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第二章 地底騒乱

第九百十二話 待ちわびるもの忍ぶもの

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 女装を済ませた俺は早速列車の動力源を担っているという場所までばれないように
ある能力を用いて向かっている。
 残り時間は少ない。
 何せ俺は……部屋に骨を残してそれに布をかけ、更にレイスのレイビーに声真似をさせるという
無理な影武者戦法をとっているからだ。
 近づかれればばれるので、レイビーが上手くやってくれていることを願っている。

「完璧に俺へと擬態する能力があればいいんだけどな、ベリアル」
「けっ。そんな都合が良い能力そうはねえだろ」
「お前、随分と大人しく出来るようになったな」
「今にも暴れ出してえところだが、あのフェルドナーガって野郎、相当やりやがる。俺のことも知っ
てる風な口を利きやがった」
「お前が暴れてたのって、何千年も前のことだろ?」
「ああ。文献か何かが残っていやがったんだろ。生きてる奴がいるとすりゃ、それは管理者か何かって
ことだ。だがタナトスがそんなくだらねえこと話すと思えねえ」
「そのときにいた奴は全員死んだのか?」
「さぁな。その辺りはタルタロスの方が詳しいだろ」
「ふーん……」
「それよりルイン。おめえ、男言葉のままじゃねえか」
「うっ……俺だって恥ずかしいんだよ」
「おめえっぽく言うならよ。やってる場合かってとこだろうな」
「お前なぁ……っとと、ここか」

 ベリアルと会話しつつ俊足に移動し、見張りなどに全く気付かれないまま目的地付近へ
と辿り着いた。
 直ぐ近くには列車乗り場のようなものもある。
 こっち側は男の進入禁止場所。
 積み荷の点検や動力源の管理などは全て女性がやるようだ。
 そして積み荷はモンスターに運送させているらしい。
 そして目的地だが……現在は作業時間外なのでここではない。
 女性が寝ている場所……つまり寝室に向かわねばならない。
 俺の気が最も重いのはそこだ。

「やれやれ、行くしかないな。ベリアルはこの辺りで待機しててくれ。さすがに使い魔で
ばれる」
「クルッピー」
「気を付けろ……か。何か鳥言葉でも分かる気がしてきたよ」

 すっと物陰から立ち上がると、ゆっくりと寝室に近づく。
 部屋は上階の奥。
 ……良く調べ上げたもんだ。
 建物の中は静かで、タイミングを見たので一階に監視はいなさそうだ。
 直ぐに二階へと上がり、一人監視を確認。
 過ぎ去るのを待つ。
 男の方と比べると、監視はかなりぬるい上に全員女性だ。
 しかしフェルドナージュ様たちのいた場所と比べると、建物はぼろい。
 さすがに同族、皇族と地上のものとじゃ扱いは違うってことだろう。
 汚い場所だったらベルベディシアが暴れてそうで心配だな。

 大きく伸びをしながら去っていった監視。
 直ぐに音を立てないようにベルベディシアの部屋へと近づく。
 当然他の部屋から俺を見る妖魔女性は多い。
 だが声は発さなかった。
 また独房に入る奴隷が来たとでも思われているのだろう。
 ひとまずは成功だ。
 ベルベディシアの部屋の前まで来ると……部屋の窓から外を見ていた。
 
「ベルベディシア……さんですね。少しだけ小声でお話をしませんか」
「……わたくしに何用ですか。他の者と慣れ合うつもりはありませんわね」
「空を舞う竜を落とせぬ日々は退屈でしょう。それに赤いものも召し上がっておらぬ様子」
「……! あなたは……?」
「どうぞこちらを。今はこれで我慢して下さいね。明日、お迎えに上がりますから。準備を」
「分かりましたわ。明日を楽しみに……でもわたくしを何故?」
「決まっていますわ。わ、わたくしはあなたをここへ連れて来てしまったんですもの」
「ふふっ。女言葉、なかなか様になってますわね。何の力も持たない今のわたくしに何が
出来るか……」
「そちらには幾分かの血液も含ませてありますから……枷は明日にでも」
「それはそれは美味しそうな……いえ、それ以上にあなたに会えてホッとしたわたくしが
いる。わたくし、待っていますわ」

 少しだけ笑顔をみせるベルベディシア。
 大丈夫そうだ。あいつと初めてあった頃は、あんな表情全く見せない、冷徹な顔ばかり
していた。
 ルーンの国は暖かい。
 その環境が絶魔王たるあいつを、変えてくれたのかもしれない。

「ではこれにて――」
「おい監視。変な奴がいる!」

 突然近くの一室から声が上がった。
 場所は離れてる。一体どうして……。

「な、何を仰ってるんですか?」
「あたいの鼻はごまかせないよ。あんたはオスの匂いがする!」

 げっ。見たら獣人さんだ。妖魔だけじゃないのかここにいるのは! 
 いや、ベルベディシアも妖魔じゃなかった。

「ちっ……流星!」

 俺は全力で疾走し、遠く離れた窓から外へ出る。
 直ぐに警報が鳴り始めた。
 
「侵入者はどこだ!」
「男がこちら側に侵入してるようだ、探せ!」

 かなり大騒ぎになってしまった。
 急いでベリアルのいた場所まで戻り隠れる。

「おいおい、随分バカ騒ぎしてきたな」
「獣人に嗅ぎつけられた」
「はっ。見た目でどうこうしても、オスの匂いプンプンだってか」
「ああ。前世のようにシャンプーとリンスでも作ってみるかな……さて、こっからはフルで
能力使うぞベリアル」
「望むところじゃねえか。俺は封印に戻るぜ」
「ああ……っともう監視が来たか。擬態……」
「くそ、何処に行った? 逃げ足の速い!」
「まだ近くにいるはずだ。探せ!」
「何かの能力を使ったようだ! 犯人は奴隷じゃない。恐らく監視の誰かだ!」

 ……枷の影響で能力が一切使えないわけだから、疑うのは同じ監視だよな。
 ベルギルガに感謝だ。
 さて、土潜りで少しずつ位置を変えて戻るか。

 俺はパモに無数のモンスターアクリル板を預けていたが、パモが復活し能力を全開に行
使出来る。
 それはこの黒衣のお陰でもあるわけだが、なぜ回収しなかったのか。
 タナトスの不可解な点は多い。
 それを考えつつも、どうにかばれないように自室へと戻ることに成功。
 直ぐにレイビーを確認する。すると……。

「お兄さん、監視にねー。男の人が好きって思われてるみたいだよー」
「へっ? そんな噂が広まってるのか!?」
「うんー。だからね。近づくなって言われてるみたい」
「上手くいったのはそのためか……ますますこの国から早く出たくなったよ……」

 冗談じゃない。
 女装までさせられて……こんなことが皆に知れたらと思うと寒気がする。
 脱出はもう、明日決行せねばならない。
 計画はこうだ。
 鉱山作業中にジオが派手に採掘をする。
 そして俺が最奥、ジオが少し手前で作業しているようにみせる。
 今日のことではっきりしたが、監視は俺を確認したくないようだ。
 その隙にベルギルガと共に妖魔魔導列車付近へ向かい、そこへ動力を回している
ベルベディシアを回収して乗り込む。
 発車後に制圧してベレッタへ。
 そこから地底を通るか、列車を乗り継いでフェルス皇国へ向かうか。
 どちらにしても明日、妖魔導列車が動くのは間違いない。
 嫌な予感は当然する。
 しかし、持てる武器を駆使して上手く立ち回らなければならない。
 せめて装備品さえあれば良かったのだが……城には近づけないだろうな。
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