上 下
1,024 / 1,085
第二章 地底騒乱

第九百十五話 ベル家の連携

しおりを挟む
 邪念衆の一人を退けた俺たちは、続けて第八車両へと向かった。

「さっきの奴、おめえを知ってるような感じだったが気付いてたか」
「ああ。俺を地上から来たって言ってたな」
「あいつ、フェルドナーガの前に連れてかれたときにいたぜ。全ての情報を把握はされて
ねえだろうが、気を付けるこった」
「……ばれるのは時間の問題だったしな。ギルガ、お前ベレッタには詳しいか」
「あたぼうよ。ギルガ様の故郷だぜ」
「フェルス皇国に通じる道で良い場所を知らないか?」
「フェルス皇国ぅ? まぁ知ってるっちゃ知ってるがよぉ」
「そうか……もし無事に辿り着けたら教えてくれると有難い」
「そりゃおめえ……死にに行くようなもんだろう?」
「いいや。そんなつもりは、ない!」
「いたぞ、侵入者だ! まさかこいつ、月影様を倒したというのか?」
「一斉にかかれー!」
「邪魔だ。どけ」

 口髭をふんだんに蓄えた男が右目に炎を灯しながらこちらへゆっくりとやって来る。
 威勢の良かった妖魔たちは静かに道を開けていた。

「邪念衆終焉、落陽の炎天。あの状況で抜け出せる者がいたとは。ノード黒霊鉱の秘密を
知ったとしか思えないのだがね」
「悠長に話してる暇はないんでね。押し通るぞ」
「無謀な話。無駄話。なぜ邪念衆が特別か、理解していないようだ」
「ここはギルガ様に任せろぉ! ヘドロ塗れのルイン!」

 ……何だって? 俺、ヘドロ塗れなのか? 
 このシリアスな状況でそれを破壊するベルギルガ。
 お前は恐ろしい男だ……。

「くっ……はっはっは。君の能力はヘドロなのか。それは面白い。ぜひ欲しいものだ」
【絶魔】
「それだけじゃないぜ。あんたはみたとこ炎使いだろう……いくぞ。氷臥斗」

 多少使える幻術……ターフスキアーを奪われている以上氷塊のツララは使用出来ない。
 そして星の力も奪われている。赤海星の力も使えないままだ。
 
「この程度の氷術など、バカにするのもいい加減に……」
「妖魔変身、異種形態か。だがね……」
「うおおーー! くらえぃ、水酸消化砲!」
「ちょ、危っ! 危ないだろギルガ!」
「ふぁーーっはっはっは! あいつモロに食らったぞ。溶けてなくなっちまえこの三下野
郎がはっ……」

 謎の液体を俺の背後から炎天に向けて放出したギルガ。
 浴びせたと思ったのだろうが、奴は着ていた衣だけ脱ぎ去ると、ギルガの背後へ回り込
み、蹴り込んで吹き飛ばしていた。

「おいギルガ! 大丈夫か!」
「汚いものを浴びせて服を汚されるとは思わなかった……っ!」
「雷閃光、血種魔古里の掌。わたくしを無視されるとは良い度胸ですわね……あら?」
「この車両で私がいたことは幸運だっただろう。これほどの電撃使いが逃げ出していたとは」

 まともにベルベディシアの攻撃を食らったはずなのに、あいつは全く効いていないようにみえる。
 まさか、雷撃耐性か。しかもただの耐性じゃない。
 恐らく完全耐性だろう……。

「お前たち、ぼさっとせずジーヴァ様に知らせに行け! 残りのものは取り囲むのだ」
「は、はっ!」
「行かせるかぁ! こっちに蹴り飛ばしたのは誤算だったなぁ……ここはギルガ様が通さん!」

 第七車両付近にギルガ。
 第八車両付近に俺とベルベディシア、ベリアル。
 周囲を囲むように妖魔の兵たちがいる。
 数は二十程だ。そして俺は絶魔を発動させたばかり。
 
「変幻、ルーニー。ギルガを補助しつつ道の確保を」
「ホロロロー」
「おかしな武具を使うと聞いていたが……それはそのように使うのだな。一体どうやって持ち出した?」
「あんたに話す道理はない。ベルベディシア! 周りの妖魔を頼む。行くぞティソーナ!」
「ティーちゃんでごじゃろー!」
「ギルガ様もやるぜぇ! おらおらおらー!」

 奴は武器を持っていないようにみえたが、先ほどのギルガの攻撃により衣を脱ぐと、内側は
黒い金属鎧を身に纏っていた。
 どうみても雷撃が通りそうな金属に見えるのだが、これが原因で攻撃が通らなかった可
能性がある。
 そして俺のティソーナによる上段からの斬り込みを、右腕の手甲部分で軽く防ぎきられ
た。蹴りで勢いよく弾き飛ばされ、八車両方面へ押し込まれるのをベルベディシアに助けられた。
 ベルベディシアに恐れをなして、取り囲んでいる兵士は一切手出し出来ずにいる。
 無理もない、あの電撃は凶悪だ。

「信じられないでおじゃろ。何でも斬れる名刀でごじゃろ!」
「自分で言うなよな……だがあの鎧、何か秘密がありそうだ」
「おいルイン。ちょいと試してえことがある。しっかり注意を惹きつけな」
「ベリアル? 分かった。絶魔を余り長く使いたくない。パモも肩へ……頼むぜ!」
「奇妙なモンスターを出した!? ええい、何故フェルドナーガ様は全て奪い尽くさなか
ったのだ!」
「この子は特別でね。恐らく進化途中でモンスター扱いされなかったんじゃないか? ま
ぁそれだけじゃないだろうけどな! いけ、パモー!」
「パーーミューー!」

 パモは大きな氷の刃を上空から斬り下す形で撃ち放った。
 あれは、氷刃斗コルブレードで間違いない。
 上級幻術、使えるようになったのか。後で沢山もふもふしてやろう。

「ちっ。厄介なモンスターを……一体どうやって操っている、貴様ァーー!」
「おっと、後ろに注意だぜ」
「なにっ? これは私の衣だと!? 先ほど溶かされたはず……」
「ふんっ!」
サルバシオン救罪の剣 !」

 ギルガが奴の衣をどうやったのか再生し、それを顔面目掛けて投げつけていたのが視界
に入った。
 動揺した奴はギルガに気を取られ……俺への対応が遅れた。
 ティソーナとコラーダの乱舞が救の文字を描き出し、更に斬られた奴をギルガが強烈な
タックルで弾き飛ばした。

「貴様ら、許さん! こうなれば真化を……」
「ᛖᛞᛗᛈᚾᛁᛚᛁᛖᛁᛚᛊᚲᛖᛚᚹᚢᛞᛞᛟᚲᚢᛋᛖᚾ」
【炎を天秤にかけ、炎を食らい尽くせ】
「なっ!? 鳥が古の言葉を発するだと!?」

 ベリアルが倒れた奴の上に乗ると、何かを呟く。
 すると巨大な天秤が現れ……奴の目に宿る炎を吸い取ってしまった! 
 大きく傾く天秤に、ベリアルが何かを放出し、均衡を取った。

「くっくっく。これがベル家の連携。お望み通り、対価におめえが望んだヘドロの塊を置
いてやったぜ。良かったな。くっくっく。はーっはっはっはっはっは!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...