上 下
1,016 / 1,085
第二章 地底騒乱

第九百七話 能力を取り戻すための算段を

しおりを挟む
 瞬剣のジオと話をしてから今日で三日目だ。
 あいつと会話出来るのは、鉱山で採掘をしている僅かな時間のみ。
 その間にこちらの状況や地理の把握、敵の情報などを仕入れられた。
 問題となるのは俺やベリアルについてる枷。
 こいつの外し方が分からないと、何一つ能力が使えない。

「そうだねえ……僕はそんな枷無くても暴れられるけど、君は能力に頼るところが
大きい種族だからねえ」
「どうにかする方法、あるか?」
「見たところこれも、ノード黒霊鉱で出来てるよねえ。つまり……」
「このノード黒霊鉱について調べれば解き方も分かるってことか?」
「そうだねえ。ただ、僕ら二人だけの力じゃ解決は出来ない。つまり……」
「ああ、他に仲間を募る必要がある。それも一人や二人じゃない。もっと大勢だ」
「そうだねえ。君ならそれが出来るかもしれないねえ。君には何処か不思議な魅力がある
からねえ。それが女性を振り向かせるから少しむかつくねえ」
「よしてくれ。俺はそんなつもりはない。俺よりもリルやベルドたちの方が余程魅力的だ
ろう?」
「全然自覚してないんだねえ。僕は君だからこそ力を貸すつもりになったんだけどねえ」
「俺にそんな力は無いよ。ベルローゼ先生のような甘いマスクを持ってるわけでもない
し、シーザー師匠のように戦いのスペシャリストってわけでもない。メルザのように凄い
術を使いこなせるわけでもないし、自分から産み出した術があるわけでもない。誰かに教
わったり、与えられたものだ」
「君が持つ魅力というのはそんなものじゃないねえ。君はいつも誰かのために動いている。
僕にはそう感じられるねえ。今だってどうにかしたいと考えるのは、自分のためじゃな
く、誰かのためになんだろうねえ」
「……この世界に来て、生きているだけでも不思議なんだ。憧れていた異世界の生活。その
始まりは絶望でしかなかった。そんな絶望を変えた少女のために生きている。だから俺
は……メルザが願うことを叶えてやりたくて生きているんだよ」
「だが、君を心配する人はその人だけでは無いんだよねえ。君自身の命を大切にしなけれ
ば、多くの者が悲しむことになることを、もっと知るべきだねえ」

 ジオの言わんとするところは分からなくもない。
 今は子供だっている。国を長く離れていてはいけないのも事実。
 だが……地底をこのまま無かったことにするなんて俺には出来ない。
 リルやカノン、フェルドナージュ様のこともそうだが……やることは沢山あるんだ。
 そしてアトアクルークとベオルブイーター。
 この二つがどうしても引っ掛かって仕方が無かった。
 
「全ての答えは、アトアクルークにあるかもしれない」
「ん? アトアクルークかい?」
「何か知っているか?」
「少しだけだけどねえ。ちなみにフェルドナーガもアトアクルークへ向かおうとしているねえ」
「何だって? あいつは地上と地底双方を支配に治めたいだけじゃないのか?」
「そのために必要なんだろうねえ。そして、アトアクルークを支配するならばベオルブイーター
と戦わねばならないねえ。ほんの少しだけ見たが……倒せるような相手とは思えないねえ」
「そんな化け物なのか」
「あれは化け物なんて生易しい存在じゃないねえ。あれと対峙しようなんて考えるだけ無駄だねえ」

 ベリアルを見る。鳥になったベリアルは喋らず、本当にただの鳥であるかのように行動をしている。
 だが、方時も俺から離れようとはしない。
 魂の共有者……その存在に答えを聞けないのがもどかしい。

「俺の故郷があるのも恐らく、アトアクルークなんだ」
「それは確かに興味深いねえ。どれ、一つそちらも探りを入れてみようかねえ」
「そうだな……今日の採掘も終わった。さて、どの辺りから目星をつけて話をするか」
「それは勿論、女性側の方だねえ」
「……お前な」
「誤解しないで欲しいねぇ!? 情報を入手するのに女性程巧みな者はいないねえ。唯一
許される夜の数時間、元フェルス皇国の宮女の一人に連絡を入れてみよう」
「お前……ニンファ一筋じゃ無かったのか。それならベルベディシアがどうなったか知りた
いんだ」
「誰かねえ? まさか新しい妻候補かねえ!?」
「シフティス大陸に根城を持つ魔王の一人、雷帝、ベルベディシアだ」
「魔王? そんな恐ろしいものをお供に連れて来たのかねえ?」
「連れて来たっていうか勝手に着いて来ちゃったんだよ。それで巻き込まれたんだ」
「それはまずいねえ……どちらも調べておこう。君の方は?」
「食堂で隣の奴に少しずつ聞き込みをしてみる。俺の顔はフェルス皇国で知られてるからな」
「レッドマリンのルインだねぇ。実にからかい甲斐のある呼び名だから覚えてるねぇ」
「恥ずかしいから止めてくれ。それに……星の力も奪われてしまったんだ」
「果たしてそうかねえ……一度身に宿った力なんてそうは失われないと思うけどねぇ」
「そうだといいけどな。それじゃ、作戦開始といこう」

 ジオと話を突き詰め、今後の行動について話し終えた。
 まずは味方を増やし……枷を外す。
 そして装備を取り戻し……騒ぎを起こしてこの国から離脱する。
 当然ベルベディシアやニンファ、フェルドナージュ様も助けたい。
 ルーニーがいればアルカーンさんに連絡を取ることも出来る。

 必要なのは、更なる情報収集だ。

 ――そして翌朝。
 いつも通り食事に向かい、小声で隣の奴に話を振る。

「なぁ。この枷って外す方法とかあると思うか?」
「俺にはよく分からないが、ベルギルガ様が外す方法を調べ回っているらしいぞ」
「ベル……ギルガ!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...