とか、温度差とか」
「そうではありませんわ。ここは絶対神が強く干渉している地、ということですわね」
「地底は絶対神が作ったんだろう? なら、そうであっても不思議は無いんじゃないのか?」
「いいえ。本来絶対神とは理に過ぎぬ存在でなければならないのですわ。ですが、この地
は絶対神が何かを守るために創造した地であると思いますわね……ここが無くなれば絶対
神すら恐れることが起こる。そう感じてならないですわね」
「それは……地底が無くなると絶対神が困るってことか」
「そうなりますわね。そしてそれを目論んでる可能性があるのが……」
「フェルドナーガ? だがあいつは地上と地底双方を支配すると」
「お一人で二つを支配するにはどうしたら良いのか。わたくしならこう考えますわ。片方
を消炭にしてしまい双方合わせて一つの地としてしまえ……と」
「地底を消滅させるってことか!?」
「消滅というよりも一つにまとめてしまう……ですわね。本来この地底は無かったもので
すわ。以前同じことを考えたものたちがいました。そのものたちはある建造物により、地
上と地底を完全に一体化させる作戦に出たのですわ。それがソロモンと呼ばれる……幾つか
の建物。その一つの残骸がほら……」

 ずっと聞き入っていたが……ベルベディシアが指さす方向をみる。
 下っていった渓谷の先にわずかな建物の残骸らしきものがみえた。

「あれがベリアルの言っていたソロモン!?」
「わたくし、なぜあの鳥が渓谷の話をしたのか。ピンと来ましたの。地底に詳しいのなら
もう少し良い道も知っていたのではないかしら。きっとここへ……弔いに来たかったのでは
ないかしらね」
「ベリアルが……だったらそう言えばいいのに」
「そういう素直な性格じゃありませんわね。短い付き合いですけれど、わたくしには分かり
ますわ。多少は、気に入っていますから」
「それじゃ食事で向かわせたのは嘘か?」
「あら。女の嘘は事実として受け止めるべきですわよ。うふふっ」

 と決め台詞を告げたところでけたたましいギュルギュル音を鳴り響かせたベルベディシア
は、その音をかき消すべく、真っ赤になりながら突然雷撃を放出し、周囲を黒焦げにしたの
だった。
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